人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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イケナイことを憶えた みなぎコレクション

ヤフオクに手を出してしまった。ヤバイ。私はもうだめだ。
ものすごくいっぱい商品がある。 気になったものを全部落札すると破産する。

しばらく張り付いた結果、売れ筋のものはすぐ売れるけど、人気がないのはずーっと回転寿司(入札0で終わってまた出品されること)なので、あまり熱くならないよう注意しないとですな。

 

コールドンの金彩エナメルガーランドのトリオ

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1920年代のものだそうです。典型的なアールデコ風の模様。すっきりとした色。
皿のほうはちょっと塗りが薄くなっているなというところがある。左下の赤いとこの線とかね。欲を言えばカップの底がもうちょっとスッキリしてたらなぁと思う。


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商品名で検索すると、普通にネットショップにいっぱい売ってる。うん、その値段で買った。正直ヤフオクで買う必要はなかった。ネットショップにあるのも知ってた。楽天とかで買ったほうがポイントついてお得だったかもしれない。でも気になってたから勢いで買ってしまった。別に割高で買ったわけじゃないからいいかなって思う。

色合いも涼しげでとてもかっこいいカップなので、気に入っている。

【ネタバレ感想】夜中に犬に起こった奇妙な事件

書籍データ

  • タイトル:夜中に犬に起こった奇妙な事件
  • 作者:マーク・ハッドン
  • 訳者: 小尾 芙佐
  • お勧め度:★★★★


今日の猫はすべてがピンボケ

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生きづらさを抱える少年(明示はされないがおそらく高機能自閉症)は数学の天才だが人とのコミュニケーションが難しく、特別支援級に通っている。
支援級の課題で物語を書くことを指示された少年だが障害の影響で「本当のこと」しか書けない。ミステリー小説を書くため本当に探偵になろうと、近所の犬が殺された時間を調査し始める。
いつのまにかいなくなり、死んだと聞かされた母。犬の調査をすると怒り狂う父。急に冷たくなった犬の飼い主の女性。
少年の調査によって明かされた事実は…

 

怖い話ではないです。悲しい話。
美しい表現が多いです。

(宇宙の爆発が終わると)星はみんなわれわれに向かって落ちてきて、だんだんにそれは速度を増して、世界はもうじきおわってしまうことになる、なぜかといつと夜空を見上げるともう暗くはなく、ただ何兆という星のまばゆい光がみんな落ちてくるのが見えるだけだ。

とてもなれないとわかっていてもなりたいと思うことはできます

 雰囲気が「アルジャーノンに花束を」に似ている。

面白いけど、面白かったけど、人生いろいろツライなって感想のほうが大きくて何度も読みたくはないなぁって感じ。

鵠沼の女の子 岸田劉生展 9/1

毎年「今年注目の美術展一覧!」みたいな雑誌を買うことにしているのだけれど、そういう雑誌って大体美術展チケットの応募ハガキが巻末についてたりします。というわけで、 当たったぜ懸賞!行くぜ美術展!
www.ejrcf.or.jp

というわけで岸田劉生展です。ペアチケットだったので京都人も連れて行ったら「夏に見るには重くない?」と言われてしまった。うん。確かに。
岸田劉生は明治~大正期の日本の洋画家です。美術学校に入学したわけではありませんが白馬会葵橋洋画研究所に入り黒田清輝に師事しています。20歳頃から画家として作品を発表し始め、38歳で病没しています。その短い生涯で多くの作品を発表した岸田は非常に起用で才能のある人だったのでしょう。様々な画風を渡り歩いた画家です。

岸田劉生 - Wikipedia

名前に聞き覚えがなくても、作品を見たらみんな一発でわかるはず

www.tnm.jp

 

はい、あの麗子ちゃんです。

「麗子洋装之像」

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これは習作で、油絵作品の方が好きだけどポストカードなかった。この服めっちゃおしゃれ。かわいい。胸元の斜めボタンとか超イケてる。
今回の展示ではアルバムに貼られた麗子さんの写真も見ることができました。昔からこのシリーズの絵を見て

「自分がこんな風に描かれたら嫌だよな。こんな顔の人いないよな。でももしかしたら、めちゃ写実なのかもしれないな。だとしても嫌だけどな」

ってずっと気になっていたのですが、実物の麗子ちゃんはもちろんこの絵のように横長の顔はしていないのですが、まぁ絵画作品に落とし込むにあたってのデフォルメとして許される範囲の相違だなって感じのお顔でした。(ひどい

