座れます 椅子の神様 宮本茂紀の仕事 11/9
銀座からてくてく歩いて京橋へ。
このメインビジュアルに惹かれてやってきた。半分解体展みたいなやつかな?て思ったけど、構造部分はちょっとだけだった。というか、ここ狭いのに会場構成に凝って、展示物少なかった。
宮本茂紀さんっていうのは、椅子専門の家具職人なのかな?どうやら製作もデザインもして後輩指導もする人みたい。「皆様ご存知の宮本さんですよ」という感じで展示が始まるので、家具業界の常識を知らないとよくわかんない。でも椅子はおしゃれ。それだけでいい。
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「Fluffy Chair」
ザハ・ハディド氏デザインした椅子の試作品だそうです。硬さと柔らかさが同居するデザインで、座り心地もよさそう。
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「桜花蒔絵小椅子」
こちらは明治時代の作品。竹っぽく見えますが、木を素材は木だそうです。それを彫刻して蒔絵をしているそう。
華族会館で使用され、GHQに接収された際ペンキを塗られてしまっていたものを補修して元の姿に戻し、クッションもはりなおしたものだそうです。
木のところに朱色のペンキ塗ってたそうです。GHQセンス悪い。なんでペンキ塗りたくなるのか、意味わからん。
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「時代ごとの椅子作り」
教育目的で作成した、時代ごとの椅子、特に座面の構成サンプル。
スプリング材×クッション材が時代によって異なるよという見本です。しかも座れる。
- 手前:1870年頃~ バラバネ×馬毛/束土手(麻テープ)
- 中:1950年頃~ 連結バネ×ヤシの葉の繊維×芝草/土手
- 奥:2000年頃~ エラスベルト×ウレタンフォーム
1870年のやつが一番座り心地が良かった。しかし耐久性が良くないらしい。次に2000年のやつが良かったよ
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藤原 啓介「クラシックのリデザイン」
こちらはデザインが藤原氏、製作が宮本氏とのこと。
スタイリッシュで面白いけど、座り心地はすごく悪そう。特に手前の縦のラインとか。
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う~ん、なんか思ってたのと違うなって感じだった。うまく言えないけど。
結局この人の立ち位置もいまいちよくわからない。
広告デザインは庶民の味方 日本のアートディレクション展GGG 11/9
銀座でギャルリーためながに行きたかったのだけれど、客ゼロで入口に店員がドアをふさぐように立っててさ。一応画廊だけど僕ここで売ってる絵を買う金ないから100%客じゃないんだよなと思うとちょっと入れなかった……悲しい……お金欲しい……
そんな悲しみの銀座でも、GGGは無料で優しい。
今回は広告の大賞受賞作ということで、タイトルはない。そして今までGGGで展示されていたものとの重複も多い。
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佐藤 卓「PLEATS PLEASE SEA 翼の王国」
全体にプリーツの入った不思議な服ブランド、イッセイミヤケのPLEATS PLEASE広告。
海の生き物シリーズで可愛いし、製品の特性を良く表していてイメージしやすい。
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新村 則人「無印良品キャンプ場」
「神の工作でキャンプ場を表現する」ということで、エコな無印のイメージをもとに捨てられた段ボールを利用して作成したものだそうです。これ、色塗ってるんじゃなくてもともと色付きの段ボールを数か月がかりで集めたのだとか。
え~これがエコな再利用段ボールなのか新品なのか侯国見てる人にわかんなくない?無駄な労力じゃない?って思っちゃうけど、企業広告ってそういうものなんだろうな。
ピントの合わせ方が秀逸で面白い効果になっていると思う。
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渋谷 克彦「資生堂広告」
解説が何もなくてよくわからなかったのだけれど、資生堂のロゴをベースとした時計デザイン、かな?
