人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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あなたとわたしと 鴻池朋子 ちゅうがえり 7/14

アーティゾンミュージアムに行ってきた。事前予約制だけど当日券もあり。日本橋の高い建物3フロア3企画を予約券ならたったの1100円で見れて全部撮影も可能。
予約すれば大学生まで無料とかマジで何考えてんの?でくらい太っ腹。
建物もオシャレ。カフェ飯も旨い。にわかには信じがたいゴージャスさ。必見。

と言うわけでまずは企画展の話。

www.artizon.museum

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり

ブリヂストンってやっぱ石橋なんだねとどうでもいい感想を抱きます。

以下、すべて作者は鴻池朋子さんです。

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皮トンビ

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メインビジュアルになっている作品。巨大な革に、宇宙が描かれています。
そう、宇宙だと思う。銀ぎつねと、トンビと、オタマジャクシと、惑星たち。全部まとめて宇宙。
もともと
いろんな作品を見ていて思うのだけれど、この人は循環に取りつかれているように思います。ぐるぐるとめぐり、どんどん姿を変えて進んだ先にいつの間にか元のところに戻る物語。自然の摂理。そういうものを感じます。

この作品はもともと2019年の瀬戸内国際芸術祭のために作成されたものだそうです。
大島の屋外に展示し、芸術祭が終わった後もその場に残して半年ほど野ざらしにしてから回収したものなのだそうです。なのでパッチワークのように破れ、補修している部分は風雨にさらされていたんだ部分を修復したものなのだとか。
建物の中ではなく自然の木立の中に、風雨にさらされ蜘蛛の巣の張られた状態で見るこの作品はさぞ迫力があったことだろうとおもう。
夜とか見たらおしっこちびっちゃうかもしれ知れない。
これを見た野生生物はどう思うのだろうかね。

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ジオラマ(大)
ジオラマ

f:id:minnagi:20200716115603j:image洗面器のような器の中に女性?の顔が沈んでるシリーズがいくつかありました。その中の一つ。
レノックス・ロビンスンの小説「顔」を思い出しますね。自然の風景が女性の姿に見えて、それに魅入られてしまった男性が破滅する物語、他にもSFで同じテーマのものを読んだ気がするのだけれどタイトルが思い出せない。

驚いたような表情の女性は本当に生きているのか、それともただそう見えるだけなのか。自らの意志でそこにいるのか、それとも閉じ込められてしまったのか。

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襖絵(インスタレーション

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写真めっちゃ下手じゃん……
会場の中心はこのインスタレーションでした。円を描く坂道をゆっくりと登り、会場に展示された様々な作品を別の角度から見て、滑り台で下に降りる。循環。
体育マットめっちゃ久しぶりに見たよ。
でも僕大人だから…大人は体重が子供より重くて重力加速度が強くて滑り台怖いから…高いところ苦手だから…見るだけでパス。
前チームラボの滑り台めっちゃ怖かったし、あれより角度急そうに見えたんだもん。体育マットだけでは心もとない。

なので下から回り込んでみました。
襖絵は水晶の貼りこまれたものや嵐を描いたものなど、自然をテーマにしたものでした。

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影絵灯篭

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すごくカッコいい影絵が見れる作品がいくつか。
地下の生き物から地上、空の生き物へ。生き物の動き、進化の流れ。そういった時間や空間の連続を表す作品になっています。
全体としてはユーモラスで、でもそれだけでは終わらない鵜すら怖さのようなものがある。

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カービングタブロー 赤熊

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木の板を掘り込んだ、木版画の版木のような作品です。とはいえ版画のために作成されたわけではなく、この彫り込んだ板そのものが作品。
絵本みたいで好きです。日本の昔話のような絵。かわいいだけではない、恐ろしさも含んだ熊の表現。