岸田は娘の麗子を溺愛しているんだなぁというのが伝わってくる絵です。これじゃないけど和装の絵とかは手や服が執拗といってもいいほどの密度で描かれてまるでその場に浮かび上がっているように見えるのに、顔だけがこれだからすごい不安な気持ちになる。
たぶん彼女のことを神聖視しすぎて、地蔵とか仏像とか、そういう人ならざる者の域まで行ってしまっているのだと思う。

いろんなバージョンの麗子像が見れるのが面白いです。
結果としてポストカード売り場が麗子ちゃんだらけなので、圧がすごくて笑う。

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「道路と土手と塀(切通之写生)」

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代々木の風景だそうです。
銀座に生まれ(ボンボンだ…)代々木に住み、療養のため鵠沼に移動してから京都に移住するもお茶屋遊びで身を持ち崩して鎌倉に戻ってくる、というせわしない生活の中、あちこちの風景を描いています。
この絵はとても夏っぽくていい絵だなぁと思います。でも現在の代々木は超都心なのでどこなのかわからない。

jp.omolo.com

こんなイベントやってたんですね。行きたかった。

 

ちなみに鵠沼、読めるでしょうか。クゲヌマと読みます。神奈川県藤沢市南部、藤沢駅から海岸にかけてのエリアで、実は私の出身地であります。海が非常に近いことから古くは別荘地、療養地として栄え、文芸人が多く住んでいたエリアではありますが、岸田劉生が住んでいたとは全く知りませんでした。学校でも特に習わなかったし、史跡とかもないんじゃないかなぁ。
私の記憶にある鵠沼は砂っぽく乾いた住宅地で、岸田の描く緑にあふれる風景はいったいどこを描いたものだかてんで見当がつきません。
唯一「初夏の小路」だけは、鵠沼海岸の方だろうなぁと懐かしく思いました。具体的にどの小路ということはできないけれど、海岸の手前の防砂林。この松の木を抜けると、その先には海があるんです。

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「壺の上に林檎が載って在る」

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黒田清喜に師事、ということで岸田は当時最先端の印象派(ポスト、でしょうか)から画業を始めています。その後彼はゴッホのような作品、フォーヴィズムちぎり絵のようなふわふわしたタッチなどを経て、北方ルネサンス風の画風へとたどり着きます。その後さらに中国や日本の古典に習った卑近美や日本画風に行くのですが、そちらはあまり好みではないなぁ。晩年の作品は絵手紙教室のようです。


麗子像や、その時期の人物画は北方ルネサンス期のもの。きっちり丁寧に描かれた人物が一輪の花をつまむように持っている様など、典型的な北方ルネサンスポーズで興味深いです。静物画も美しい光沢のビロードを配してみたり、静謐で格調高く、神秘的な雰囲気がかなり好みです。一時は牧師を目指していたという、その信仰が影響しているのかもしれません。
こちらの作品も美しいレタリングや背景にかけられた布などにその特徴が表れています。
この人の作品は、陶器の照りが非常に魅力的です。こればかりは実物を見ないと伝わらないところかもしれないけれど。

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 「静物(白き花瓶と台皿と林檎四個)」

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こちらはちょっと構図がセザンヌ風。とはいえしっかりとした描写力や陶器のシャープな質感は彼独自のもの。林檎の絵は他にもテーブルの上に林檎が一列に並んでいる謎めいたものや、左右から幕が上がるかのように持ち上げられたその間に置かれたものなど、様々なものがあって楽しめます。

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今回の展示は数が150点と非常に多く、素描等は少なく完成品ばかりなので非常に見ごたえがあります。画業自体は短いのですが、その間様々な画風を試しているのでいろんなタイプの絵が見れるのもお得感が高いです。公式サイトにあるやつだと、他に「銀座と数寄屋橋畔」の色使いとかも独特で好き。

今まで「なんかキモイ麗子像の人」と思っていたイメージがいい感じに崩されると思います。おすすめ。

【ネタバレ感想】書きたがる脳 言語と創造性の科学

書籍データ

  • タイトル:書きたがる脳 言語と創造性の科学
  • 作者: アリス・W・フラハティ
  • 訳者: 吉田 利子
  • お勧め度:★


今日の猫

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うつ病の後にハイパーグラフィアを発症し、薬物治療の作用でライターズ・ブロックを経験した脳科学者の著者が、自身の経験をもとに書いた本

久々に読むのがめっちゃ苦痛な本だった。
じゃぁなんで読むのかって言われたら、途中で投げ出すのが気になるからなんだけど。

 