リズミカルでかわいらしいし、元のデザインを生かしてスタイリッシュに仕上がっている。かっこいい。
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槇原 亮輔「iwaigami」
紙袋と封筒?のセット。「祝い紙」という名前だけで特にコンセプトとかは明示されていないのだけれど、白地に赤で折り鶴の展開図が描かれている。
紅白→折り鶴→慶事というイメージなのだろう。ハイコンテクストだな!日本以外では通じないな!って思った。
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もっとデザインコンセプトとか教えてくれたらいいのになぁと思う。面白かった。
ちょっと怖かった 近代常設展 11/2
国立近代美術館の所蔵品展。別料金で鏑木清方展も見れたけど写真不可だしパンフ品切れだし、何より「表現きれいで細かいねぇ」以上心に響かないので割愛。www.momat.go.jp
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松井 康生「練上嘯裂文茜手大壺」
練上:色の異なる土を組み合わせて模様を表す伝統技法
嘯裂(しょうれつ):層にした土の表面に傷をつけ、ロクロで回すときに遠心力で内側から膨らませることで自然に亀裂を作る独自技法
なにそれめっちゃ気になる〜この鮮やかな色、土の色そのままなんだね。どんな土地なんだろうなぁ。大地が赤いのだろうか。見てみたい。
形成方法も遠心力でビビって、どんな速度で回すのだろうか。一瞬でふわっと爆発したように見えるのかな。それはすごく美しいだろうな。それとも全然違う様に見えるのだろうか?みてみたい。
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山下 菊二「<あけぼの村物語>関連資料」
えっ、ナニコレ怖い。
解説によると
山梨県の曙村を訪れたのは地主と農民との衝突に端を発する事件を取材して、公判闘争のための紙芝居を制作することにありました。
えっ、ナニソレ怖い。
事件を調べると
マジ怖いやつじゃないですか、やだー!!!
“公判闘争のための紙芝居”っていうにはあまりにもダークファンタジー。描写力がすごいのでおどろおどろしい画面になっています。
何を考えてこんな作品を…こわいこわい。
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川瀬 巴水「日本橋(夜明け)」
気を取り直して、近代の浮世絵。さわやか…心が洗われるようだよ…
日本橋の、今高速道路があるあたりを描いたものです。まだ低いビル群、茜色に染まる雲が美しいです。こういうすっきり直線的な絵好き。
今このエリアは、高速道路でこの絵画にも描かれた街灯が見えないからと、高速を橋の下に移動するプランが議論されています。確かに高速を下に移動したら橋はよく見えるだろうけれど、その向こう側には今や道路の先まで巨大なビルが立ち並び、こんな光景は見られません。ただ高速道路の高架をなくせばいいってもんじゃないよなぁと思う。
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三木 富雄「EAR NO.Y-8」
独学でデビューした作家。「耳が私を選んだ」とコメントし、ひたすら耳をテーマにした作品を発表したそうです。
この作品の素材はアルミニウムです。チョイスが不思議。
たぶん全部同じ耳。文字は反転してるんですよね。でも耳の形は正しい。これが完成形なのか、これを使って型取りして完成とするのか。
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正木 隆「造形01-20」
見た瞬間、世田谷じゃん!って思った。
私は一時トチ狂って世田谷区の奥深く、どの駅からも徒歩25分かかる上にバスもないようなところに車もないのに住んでたことがあってね。駐輪場の空きもないからひたすら歩いて通勤していてだね。深夜歩いてると見えるコンビニが、本当にこんな感じだった。
なんか…なんかあのころはほんとトチ狂ってたなぁってブルーな気持ちになったよ……
真っ暗な中に浮かぶコンビニは自分の居場所を確かめる座標軸のようでもあり、ぽっかりとあいた暗い窓はこちらを拒絶しているような気もする。
窓展のほうに入れてもよさそう。
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近代美術館はほとんどすべて撮影可能なのお得だなって思う。
窓の何を表すの 窓展:窓をめぐるアートと建築の旅 11/2
久々の近代美術館。
企画展のテーマは「窓」ですが、そこまで厳密なものでもないようです。
窓を表現した作品、窓を思わせる作品、窓から想起した作品、主題ではないけれど窓が一応含まれる作品。そういうのだけでなく、「窓じゃないけど窓っぽい気がする作品」すら含まれます。タイトルに窓という言葉は含まれないし、窓を表現したのだというエビデンスもない。なんでこれ選んだんだろう?というのも含まれます。別にいいけど、なんで?