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オオカミ皮絵キャンバス

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狼の皮???て思ったけど、素材は牛革、水彩、カンヴァスとのこと。
動物の革を利用した作品が多かったです。熊、狼、アザラシなんかも。会場の入り口に「毛皮に触れる可能性があります」と書かれていてなにそれ?とおもったら、大量の毛皮がつるされた通路があったり。
命の存在、生きること、殺すこと、殺さなければならないこと、そうしてめぐる命の循環。そういうことを考えさせられる。
怖かったり、可愛かったり、またユーモラスな作品も多い。でもその裏にはより大きな力の存在があるように思う。

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作品自体の説明というのはほとんどないのだけれど、作者の長めのコラムがいくつもあって興味深く読んだ。
その中で「決められない」というフレーズが何度も繰り返し使われているのが印象に残った。
このアーティゾン美術館での展示で、美術館所蔵作品を3点選んでコラボするように言われたのに決められず、美術館側に決めてもらったこと。瀬戸内国際芸術祭でも何を作るか全く決められないので全然違うことに着手して時間を使ったこと。
こんなに大胆な作品を作る人なのに、発言は随分と、言い方は悪いが優柔不断でそのギャップに戸惑った。

もう一つアレ?とおもったのは作品リストが入り口に置いてなくて、会場の出口にあったこと。ということは作品名とかにはとらわれずにただ作品を見てほしいということなのかなぁ。会場には革トンビを除いて作品名も、何を材料にいつ作ったのかといった情報も全くなかったから、あえてなんだろうなって。
(なのでブログに作品名を書くかちょっと迷ったけど一応書いてます。)
最初に掲示してあった、このコラムがすべてなんだろうと思う。

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ただ作者からすべてを開示し、説明し、それで納得して終わるのではなく、鑑賞者側からも意見の発露を求めているのだろうなと理解しました。
なかなか面白かった。

結構変わってた 西洋美術館常設展 7/7

常設展を見るのは結構久しぶりだったけど、結構変わってたよ。前からある三連祭壇画の位置が変わってて、扉の裏もチラッとだけど見れるようになってて興味深かった。

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アンリ・ファンタン=ラトゥール「聖アントニウスの誘惑」

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アンリ・ファンタン=ラトゥール | 聖アントニウスの誘惑 | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

ロンドンナショナルギャラリー展に対応して、コレクション内のイギリス絵画のミニコーナーができていました。

好きなんですよね、ラトゥール。薔薇の画家。
きっちり写実的なイメージの強い画家ですが、こちらの絵画は夢の中のようにぼんやり淡いタッチで描かれています。風に吹きすさぶような表現は、アントニウスの体験する幻惑の中のような非現実的リアリティを感じます。自分もその幻覚の一部に取り込まれてもてあそばれているような感じ。
すごくいいですね。

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ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ「古代建築と彫刻のカプリッチョ

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ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ | 古代建築と彫刻のカプリッチョ | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

こちらはイギリス絵画コーナーではないけれど。
この理想風景画もロンドンなしょらるギャラリー展に通じるものがあります。
18世紀にイギリス上流階級の子息たちが学業の集大成としてイタリアをめぐるグランドツアー。この絵画もその記念として求められた風景画の流行の一部であると思います。
カプリッチョ」という「幻想」は現実の風景ではなく、イメージに合う建物などを自在に組み合わせた、現実に存在しない絵画であることを表しています。 

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ウィリアム・アドルフ・ブーグロー
左「武器の返却を懇願するクピド」
右「クピドの懲罰」

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ウィリアム・アドルフ・ブーグロー | クピドの懲罰 | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

ウィリアム・アドルフ・ブーグロー | 武器の返却を懇願するクピド | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

ともに初展示作品です。
なんか変わった絵。壁画みたいだけれど普通に持ち運びできる板に描かれた油彩。背景真っ白で、どういうところに展示する目的で描いたのだろう?と調べてみたら、装飾パネルだった模様です。

nmwa.repo.nii.ac.jp

硬質で古代的な表現。強い非現実感。それが神性の表現となっているのかもしれません。

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フランシスコ・デ・スルバラン「聖ドミニクス

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フランシスコ・デ・スルバラン | 聖ドミニクス | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