とにかく話があっち飛びこっち飛び、一つのトピックに関して「脳科学者はこう言っている」「精神科はこう言ってる」「こんな事例もある」「でもそれについては後の章で説明する」「それについては前の章で言った」「私の場合はこう」ってのがひたすら羅列されていくうちに結論が出ないまま次のトピックに移っていく。そして隙あらばねじ込んでくる自分語り。
結局何がどうなのかが全く分からない。
そしてほとんど脳科学の話をしない。いや、まったくしないとは言わないけど他の話のほうが多い。具体的に言うと「あの文豪もハイパーグラフィアだったと思われるけど当時診察受けてたわけじゃないから証拠はない」という話がやたら多い。憶測か。

一応この著者はハイパーグラフィアにかかって「いた」人という触れ込みで、治療済みであり寛解した人なはずなのですが。
治ってないよね…明らかにこの文章、治ってないですよね……
冒頭で作者が語る「精神病患者は自分が書きたいことに意味があると思うから書いている」といったことを説明しているのですが、まさにその通りの文章で書かれた本です。

 

いや、精神病直してから書けとは言わないし当事者の書いた文章にはそれなりに意味があるとは思うんですが、編集さんが欲しかったなぁと。この文章をわかりやすく校正してくれる誰かがいなかったのかなぁと。
脳科学の専門家が書いた本だと期待して読んではいけません。この本はあくまでも当事者本で、何なら症例の一つです。
書かれている内容自体はトリビア的な面白さがあるので、誰かがこの本の中身を内容ごとに整理して箇条書きにしてくんないかなぁと思う。したら喜んで読む。

 アウトサイダーアートみたいな本だった。

ミクロの世界 青木 美歌/前触れの石 8/18

日本橋高島屋、すごい大きくなりましたよね。東京は再開発ラッシュで、ぶっちゃけそんな大量にビルを建てて需要があるのだろうかと単純に疑問に思う。

美術フロアにはいくつか展示があったが、撮影可能なのはこれだけ。他のコーナーでは美術サークルの発表会みたいなのやってた。

美術画廊のブログ記事 

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昔ポーラミュージアムアネックスで見たことある人。顕微鏡で見るウイルスがそのまま大きくなったような、深海の世界のような、不思議な作品を作る人。

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「haglasteinn」

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この作品を見ていると、大学時代ひたすらガラス管で毛細管作ってたの思い出す。下手だったなぁ、私。
素材がガラスなので、肉眼で見るのと写真で見るのとですごく印象が違うのが撮影しながら面白かったです。
カマキリみたいでもあり、バクテリオファージみたいでもある。
映し出された影の形もいい。

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「stodgsteinn」

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公式ブログによると連続石、という意味のタイトルだそうです。
透明のガラスから、気泡がたくさん入って真っ白なガラスまでのグラデーションになっている。 

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いろんな角度から見るの楽しい。気泡の入ったガラスは粘度の高い水飴のようでお祭りの縁日を連想する。

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「ljosogn」

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サンキャッチャーみたいな作品。時々家のどこかにモビールがあったらなぁと思うのだけど、猫がいるから危なくて無理かなーと我慢している。

マクロの世界の生き物のような形。空中を浮遊するウイルスが目に見えたらこんななのかなぁって。

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「braberjasteinn」

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ブルーベリーの石。言われてみれば確かにその通り。花瓶なのかなと上からのぞいてみたけど、穴は空いてませんでした。なのでただの石、というよりオブジェ。底に放射状に走る光がいいね。

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ガラスはいいなぁと思う。でもおんなじかそれ以上に、ガラスは怖いなぁと思う。飴のようにポキンと折れそうで、でも折れたらこちらが怪我をしそうで、なんでかそれを試してみたくて、近くにいるとドキドキする。

 

哲学と美術 ロイス・ワインバーガー 見える自然、見えない自然 8/17

ワタリウム美術館って名前気になるじゃないですか。なんか変な名前ーってフックになるじゃないですか。

でもなんかあんまり宣伝してないんですよね。私がなんでここ知ってるかっていうと、周辺に用があるときに地図を見て何この美術館?って気になるからって理由なんです。ネーミングセンスは大事。

www.watarium.co.jp

でもここは現代アートのところで、私は近代くらいの作品の方が好きだから行ったことなくて。この日が初めての訪問でした。

入ろうとするとなぜか「一回しか見れません」とやたら念押しされる。同じ日ならええじゃろとゴリ押ししてくる人が多いのだろうか。

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入ったらもらえるパンフ。可愛い。

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説明細かい。豪華。

写真撮影の可否書いてなかったけど、普通にバシャバシャ他のお客さん撮ってたので、例によって怒られたら消すスタイル。

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「無題」

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いや、怖いよ!なにこれめっちゃ怖いよ!!!