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横溝 静「Stranger No.5」
こんな手紙を(もちろん現地語で)送って撮影させてもらうプロジェクトらしい。
窓は「自分がストレンジャーのままで、相手もストレンジャーのままで、どのくらいまで距離を縮められるかなということを視覚化」するための装置となった
なんか哲学的だねぇと思う。このプロジェクトには、はめ殺しの窓こそがふさわしいと思う。
自分の世界と外の世界とを安全につなぐのが窓だ。ドアと違い、基本的に外部の者は窓からは侵入してこない。あなたとわたしが触れ合うことはない。言葉を交わすことも、おそらくない。ただ存在を確認しあうだけのもの、それが窓。
そういう距離感を確認するプロジェクト、面白いと思う。
あと、このおじさん何を持ってるの?ブランコでもぶら下がってるの?って思う。
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北脇 昇「非相称の相称構造(窓)」
自宅だった寺院の窓をモチーフとした
すっごい砂壁っぽい。この黄土色の壁に押し付けられたような傷跡が見えるの、めっちゃ砂壁っぽい。実家感あってちょっとブルーになるくらい。
古い寺院の、窓ガラスも入っていなさそうな窓。防犯のため塗装色のために柵上に柱が固定されている。この赤と緑の葉なんでしょうねぇ?リズミカルで面白い絵です。
しかしあまりにも実家感。
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ヴォルフガング・ティルマンス「tree filling window」
窓を画面いっぱいに写した写真。両開きのガラス窓を開けた先には、これまた画面いっぱいの大樹。窓ガラスも外の世界に染まって緑一色。
圧迫感を感じてもよさそうだけれど、十分に距離があるせいか開放感がある。
一色の画面って結構好きです。家の壁に掛けたい感じ。
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ハンス・リヒター「色のオーケストレーション」
これは…窓…?
ハンス・リヒターはドイツの画家・映画監督だそうです。抽象絵画の走りの人。
学窓されているけれど元々は巻物だったそうで、もしかしたら次々に現れる色のリズムを楽しむように設計されたものなのかもしれない。
ただ、こういうところが窓ですねという解説が一切ないので、なんでここにあるんだろうって正直思います。その横には「抽象絵画」というタイトルの黒一色の絵があったりして、なんなんだろう~ってもやもやする。
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ズビグニエフ・リプチンスキ「タンゴ」
こちらは動画作品です。タンゴのリズムに合わせ、おもちゃのような家で行われる不思議な出来事。
一人の少年が室内に入ってしまったボールを窓から侵入してこっそり回収する。
孫を抱いたおばあさんが、ベビーベッドに孫を寝かせて出て行く。
そんなごく短いアクションが繰り返されます。少年が部屋を出たと思ったらまたボールが室内に飛び込んでくる。孫を置いて右手に抜けた老婆は左のドアから現れて、同じベッドに孫を寝かせる。そのベッドには今何人の子が寝ているのか?布で格差らえていて見えない。
少年と老婆はお互い干渉しない。まるで別の次元、時間軸に生きているように器用にお互いを避ける。そうやって部屋に入ってきては出て行く人は増え続ける。荷物を置く男性、荷物を取りに来る別の男性、料理をテーブルに置く老婆、部屋に来て料理を持ち帰る老人、着替える女性、アスリート、それぞれはお互い相手を認識することなく器用に相手をよけて同じ行動を繰り返す。そう、ダンスのように。
なんかめっちゃ引き付けられるものがあって、目が離せない動画。
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池水 慶一「East Wind, Filne 東の風、晴れ より」
六甲アイランドでかつて行われたインスタレーションの記録展示。面白いね。
たった25人しか来なかったってもったいない気がするなぁ。
六甲には全く土地勘がないのだけれど、まだ電車とか通ってなくてアクセス悪かったのでしょうね。
何にもないところに巨大な、どこにも通じていない窓があるのは不思議な光景だっただろう。11メートルといわれてもピンとこないけど、写真見ると長いな!ってびっくりするサイズだ。
きっと開放感のある作品だっただろうな。
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美術の観点だけでなく、建築とか文化の観点から窓を語った小冊子がいっぱいもらえるの面白かった。
なかなか読みごたえがあってよいよ。
でも展示自体は、「窓」展というにはちょっと弱いなぁっていうのが多かった。窓が主題じゃなくてもいいなら、展示作品の集め方なんてなんだってよくなっちゃう。
コレクションの謎 内藤コレクション&西洋常設展 10/27
国立西洋美術館の常設展と、コレクション展。
内藤コレクションって何ぞや?というと、西洋写本の本から剥がれ落ちたページを集めたもの、らしい。
「別に写本には興味がないけど価値があるから集めてる」みたいなことが書いてあってサイコパスかな?って思ったけど、こうやって見るとちゃんと好きで集めてたみたいで安心する。ツンデレかよ。
零葉ってなんてか、もののあはれだよね。
展示室入場前に、写本の複製作成動画を見ることができる。
羊皮紙にペンを使用してきっちりと写し、装飾を施していく様子はとても見ごたえがある。
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ラテン語聖書零葉:創世記(イニシアルI/創世記)
豪華!