カッケー!とにかくカッコいい絵画です。すごく大きくて迫力があり、凛とした力強さがあります。そして犬がかわいい。かわいい。カッコいい。それだけでいい。

ドミニコ会修道院の創設者、聖人ドミニクスの肖像です。右にいる犬が咥えているのは書類かなんか課と思ったけど松明とのこと。その炎は画面に描かれていないけれど、後光のように聖ドミニクスを照らすことでその存在を示唆しています。
というか、暗闇から人物を浮き立たせる仕組みとして使用されているわけですね。ドラマティックで面白い仕掛けです。
この額縁も絵画にぴったり合っていてめちゃくちゃカッコいい。ポストカードとか作るなら額込みでやってほしい。だいすき。

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バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「聖フスタと聖ルフィーナ」

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バルトロメ・エステバン・ムリーリョ | 聖フスタと聖ルフィーナ | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

ムリーリョといえば無原罪の御宿り。その華々しさはないけれど、しっとりとまとまっていて、しみじみと良い絵です。下絵なんだね。
都市の守護聖人が、その都市の象徴的建物を持っているというのはなんだか不思議な構図に思えるけれど、たぶん割と当時はよくあった構図だと思う。他でも見たことがある気がする。
ざっくり描かれているローブの美しさ、色彩配置がやっぱ実力者だなって思う。

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展示替えがあると新しい絵が見れてわくわくする反面、お気に入りの絵がなくならないかとドキドキしてしまう。

私のお気に入りはこの辺です。

エドワールト・コリール | ヴァニタス-書物と髑髏のある静物 | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ | ヴィーナスによって天上に導かれるヴェットール・ピサーニ提督 | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

ギュスターヴ・ドレ | ラ・シエスタ、スペインの思い出 | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

ジョアン・ミロ | 絵画 | 収蔵作品 | 国立西洋美術館

特にギュスターヴ・ドレが好き。そしてジョアン・ミロは順路の最後にあることもあって、ベンチに座ってゆっくり鑑賞したい作品です。
お勧めだよ。

ひらひら落葉 内藤コレクション展 7/7

 国立西洋美術館のコレクション展。去年やっていた内藤コレクションの第二弾です。
中世の写本の、本そのものではなくそれから零れ落ちた一ページや挟み込まれるはずだった片割れたちを集めたコレクション。もののあはれ

www.nmwa.go.jp

 

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すげー豪華で美しいなぁと思うけどあんま詳しくない。

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ゲッティ美術館10番写本の画家に帰属「時祷書より:王座の聖母子」
聖母への祈祷:Obsecro Te(あなたに切に願う)

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時祷書というのは、いつどんな祈りをするべきかというスケジュール帳的なやつですね。そんなしょっちゅう祈ってたのかよと思うとちょっと引く。

時祷書 - Wikipedia
今回は特に挿絵が大きく描かれたページが多かったです。
ただ本文を手書きで映すだけじゃなくてこのクオリティで挿絵を手書きしてたなんて、そりゃ本も貴重になるはずだわと思う。

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とりなしの祈祷の画家「祈祷書より:離婚について議論するキリスト」

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既存の写本に挿入してその美的価値を高めるために制作されたものであり、それゆえに左側の余白が広めにとられている。もっとも、当時の所有者は、本葉をそうした目的に用いる代わりに、刺繍の縁取りを施して、小型絵画として鑑賞していたようだ。

本体は獣皮紙で、その周りに布を継ぎ足している模様。詩集部分は退色してしまっていますが、たぶん鮮やかな色だったんだろうね。発想が面白いなと思う。
そして、写本の一ページがどれだけ貴重なものとされていたのだろうか、と。

離婚についての議論の結果、気にならない?

www.wordproject.org

離婚すんなって言ってるね。

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イングランドの画家「祈祷書より:イニシアルDの内部に『磔刑』」

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めっちゃ突っ込みどころが多い。
ページ下部の横向きの人?の顔が気になる。鼻が気になりすぎる。何者だお前は。その鼻の下からいったい何を垂らしているんだ。
キリストの体にめっちゃブツブツがあるのも気になる。おそらくはロンギヌスの槍で突かれ、まだ生きているか検分しているシーンなのだと思う。にしてもそんなに何度もブスブス刺すわけないでしょう。なんなんだいったい。

