人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




にほんブログ村 美術ブログ 美術鑑賞・評論へ
Push
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
Push

Push

Push

偏執狂的分割 吉田博展 3/13

東京都美術館も予約なしで入れるようになってきた。
「ダイアナ妃も愛した」というキャッチコピーで開催されている吉田博展だが、写真が1枚あるだけでとくにダイアナ妃がフューチャーされているというわけではない。
彼女が吉田の版画を2枚所有してオフィスに飾っていたのは事実だけれど、それについてのコメントとかがあるわけではない。別にダイアナ妃目当てに行ったわけじゃないからいいけどね。

yoshida-exhn.jp

 吉田博は明治生まれで久留米出身の日本の画家。明治、大正、昭和初期にかけて活躍した人です。画風的には洋画でメインは版画という日本にしてはちょっと珍しい人。

アメリカに自分や友人の絵を売りに行ったら油絵が全然売れなくて版画ばかりが売れたという経験から、版画をメインに据えたそうです。職業画家だね。

吉田博 - Wikipedia

「渓流」

f:id:minnagi:20210321150521j:image

これは画業初期の油絵作品。結構大きい。けどなんか油絵っぽくないんだよね。特に背後の崖とか。なんか水彩みたいな色をしている。色っていうか、描き方?グラデーションというよりきっちり色分けしてる感じ。

この人は元々水彩の人なんだなっで思った。

---

左「帆船 午後」
右「帆船 夕」

f:id:minnagi:20210321150947j:image

同じ版木を使って一日の移り変わりを表したシリーズ。なんか印象派みたいなことをやってるね。色が違うだけでだいぶ印象が違います。

そして版画ならではの技として、版木の組み合わせを変更して少しだけ風景がかわっているのが面白いところ。背景左側の小舟、午後にはいなかったのが夕方やってきたというところでも時間の経過を表しています。

---

「陽明門」

f:id:minnagi:20210321150517j:image

かなりの作品に「自刷り」って書かれていたのでふーんくらいにしか思ってなかったのですが、吉田は下絵を描いて、版木の彫りは基本的に職人に外注していたそうです。

版画というのはご存知の通り色ごとに何枚かに分割した物を使用して重ね刷りをする物ですが、この作品がどれだけ分割してるかっていうとか96分割だって…どうかしている。

作品のサイズはせいぜいA4くらいなんだよ?そんで96色たしかに使ってますなあってほどカラフルな作品でもない。どこをどうそんなに分けたのかわからない。

そんで一番わからないのは、職人にどうやって支持を出したのかなぁ?てところ。まさか彫り職人が96枚に分けましょうって提案したわけじゃないよね、多分。コピー機のない時代、トレペやカーボン紙でよくずれずに複写できたなぁとも思うし、全体的にやべえとしか言いようがない。

作品自体はスッキリとまとまっていて、どちらかといえば実物の東照宮より大人しく寂しげですらある。

---

「フラワテプールシクリ」

f:id:minnagi:20210321150513j:image

吉田は海外を多く旅し、各地の情景を版画に残しています。アメリカの国立公園やインドのタージマハル、エジプトのスフィンクスなど。そんな中の一枚です。

インドの、今で言うファテプール・シクリ。16世紀アクバル帝の旧都です。検索してみるとこの都庁的な格子窓の建物の現在の様子を見ることができます。

室内にいる男達を通して眺める光あふれる格子窓。逆光で暗く感じる手前に対してまるで海のように輝く外は魔法の国のよう。強烈なノスタルジー、異国情緒を感じます。

---

全体的に、波立つ水面に映る複雑な世界がとても美しい作品が多かったです。そして登山家だったと言う彼のライフワークであったであろう、世界中の名峰。人物、動物などバリエーション豊かで楽しめました。

吉田自身は洋画家、それも水彩画が専門の人なのでしょう。しかしその下絵を版画に起こした職人達は時代的に浮世絵職人だったはずです。表現方法は決して日本画ではないのにどこか浮世絵めいた日本らしさが漂う世界。そんなところが海外からも愛されたのかもしれません。