ラテン語は当然読めないのだけれど、イラストの豪華さはよくわかります。
上から順に、
だそうです。1個目、なんか人間いっぱいいるように見えるけど、星は擬人化なのかな。それとも創世記を語る神の図なのかな。
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ラテン語聖書零葉:紙片109(イニシアルD/玉座のキリスト)
ちっちぇ!サイズ感を見てほしい。劇的に小さい。
いくら紙が基調だからって、こんな小さくするの大変なんじゃないかと思うくらい小さい。それともポケットサイズにしたかっただけだろうか。
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ページ本体もだけれど、こうやって解説があるのがめちゃ勉強になってよかったです。
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というわけで、常設展。
クロード・モネ「睡蓮、柳の反映」
もともと松方コレクションの一部。第二次世界大戦中にフランス北部の寒村に疎開して大きく破損。行方不明となっていたが2016年にルーヴルで発見され、2017年に松方家より寄贈。
なかなかに状態がとてもひどいです。そして、もともと描き込みが浅いね?実際資産価値としてはどんなもんなんだろうなぁ。やっぱモネだからどんなに劣化してもお高いんだろうなぁ。
これだけ破損しても、日本画風に装丁することで「侘び寂びです」って顔してそれなりに美しいと感じさせるの、さすがだなぁと思う。
さすが国立美術館。
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ルカス・クラーナハ(父)「ホロフェルネスの首を持つユディト」
当世風のユディト。首の断面が悪趣味で、ホロフェルネスの眠るような表情がリアル。
昔何かの本で(死刑全書だったかなぁ)斬首刑の写真を見たことがあるのだけれど、本当にこういう表情だった記憶がある。
けど肝心のユディトのスタイルがなんかみょうちきりんだなぁと感じる。腰のあたりとか、胸のあたりが。袖とかはすごくいいなって思うんだけど。
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ペドロ・デ・オレンテ「聖母被昇天」
上部テカっちゃった。
新規収蔵品です。石棺に収めたはずの聖母が消えて驚く弟子たち。そして点にあげられる聖母。
ドラマチックな構図を鮮やかに描き出していてとても美しい。
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ロヴィス・コリント「樫の木」
こちらも新規収蔵品。ドイツ印象派の代表の作品だそうです。
画面いっぱい真っ暗にうねる樫の木。力強く、なんとなく不吉なものを感じる。たぶん木の奥にうっすらと見える建物の色とかがそう感じさせるのかもしれない。
風景画のではなく、木そのものを描くってのが新しくおもしろいなぁと思った。
あと、京都人が橋本コレクションをめちゃくちゃ気にしていた。
ハプスブルグ展にも出店していたんだけれど、コレクション主である橋本さんの情報が全くない。何でそんなコレクション作れるほどお金持ちになったのかが全く不明。
なんなんだろうねぇ。
美術コレクション一族 リヒテンシュタイン展 11/4
短期間にわしゃわしゃといくつか展示を見たのだけれど、ちょっと順番前後して文化村の話をするよ。
今回の企画展はリヒテンシュタイン侯国の建国300年を記念したものだそうです。
リヒテンシュタイン侯国はスイスとオーストリアの間にある小さな国です。政治的にはスイス、文化的にはオーストリアの圏内に入る模様。
しかしこの国、立憲君主制で今どき君主に政治権力を持たせてるってのがなかなかすごい。建国してたかが300年程度とはいえかのハプスブルグ家と親しく、 文化的に優れた歴史を持つ国のようです。
実際、コレクションがすごい。めっちゃセンスいい。ゴージャス。
家訓が
珍しいもので、良いものかつ美しく上品な事物にお金を費やすことは
永遠かつ偉大で最大の記念となる
だそうです。完全に美術コレクターのそれじゃないですか。
美術館の開催にあたり現当主が寄せているコメントにも「私がいろいろ買い戻しました」って書いてあって、さすがじゃんって思った。
僕もこんなこと言っちゃえる御身分になりたい。
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ヨーゼフ・ノイゲバウアー「リヒテンシュタイン候フランツ1世、8歳の肖像」
び、美少年様や……!!!