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小さいコーナーで小さい絵。描いたのも写本技術者であって画家ではない。クオリティ的には微妙です。でもいろいろ想像すると楽しいコーナー。
写本技術についての解説がたくさんあるのもよかったです。

予約の良し悪し ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 7/7

コロナの影響ですっかり足が遠のいていた上野へ。駅に着いたらまず改札の位置が変わっててびっくりしたよ。気持ち鶯谷方面にずれていて、横断歩道がなく直接上野公園に入れるようになってた。便利。まだ工事中っぽかった。公園案内板も併せて移動してくれると助かるな。

と言うわけでしばらくぶりの国立西洋美術館。現在は当日券は販売しておらず、事前にネットやコンビニで日時指定券を買わなければなりません。
空き具合としては、平日ならこんなもんじゃね?という感じ。土日でもこのくらいになるなら嬉しいかも。しかし、時間が空いたからふらっと行く、というわけには行かなくなったねぇ。せっかく上野まで来たんだから、もう一個くらい見れないかな?と思っても休みだったり事前予約が必要だったり。
早く落ち着かないかなぁ……
artexhibition.jp

www.nmwa.go.jp

今回はロンドン・ナショナルギャラリー展。ナショナルギャラリーは英国国立なのにもともと銀行家個人コレクションを起点として市民の寄贈をメインに成り立っているという変わった美術館です。
テート美術館とか、寄贈しようとしたら「置く場所がない」って断られたから建物ごと寄贈したとか言うちょっと信じがたいスケールの話があったりする。なんていうか、イギリスの金持ちはガチ金持ちだなって思う。

他の国の、王族のコレクションが中心の美術館と作品傾向として何が違うのかなぁって思ったけど、広大であろうコレクションのうち61点からは何とも言えないなぁって思った。
ただ、たまたま今回の展示がそうなのか本当に全体がそういう傾向なのかはわからないけれど、王族の肖像画みたいなのはなかったです。
王族のコレクションは別の美術館があったりするんでしょうな、たぶんだけど。

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パオロ・ウッチェロ「聖ゲオルギウスと竜」

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会場の最初に飾られている中世絵画。静謐な感じが美しいです。なんか芝生?地面が不思議な感じだけど。

物語を知らないと、女の人のペット竜を騎士が殺しているように見えるけれど、実際には龍にいけにえとしてささげられた姫を助けようと騎士が駆け付けたシーンです。
竜の造形が今とはすごい違うというか、この羽の目玉模様とか、絶対思いつかないよなぁってゾワゾワする。すごい上質な絵本の絵みたいで好き。

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エル・グレコ「神殿から商人を追い払うキリスト」

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アウトサイダー感が、より正確に言うと教信者感がすごい。
この題材もだし、この題材なのにこの人口密度もだし、いろんな人のポーズ、特に左下で天を仰ぐ少年の異様さが実際に見るとめっちゃ気になる。キリストの体型より気になる。
神殿の壁のレリーフ、左がアダムとイブの楽園追放のシーンで、それはまあこのシーンにあってるかな、追放つながりでって思う。
でも右が多分アブラハムが息子イサクを神にささげるため殺そうとしているシーンぽくて、どゆこと?商人たち殺されるの?緊迫感なの?って気になりまくる。

この絵を見ていて、小学校の美術の授業のことを思い出した。
美術の先生は絵を描くときに「黒を使うな」とやたらいう人だった。「自然界に黒という色はない」と言われても当時の私は「でもパンダの耳は黒い」くらいにしか思わなかったけれど、今なら言いたいことは大体わかる。
先生は「黒いところを黒く塗るな」というよりも「暗いところを黒く塗るな」と言いたかったのだろう。たとえば白いシャツの皺は水色や薄いベージュ色であって、ただ白に黒を混ぜた灰色ではないということが言いたかったんだろうと思う。(そう言ってくれればわかったのにな)
要するに、この絵めっちゃ黒使ってるなって。それがまたアウトサイダー感出てるのかなって。
気迫を感じる。