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素材はサボテン、ガラスの目、植木鉢だそうです。ドールアイは貼り付けてるのかな?と裏を見たら、くり抜いて埋め込んでた。サボテンも模型じゃなくて生きてるやつなんだね。正直、「うわぁ」という感想しか出てこない。うわぁ。

あ、自然大事にとかそういう展示じゃないんだ…と軽くショック受けたよ。

キャラクターとしてのイラストは可愛かったのだけど、生で見たら子供が悪夢見るやつだった。

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カトリックモンドリアン

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ははは、こういうの好きです。見て理屈抜きにオシャレで、タイトル見てふふっとなるやつ。カッコいいよね単純に。しかし棘えぐいなー。これ頭に巻かれたらキリストも痛いよね。流血必須。

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「おお主よ、割引してください」

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紙に割引スタンプで作られた十字架。うん、作者絶対無神論者ですね。センス嫌いじゃない。

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「ワイルド・キューブ」

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「見える自然、見えない自然」というタイトルがなるほどねとここで見えてくる。
作品というか、制作物自体はこの緑地にある黒い金属製の檻のみだそうです。
集合住宅の横にこの檻を設置することで、その中に人間は干渉できなくなる。そうして出来上がった空間に下の大地に隠れていた種が芽吹き、鳥や小動物が落としていった種が根付いていく。そうして出来上がったものが「自然」。わかりやすく草木を植え、緑と花にあふれる「人工的な自然」とは全く違うものです。

最近の現代アートって哲学の実証実験みたいだよね。

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「カット」

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 石畳を割って生える植物。これは作品のために割ったのかしらね。そしてこの植物は植え付けたのか、生えるに任せたのか。かなり大胆だなと思う。

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まぁわかっていたことだけど、美しいというよりはやべえなって作品が多かった。
自然とは何か。命とは何か。植物とは何か。どこまで何をコントロールできるのか。
そういう考え自体は面白い思考実験だなと思うのだけれど、アートを名乗るからにはアウトプット結果に美しさが欲しい。でなきゃ本当にただの哲学だ。

 

てか、サボテン怖い。

【ネタバレ感想】特別料理

書籍データ

  • タイトル:特別料理
  • 作者:スタンリイ・エリン
  • 訳者: 田中 融二
  • お勧め度:★★★★★

収録タイトル

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特別料理

ある日、男が上司に連れていかれた奇妙に古めかしいレストラン。メニューは存在せず、日替わりのコース料理のみが提供される。そのシンプルながら奥深い素晴らしく美味な料理を出す店に男は夢中になる。
長年の常連である上司は「普段の料理もおいしいが、ごくまれに出る特別料理はさらに信じられないほど美味」なのだという。また、「一度は厨房をのぞいてみたいが、シェフは誰にもそれを許さない」とも。
期待して通ううち、ついに出された特別料理は確かに極上の美味であった。何年も毎日通っていた常連が一人その日は顔を出さず、特別料理を逃したことを上司は気の毒がる。
ある日たまたまレストランのウェイターが暴漢に絡まれているのを助けた男と上司は、そのウェイターから「シェフに招かれても決して厨房に入ってはいけない」と忠告する。
上司が長期出張に出かける前の晩、上司はシェフに招かれて…

お先棒かつぎ

不況の時代、男がやっと手に入れた仕事は、とあるビルの個室で新聞等から業界情報をまとめてレポートを郵送するというもの。その奇妙な仕事は応募は書類郵送、採用は電話、給与は郵送といった様子で雇い主には一度も会わずじまい。
そんなことも気にせず熱心に仕事を続けていた男のもとに、ついに雇い主が現れる。雇い主は男がやっている仕事は何の意味もない作業だと告げ、「本当にやってほしい仕事」について説明を始めるが…

クリスマス・イヴの凶事

クリスマス・イヴに依頼人の荒れ果てた屋敷を訪ねる弁護士。
依頼人の男性の部屋に行こうとすると、その姉の妨害を受ける。依頼人には自分の妻を殺した姉が無罪放免なのに耐えられないと訴えられるが、家の中で目撃者もいない中、事故だと訴えられたらそれを覆す証拠がないのだとなだめる他はない。
家の中で閉じこもっているのはよくないと男性を連れ出そうとする弁護士だが…

アプルビー氏の乱れなき世界

骨董品屋を経営するアプルビー氏は自身の店をこよなく愛していたが、がらくたばかりの店の経営は悪化するばかり。ある日彼は裁判記録をあさり、妻を殺して財産を受け継いだが無罪で逃れた男の記録を発見する。その手口を参考にして自分の妻を殺すと、目論見通り無事に遺産を手に入れ、店につぎ込むことができた。
そうして六人の妻を殺し、遺産を手に入れ、目立たないように引っ越しを続けてきたアプルビー氏はある日、大金持ちのオールドミスに出会うが……

