作者と解釈違い 開館記念展 珠玉のコレクション 7/29
私事だが、うちにはプリンタがない。基本的にこのネット社会でプリントアウトしたいものはなかなかないし、今まではどーしても印刷しなければならないものがあったら、職場のプリンタでこっそり印刷すれば済んでいたのだ。
しかしこのコロナである。職場プリンタが使えない。仕方ないので最近はコンビニのマルチプリンタを使用している。高いが仕方ない。
そしたら突然、百枚ほどカラー印刷をする必要ができてしまった。コンビニでこれをやると、普通に五千円かかる。
ふぁーっく!!!
仕方ないのでわざわざ交通費をかけて新宿のセルフプリントサービスに行ってきた。だってそしたら二千円代で済むんだもん。
と言うわけでなんの関係もない前置きが長くなったが、もう定期もないのにわざわざ新宿まで来て直帰は無いわ〜となったので行ってきたんだよ、SOMPO美術館。
もともと新宿西口の損保ジャパン日本興亜損保ビルの上階にあった美術館ですが、今年リューアルが完了しました。メインビルの横に五階建ての小さなビルを建て、美術館として専有しています。象みたいでかわいい。元々は一階を地域に開放したかったんだろうなあと言うコンセプト図を見るとちょっと悲しくなるが、普通にコロナなので日時指定券を買わないと入れない。平日の午後だからか、普通に当日チケット取れたよ。フロアに5人くらいしかいなかったよ。
今回は所蔵品展と言うことでちょっと期待してたんだけど、基本的には撮影禁止でした。ちぇっ。FACEの受賞作とか前撮影できたじゃんかよ〜とか言っても仕方ない。
数点だけ撮影できたよ。
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ポール・ゴーギャン「アリスカンの並木道、アルル」
すっごい綺麗。ずっと見てられる。秋の田舎町、紅葉、そして積もる落ち葉。時間のとまったような世界で、落ち葉の輝く道だけがまるで川のようなこちらに流れてくる。控えめな輪郭線が全体を整えているが、イラスト感があるともいえる。画面の上半分に関して言えば非常に大人しく、彩度を落として落ち着いたトーンであるのに対し、地面から迫る色彩の奔流が非常に心に迫る。あっさりしたタッチなんだけどぐわーってこっちに流れ落ちてくるものがあるんだ。
最近読んだ本に絵を見る視点として「この絵は左右どちらから見たほうが良いか」と言うのが書かれていたのだけれど、この絵に関しては右側かしらね。この色彩の流れを直接浴びて押し流されたいと思う。
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ピエール=オーギュスト・ルノワール「浴女」
こちらは今回の展示に合わせて修復をしたそうだ。作業前後の写真がかかっていたが、ぱっと明るくなっているのが印象的だった。そう、油絵って古いの表面が黄変するんだよね…
さらりと描かれた、後期ルノワールらしい絵だ。全体的にふわふわとして夢の中のような世界。近景も遠景もないような画一的なトーンで描かれた不思議なシチュエーションの背景だが、リズム感があって良いと思う。
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グランマ・モーゼス「夕暮れ、森のキャンプ」
グランマ・モーゼスの珍しい刺繍絵。
いきなり個人的な趣味を言うけど、私、グランマ・モーゼス嫌いなんだよね。初めてこの人の絵を見たのは中学の英語の教科書だったと思うけど、その頃から嫌い。アウトサイダーアーティストとしても迫力ないし、ファインアートとしてはもちろん実力が足りない。アーリーアメリカン、大草原の小さな家的な世界観で当事者作品としては意味があるかもだけど、芸術的には無駄にチヤホヤされてると思う。単純に下手じゃん。(言い過ぎ
しかし、この絵はいいなぁと思った。そしてもう一枚、夕暮れを描いた絵もちょっと良かった。
彼女の絵は基本的に本人の楽しい思い出なのだろう。青空の下、素朴な町の中に遊ぶ人々が描かれているものが中心だ。だけど私は彼女のその手の作品があんま好きじゃない。
私が彼女の作品を取り扱う画商だったら「もっと赤い絵、人のいない絵、夕暮れや夜の炎を描きなさい」っていうんだけどな。
とはいえ、大人気作家であるグランマ・モーゼスの人気シリーズにケチをつけるこちらがおかしいというか、少数派なんだろ、けっ、ってのは理解してるよ。
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東郷 青児「パラソルさせる女」
曲線で構成された女性像。かわいい。色がおよそ人物画に使う色じゃないのもいいし、構成がデザイン的というか、まるでブロンズ像みたいなところもすごくいい。
時代的にというかジャンル的には、キュビズムの絵ということになるらしい。
東郷青児は当時はやっていたキュビズムやシュルレアリスムの絵をたくさん描いていて、とても評価が高かったそうだ。その時代の絵を見るといかにも日本人が描くキュビズムの典型だなぁとはおもうものの、とても美しい作品だった。
また、今回は彫刻が2作品あって、特に「傾斜」という作品が良かった。具体的に何というわけでもない抽象的な作品だったが、私はオーバーサイズのコートを風になびかせて進む女性のように見えた。風を切ってかっこよく歩く女性のようでとてもよかった。
しかし、東郷はこのての作風をあっさり卒業して、よく知られている美人画ばかり描くようになる。
ばかり、という言い方はよくなくて、かれの美人画は大人気なんだからそっちに進んで正解といえば正解なんだけどね、私が好きじゃないんだよね。Not For Meなんだよね。
私が身近な人間だったら、「もっと抽象と彫刻をやれ」っていうのにね……大きなお世話だってわかってはいるけどね……
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撮影不可でポストカードもなかった作品としては、紘規 宮里の「WALL」という作品が良かったです。隅に小さく描かれた人物の前に、広告を細く刻んで貼り付けた巨大な壁が迫っているミクストメディア作品。とてつもなく巨大な情報の洪水に阻まれて、前に立つ人物が途方に暮れているように見える。すごくよかった。
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あと、今回初めて東郷青児の自画像を見たんだけど、すごかった。すごかった。
なんというか、「すごいよ!マサルさん」だった。
いや、あえてこういう作風で描いてるってことはわかるけど、それにしてもすごかった。
私は、その横にあった岸田劉生の自画像がかなり好きです。