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ポール・ゴーガン「花瓶の花」

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すごく美しい絵。1896年の絵なので、二度目のタヒチ滞在中に描かれたものでしょうか。南国の花なのかな。その割にすごくおとなしくきれいにまとまっているというか、一種日本的なものも感じます。あまりゴーガンらしくないといってもいい。
背景の中にふわりと浮かぶ花。蝶のように羽ばたく白い小さな花。しっとりとしたアイリスのような花。夢のような世界。
机の上にこぼれ落ちる花は時間の経過を表しているようだけれど、静かに咲き誇る花瓶から時折ポトリと花が落ちる時間が永遠に続いていくように感じる。

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ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー「ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス

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かっこいいね!ターナーはこういうプレ印象派的な、幻想絵画が好きです。
朝開きのなか誇らしげに出港する船、その帆の奥で身悶える巨人、水面で船を導くような水の精。勝利の絵です。太陽にはアポロンの馬車が描かれていると解説にあったけれどしかとはわからない。よく見ると、右の船のすぐ上に馬の首があるような?

色合いとかがちょっとルドンっぽいなぁと思います。ルドンより細かく、力強いけど。
こういう広がりを感じる絵がとても好き。あと最近単純に水面の絵が好き。
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ジョン・コンスタブル「コルオートン・ホールのレノルズ記念碑」

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展示の後半にある絵。見た瞬間、単純に好きだなって思った(どうでもいいけど、結構黒いですねこの絵も)
王立芸術院初代会長のジョシュア・レノルズの記念碑の左側にミケランジェロ、右側にラファエロというルネッサンスの巨匠胸像が描かれています。
ルネサンスから、この絵を描いている画家自身のいる現代までの美術の系譜を、それを受け継いで発展させていくという気概を表しているとのことです。だとしたらこの鹿はムーサからの霊感なのでしょうか。
凛とした、力強い絵です。そしてこの絵を展示するナショナルギャラリーの「この志を受け継いでいく」という気概を感じます。

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作品数は61とそれほど多くはないのだけれど、しっかりと見ごたえのある絵画が多いです。
モネ、ゴーガン、ゴッホとそれだけで目玉になる画家がたくさん来ているのも豪華で、本当ならもっと混みそうなもんだと思います。個人的にはほかにもアングルやアンリ・ファンタン=ラトゥールが来ているのが良かったよ。
面白かったです。

株式会社TMPを退職しました。

はてなブログでは退職エントリがウケるって聞きました。

あ、会社名は仮です。

 

入社の経緯とか

新卒で入ったのは小さなIT企業でした。システムに関わる社員は実質30人くらいかな。意外と古いけど小さな会社でした。*1

震災の少し前にたまたまその会社が社長を交代します。たまたまその後IT業界全体が大きく傾いて、今まで社長のツテで来ていた仕事が全く来なくなり、会社がヤバくなり、残業前提の給与体系だったので生活が辛くなり、その割に出来る人から辞めていくので仕事の負荷は大きくなり…というわけで逃げるように辞めたのが2011年。

その後全然違う業界にバイトで入ったら、私があんまりにも使えなくて、雇用契約書ができる前に解約打ち切りになりました。事務向いてねぇ。*2

そんでまぁ流石に未経験部門はダメだ、でもガチITデスマーチはやりたくねぇ、というわけで、WEBマーケティング会社のIT部門にバイトで入りました。そしたら流石に未経験バイトに比べりゃ仕事はできるわけで、サクッと出世してバイトリーダー的なやつになり、そのまま数年ダラダラした後サクッと正社員になりました。

 

最初は良かった

デスマーチに疲れた末端IT土方に、異業種のWEBサービス部門はオススメです。とにかくゆるい。のんびりできる。
新規立ち上げでもない限り、基本システムはできていて、その追加や修正がメインになります。なので大きな仕事はなくて達成感はない代わり、とにかくのんびりできます。