好敵手

ある日友人からチェス盤を譲り受けた男。しかし気難しい妻はチェスの相手になってくれないし、友人を家に招くことも嫌がる。男が仕事以外で外に出かけるなどもってのほか。
仕方なしに教本片手にチェスを独習する男だが、やはり対戦相手が欲しくなる。何とか自分を自分の対戦相手にするために意識の切り替えを試みる男はやがて…

君にそっくり

苦労して一流企業に入った青年は、努力を怠らないものの会社上層部、上流階級出身の人たちの間に入っていけずに悔しい思いをしていた。ある時上流階級出身だが放蕩が過ぎて感動されたドラ息子と知り合いになる。親からの仕送りだけを頼りに生きるドラ息子と同居するようになった青年は、彼の上流階級然とした立ち居振る舞いを真似始める。仕送りの受け取りも面倒がるドラ息子に代わって、もともと見た目が似通っていた青年は銀行に小切手を受け取りに行くようになる。
会社でも上流階級に受け入れられ、社長の娘との縁談も上がってくる。そうなってくると邪魔になるのはドラ息子で…

壁をへだてた目撃者

寂しい独り身の男が住むアパートの隣の部屋には、若い夫婦が住んでいた。直接の面識はないが、穏やかで美しい声の持ち主である妻を夫は酷く虐待しているらしい。廊下ですれ違う彼女の姿を見、恋愛感情を抱くようになった独り身の男は、日ごと聞こえるいさかいの声に心を痛めるようになる。
ある夜、特別酷い諍いの後、急に静かになる隣の部屋の音を聞き、独り身の男はついに夫が妻をいじめ殺してしまったのだと直感する。
せめて彼女の無念を晴らすために夫を警察に突き出そうと、男は夫婦の過去を調べ始めるが…

 

パーティの夜

男は不意に自分が玄関の外に倒れていることに気づく。
助け起こされて自分の屋敷に入ると、そこでは盛大なパーティが開かれていた。人気役者である男は周りから絶賛を浴びているが、今契約している舞台から降りたくて仕方ない。その件で監督たちともめていると、招待客の一人である心理学の教授に「逃げ癖があるのではないか」と指摘される。その後男は…

専用列車

株の仲買人である男が仕事帰りに乗る電車は毎日同じ時間に決まっている。その電車はまるで仲買人専用列車といった模様。
ある日たまたま早い時間に帰った男は、自分の妻が不倫をしているのに気づいてしまう。怒り狂った男は周到に計画を立て、交通事故に見せかけて相手の男を殺してしまう。
それに気づいた妻は…

決断の時

少し旧時代的なところはあるが、妻と家族、そして自分の館を愛する男の望みは、隣の歴史ある屋敷を買い取ることだった。
しかしある日彼の家に乱入してきた男がその隣の建物を買い取ってしまったことを知り、ショックを受ける。しかも隣の男は非常にいけ好かない男で、彼の愛する隣の屋敷を大幅に改装して現代的にリフォームしようと考えていると明かす。歴史ある建物が破壊されるのが許せない男は、隣の男と彼の屋敷をかけて賭けをすることになるが…

 

全体感想

面白かった。アイディアは奇抜で語り口も優雅。悲しい話が多いのもよい。上質な本だよね。孤独のにおいがする話ばかりだ。悲劇の始まりは孤独なのかもしれない。


ただ、序文がひどい。作者が最初に投稿したミステリ雑誌の編集者が寄稿しているのだけど、オレスゲーが強すぎるし、何より軽くネタバレをしておる。
後書きならいいんですよ?後書きから読む人はネタバレ許容派だもの。でも序文でネタバレは本気でやめろバカってなる。

どれもある意味尻切れトンボなので、続きがすごく気になる。

決断の時とか「女か虎か」みたいな、結局どう決断するのだろうかというのがもう気になってしょうがない。私的には、決心を曲げないでほしい。
アプルビー氏の乱れなき世界のラストも、自業自得ではあるものの罠にはまった感じが本当に怖い。
君にそっくりリプリーみたいな話。リプリーは本当に好きな映画なのでまた見たくなってる。

もちろん特別料理もオチは見えている(序文でネタバレされてるしな!てか、タイトルでもう分り切ってるともいう)けどやっぱり面白くてうまい本だ。

良い本です。ただ、何度も言うけど序文は読むな。

 

おもしろいよ