人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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フォトジェは死語 #映える風景を探して 6/5

世田谷美術館に行こうとしたら予約が瞬殺ですべて埋まっていけなかった…
ので町田市立国際版画美術館。このご時世、予約なしで入れてくれるありがたいところです。

hanga-museum.jp

風景画の始まりから、グランドツアーや古代遺跡の発掘による”ピクチャレスク”な風景画が爆発的に人気となった時代を経、写真の登場により「記録複製媒体」としての役割を失った風景版画の行く末を追っています。
風景画はその性質上写実が求められるもので、だとしたら究極的には誰が描いても似たようなものになりそうなものなのだけれど、それでもやはり個性が強く出て面白いものです。

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レンブラント・ファン・レイン「三本の木」

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エッチングで本人制作の模様(原画のみの場合はそう明記されるから)

一目見た瞬間、やっぱすげえな!って思います。力強さが違う。レンブラントらしくぐっと明暗のきいた画面。雲の様子や車線は雨を表しているのでしょうか、いい感じに画面が引き締まっています。
(下の方だけ黒いのはガラス面の反射)

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カナレット(アントニオ・カナル)「河岸の眺め」

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これは京都人がとても気に入った絵。
カナレットって検索するとディズニーシーの情報がまず出てくる。彼の名を冠したレストランがディズニーシーのヴェネツィアン・ゴンドラの横にあってね。それは運河を描くことにかけて定評のあったこの画家の名前にちなんでいるんだよ。

風を感じるような繊細な描写。明暗のコントラスト、水面の映り込み。
京都人が何をそんなに気に行ったかというと、線だそうです。こういう線描で、横線は珍しいと。しかも1つのタッチが長く折り返しながら進んでいくのはなかなかないということでした。
なるほどねぇ(京都人は芸術家一家の出で、本人もリトグラフをやっていたことがあるんだとか)

一枚手に入らないかなぁというので軽く検索してみたけれど、油絵複製画は売ってるけど版画はポスターすら手に入らない。人気ないのかなぁ?

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デイヴィット・ロバーツ「エドフ神殿の柱廊式玄関部分」

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リトグラフに手彩色だって。さすがにこの色は版画では出ないか。
すげえ。臨場感と圧倒的なリアリティ以前にめちゃくちゃにかっこいいし、見ていてすごいわくわくする。
討ち捨てられた砂漠の神殿の「発見」はこうやって行われたのだろうね。

 

現在はこうなっているみたいです。掘り起こしたのかな。スフィンクスがほとんど砂に埋もれてる絵とかもあったよ。掘り起こした砂はどこに行ったんだろうか。

www.istockphoto.com

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作者不詳「眼鏡絵 パリのブールヴァールグラン・カフェからパリ市貯水場付近を眺める」

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眼鏡絵とは鏡とレンズを組み合わせた光学装置「のぞき眼鏡」を通してみることを前提として作られた版画です。

とのことですが、その肝心の覗き眼鏡がない。残念。
余談だけど、クロード・グラスが展示されてたけどだいぶ低い位置にあったからすごく見づらかったし、ステレオスコープの本体と対応した写真もあったのに、本体にセットされてなかったから立体視できなかった。なんでや。一枚くらいセットしてくれや。なんならレプリカでもいいから。

まあそういう仕掛け前提の絵だから絵単体で見てどうというやつではない。というか遠近法きつすぎておかしいんだけど、消失点が視界の中央に来るようにして見ると、立体感が急にワッてくるのが面白い。ぜひ試してみてほしい。

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ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー「『ヴェニス、12点のエッチング集』より ラグーナ(湾)」

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今までとは打って変わってひどくシンプルな絵。
これは1880年の作品、写真が普及した後の作品だからです。報道として伝えるという使命から解放され、絵画芸術のように自由に描くことができるようになったのですね。
多分写真の普及で版画技師たちの仕事は大きく減っただろうけれど、こうやって新しい表現を得ることもできてよかったんだろうな。現場の職人たちは困っただろけど。

最低限の線で描かれた海の様子。船で働く人々や波の表現がシンプルに、でも正確に表現されていて、印象派のようです。これを見て最初に思い出したのが「印象・日の出」ああいう完璧な世界がここにある。特に海の部分がものすごく大胆で、自信がないとこの表現はできないなぁと思う。好き。

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すごくいい展示でした。やっぱり風景画は見ていてすごく気持ちがいいなぁと思う。
ターナーブリューゲル、ミレーなどの大物作家の作品も多くて豪華でした。

おすすめ。