そして、周りのレベルがとても低い。

IT系企業じゃないから当然と言えば当然なのですが、とても技術水準が低い。なので、すぐにヒーローになれます。具体的にいうと、小数点計算の有効桁数を知ってるだけで凄い人扱いになる。

 

じゃあ何が嫌になったの

周りの技術レベルが低いことですね…

有効桁数も通じない人と仕事をするのはまあまあ辛いわけですよ。わかるだろう、普通に考えて。

教えればいいじゃん?と言っても、離職率が高くて常に何も知らん人が仕事を持ってくる。辛い。
例えばだけど、エクセルとかの行と列の違いがわからない人が異様に多かった。*3ひたすら「これはどういうことだってばよ」な作業指示の確認をやるの、辛い。「本当の本当にこれでいいんですか」って確認したものが「やっぱ違いました」って何度も来るの辛い。*4

なんつーか、技術レベルってレベルに達してないんだよね、この話。

 

退職理由はひとつじゃない

それでも私より業界経験が長くて社内システムに詳しい人が多いうちは良かったんですが、そのへんがやめて、代わりに凄く使えないバイトや新入社員が来ると本当に辛かった。

どのくらい使えないかっていうと、割り算の「余り」が通じなかった。*5でもこの人最初は異様に自信満々だったんだよね。*6それでこれだからびっくりするよね。

そういえば他にも一人、余りを算出するのにPHPで%が使えない人がいたな…余りって難しい概念なのかな…*7

なんでだかそういう奴に限って無闇矢鱈に自己評価が高くて、ミスを指摘して修正するように言うとやたら突っかかってくるのも嫌だった。*8指摘しないとチェックした俺のミスになるのにやたら反抗されるし何度も同じミスするんだもん。そんで嫌われて絡まれるとか、割りに合わなすぎる。

他の人も、同部署の人も別部署の人も意思疎通がなんか難しかった。*9

ていうか、部長の人を見る目がなさすぎてガチでヤバイ奴*10ばかり採用するもんだから辛かった。仕事ができないとかいうレベルではなくヤバい奴*11ばっかりで、ほんと辛かった。なんでみんな気にしてないんだろうか。

そういう人がバイトならまだ1,2年で辞めるからいいんですけど、正社員として採用しちゃった人が本当にダメな人だったのがマジつらかった。*12
そんなんばっかりだから、ちょっとめんどくさい仕事は全部みなぎにやらせりゃいいやみたいなのがお決まりになるのが心から嫌だった。*13

ダメだ、この会社にいたやばい奴の話をしていたら終わらない。

要するに、周りじゅうなんか話が通じないんですよ。

 

最後の藁

そんな有象無象のいる職場で最後に心が折れた原因。
それは申し送り書に「ここを変更する場合は必ず修正依頼をしてください」って書いて終わらせた作業について、別の人が連絡なしに変更してトラブルになったのを、僕のせいにされたからだよ☆
口頭で何度も念押ししない僕のせいなんだって☆
ドキュメントはなんのためにあるんだよ☆☆☆
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
潰れちまえ

 

反省がないでもない

レベルが低いのは最初から分かってたんだから、とっとと転職すれば良かった。

あと、このご時世だから送別会とか無かったんだけど、ついでに言うと上記のような方々だしこの会社の送別会は新宿で夜飲み放題込み3千円*14と言うのが定番コースなので本当に無くて良かったと思ってはいるんだけど。

それでも、個人的に送別会やろうぜ!と言い合える人間関係を作れなかったのは私の人格的な問題だろうなぁと思ってる。*15

お山の大将でいるのは最初は楽だけど、長く続けるのはつらいんだなってのを知ったね。頑張らずにストレスなくお金だけ貰える仕事はないのだろうか。

 

それからどんどこしょ

しばらくは無職やります。*16

ただ、コロナがいつまでも終わらないのが想定外だよねー。京都人がずっと家でリモートワークしてるとさ、いくら「好きに遊んでいいよ」って言われてもちょっと気になっちゃうよね。内緒で遊びまわりたい。

そもそも遊びに行く先がコロナで開いてるか微妙っていう!遊びたい!

 

総括

自分のレベルに合う所属先を見つけるのって大事だけど難しいね。部内で3番手くらいで、初級者はいても無能はいない、くらいがちょうどいいんだけどなあ。

 

おまけ

無職祝いください

www.amazon.jp

*1:当時は4次受け会社名隠さないといけないし常駐先の入退室カード貰えなくてつれー!とか思ってた。セキュリティエリア内にトイレがある客先はアタリの客先。

*2:遅れてた歓迎会の日が最終出勤日になったので、当然出席しませんでした。飲み会やったのかな。変な空気だっただろうな。

*3:「このテーブルの列をこうしてください」て言われて対応したら「すみません、さっきの依頼縦じゃなくて横でした」ってなる。なんなら、縦と横も間違える人が多かった。辛い。

*4:なんなら「問い合わせの口調がきつすぎる」って怒られるの本当にやってらんない。

*5:「あまり」って日本語が通じなかった。「アマリって何ですか?聞いたことないです」って言い張られた。小学生レベルのさんすう…

*6:バイトとして入社1ヶ月未満の時点で「この会社のシステム非効率ですよね。僕が全部直してあげましょうか?僕、PHPの本持ってるんで」って言い放った。”本持ってる”ってなんだよ。"書いてる"レベルになってから言え。

*7:%を使わずにどうやって余りの計算をするかって?見て驚け。
$chkVal = 550;
$cnt = 0;
for ($i = 1; $i <= $chkVal; $i++) {
    $cnt++;
    if( $cnt == 6 ){
        $cnt = 0;

    }
}
return $cnt;
これが、550を6で割った答えを返すプログラムDEATH!!!!書いたのは新卒未経験とかじゃないぞ。中途の経験採用者だぞ。車輪の再発明ってレベルか?

*8:ひたすら粗さがしをするようになり、ついには私が試験期間半年を経てリリースした共通処理関数の内部変数名が気に入らないから全部書き直せって、リリース後数ヶ月経ってから言ってくるとか。直すわけねーだろ今更。試験期間中に言え。

*9:「以下4点返信ください。1…2…3…4…」ってメールしてるのに、返信が「大丈夫です!」の一言だったり。突っ込んで聞くと大丈夫なのは1つだけで他は全部伝達漏れがあったり。

*10:「パソコン教室でもう何も教えることがないって言われました」って触れ込みだったけど、ForEachが書けなかった。プログラム教室ではなかったのでは?ダブルクリックとか習ってたのでは??

*11:仕事中にネットサーフィンしながら笑ってるから何かと思ったら、葬儀会社のHPを開いて「この2歳の女の子の葬儀とってもいいんですよ」って言われた。怖いよ。

*12:エンドクライアントにコーディングミスが発覚してすぐ直せって営業から連絡来てるのに、それを聞いてから優雅に豆を挽いてコーヒーをドリップし始め、見かねて注意したら『今から昼休みです』って言い放った奴とかな。せめて誰かに仕事引き継いでくれよ。急ぎなんだから。

*13:たまに別な人に振られたなと思って見ていても、結局難しくてできませんって戻ってくるっていうね。

*14:逆によく見つけるよねそんな店。もちろんおいしくはない。

*15:でもおんなじくらい、いや無理だよねって気持ちもある。

*16:専業主婦って言うより無職って言ったほうがこう、気分が良い。

海の泡 真珠―海からの贈り物 6/21

渋谷の松涛美術館で「真珠 ― 海からの贈りもの」展を見てきたよ。
休館が長かった分、9月まで会期を延長してくれています。助かるね。

shoto-museum.jp

チケットです

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パール(模造可)のアクセサリーをつけていくと200円引きになるからお勧め。

古代文明縄文時代から真珠は使われていたはずだが、何せ有機物なので副葬品になると分解されてしまい、土台の金具しか残っていないとか。
江戸時代は偶然真珠貝から産出された真珠を「御喰出し」と呼んで珍重していたとか。
真珠貝は全体的には美味しくないけど貝殻部分だけはうまいとか。
普段美術館ではとても学べないようなことを学べてかなりおもしろかった。

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「シードパールネックレス&イヤリングセット」 19世紀初期 イギリス 

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養殖真珠技術が確立するまでは、基本的に丸くて大きな真珠というのはほぼありません。バロックパールが流行ったりしたのも、それが原因なのかなぁ。
それでこのシードパールという直径数ミリの小さなビーズのような真珠がメインで使われています。
しかしこれが全部天然真珠かと思うと途方もない量どうやって集めたんだろうと気が遠くなる。この2,3㎜の真珠全部穴を後から開けたんだよなと考えると方法すら正直わからない。
下手したら他の宝石や貴金属より貴重品だったりするのでは…
シードパールの品は上品なデザインが多くてとても良い。けどさすがに時代的にちょっと派手だなぁと。

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帯留「桜」 御木本真珠店  1908-1912(明治41-大正元)年

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 帯留めだけど普通にブローチとして使えそうなデザイン。シンプルでスタイリッシュ。現代でも普通に使えるデザインです。
さすが、真珠王ミキモトの製品です。世界初養殖真珠に成功しただけのことはある。
今回は展示の半分がミキモトのものでした。
展示物はそれほど多くないけれど、面白かった。

お買い物の話

そういえば、自粛中に絵を買いましてん。 

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絵、といっても生絵じゃないんだけどね。今増えてるオリジナルグッズ作成サイトの吸着タポーリンという変な素材。
ポスターみたいなやつです。

suzuri.jp

とはいえ受注生産だからミクストメディアの作品ということにしてよいだろう。

 

上のイカみたいなやつがね、いいんですよ。
テッド・チャンあなたの人生の物語」のヘプタポットみたいだと思う。足の数全然違うけど、見た目の話じゃなくて。

薄闇の中から現れる異形として。私たちよりも非常に高い知性と乖離した文化を持つもの。言葉の通じない、古代であれば神と呼ばれたもの。いあいあ。

 

それに比べれば、下中央はだいぶ意思疎通ができる感じがする。ホーンテッドマンションにいそうな感じ。妖怪というよりは幽霊。ただし狂人の。(とは言え、幽霊になってしまってから正気を保てるものなどいるだろうか?)

こちらの方が狡猾で意思疎通できる分厄介そうな感じ。

 

まあそういう感じで、なんかこう異世界への窓みたいで良い。
特に意識しなかったけれど、こうしてみると全部異形の絵だね。王様は猫のほうが本体です。

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話はずれるけれど。

創作物においてその解釈はどの程度受け手にゆだねられるのだろうなぁと考えている。
例えば上にずらずら書いたことだって、私が勝手に書いただけで作者は全く想定もしていないことじゃないか。ヘプタポットが描きたければ足を2本で描くわけないのだから。

けれど当然、創作物の解釈は受け手にゆだねられているわけです。作者の指定の物語以外を受け取るなと言われても無理だし、そんなこと言ったら長々とした解説文をつけてもらわなければならなくなる。

とはいえ、その「受け手にゆだねられている」というのにも限度があって、あまりにも突飛な解釈については「間違い」と言わざるを得ないときもある。
ピーターラビットの絵に「すごいリアルな宇宙人ですね!」と言われたら、たとえ本人がどんなに本気で言っていても戸惑いしかないじゃないか。
ごんぎつねを読んで「ごんはストーカーですね」くらいは許容範囲だけれど「全部たぬきの陰謀ですね」って言われたら、この人は何を読んだんだ?ってなるじゃないか。

でも、程度問題でしょ?そんなの程度問題でしょ?
それってどうなんだろうね。

感想……それは個々人の受容体験……(アメリカ哲学)

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というわけでこれはとても良いものだと思う。
Suzuriサービスさんには、ぜひとも普通のポスターやポストカードといったグッツの販売に対応してほしい。
絵はさ、絵として買いたいんだよ俺は。
服にプリントしたら薄くなるし、携帯ケースなんかそんな複数欲しくないんだよ。
フツーに紙に印刷して額に入れてほしい。もしくはクリアファイルとかでいい。
受容あると思うんだけどなぁ、ポストカード。