きらびやかなところのない簡素ないでたちで、ここまで気品あふれる美しさって何なんだ君は…びっくりするほど超ハンサム。優勝です。本当にありがとうございます。
何のアクセサリーもつけていないのに、金髪の美しさとライティングだけでここまで神性を感じさせるってすごいな。
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フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー「イシュル近くのヒュッテンエック高原からのハルシュタット湖の眺望」
見たとき、素直に「写真じゃん」って思った。
正確無比な形状、実に美しくすがすがしい色使い。画像で見てもふーんって感じだろうけれど、実物のインパクトはほんとに強い。
風景画で森の木々というのはよく見るけど、岩肌の山が主役ってのもいいなぁと思う。
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ヨーゼフ・ニッグ「黒ブドウのある花の静物」
陶板画です。オーストリアと近い関係で、ウィーン窯の工芸品もたくさんありました。
これは硬質磁器にエナメルの上絵とのことです。
磁器なので色絵は下地に沈み込み、焼きあがった後に追加されるエナメルはその上にとどまります。なので前に立つとすごい奥行きを感じるんですね。まるでレンチキュラー効果のような、不思議な体験です。
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日本・有田窯 金属装飾イグナーツ・ヨーゼフ・ヴュルト「染付山水文金具付ポプリ蓋物」
17世紀ごろ、東洋からもたらされた陶磁器は欧州で大ブームを巻き起こします。陶磁器は同じ重さの銀ほどの価値があったのだとかいう話はよく聞きます。
しかしこんな風に、陶磁器に金具を取り付けて西洋風工芸として使用していたというのは初めて見ました。いや、他の美術展で見たことない。
壺に持ち手と蓋をつけて水差しにしたり、実用的でおしゃれでよかったです。
特にこのポプリ入れは、まるで最初からこのデザインだったかのような違和感のなさ。おしゃれ。
順路の都合で先に写真を見てしまい、ポプリ入れの壺というので小さいのを想像していたら、めっちゃ大きかったのでびっくりした。
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ビンビ(本名バルトロメオ・デル・ビンボ)「花と果物の静物とカケス」
そんな高価な陶磁器ですから、割れてしまった破片でも価値があるんだそうです。へぇ~
この作品はそんな割れてしまった大鉢を描いていますが、構図がいいなぁと思います。
鉢から果物があふれ出て収まりきらずに割れてしまったように見える。豊かな富を示しているようですね。静物画だけれど動的な表現。
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ペーテル・パウル・ルーベンス「和平を結ぶ機会を捉えるアンリ4世」
なんか、最近一周回ってルーベンスいいよなぁって思い始めてます。
絵画見始めたころはルーベンスとかドラクロワとか、素直に「絵がうまい」人がいいなぁって思ってて、そこから絵画にあらわされた精神性とかで象徴主義を見たり、豆知識を憶えるとそれがないと分からないマニエリスム的なものが面白くなってきたり、抽象絵画の意味わかんなさが良いと思えるようになってきたり。色々な好みを踏まえたうえで、やっぱり絵がうまいのは素直にうまくていい、って思い始めてます。
ルーベンスの絵は何枚かあったのだけれど、これが一番好き。
下絵だけど、完成品だと工房作になっちゃうしね。この伸びやかな明るい色使いがいい。
右側の男性、アンリ4世が幸運の女神の前髪をつかもうとしている図だそうです。
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他にもバリエーションがとても豊かです。
ルーカス・クラナッハ(父)「聖エウスタキウス」
キリスト教が迫害されていたころ、迫害者であるローマ帝国の軍人だったエウスタキウス。彼は森のなかで鹿の角の間にキリストを幻視し、キリスト教徒に改宗します。
当世風の衣装、細かい自然描写、北方ルネサンスの美しい絵画です。
縦長の形状から、祭壇画の一部であったと思われるとのこと。
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ガローファロ(ベンヴェヌート・ティージ)「ヘラクレスの神格化」
雄大な構図、理想化された人体、しかし固く動きのないポーズ。マニエリスムの作品です。
ヘラクレスは神と人との間に生まれたハーフです。この図は、ヘラクレスが死ぬとき、炎で彼の人間部分を焼いて残った神様部分がヘルメス、ヘリオスらに神として迎えられているところだそうです。
そんな設定あるー?人間部分焼き捨てましたって、ありなんー?
すげえ設定だな。
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シモーネ・カンタリーニ「少年の洗礼者聖ヨハネ」
黒い背景、スポットライトのような大胆なライティング、美化しすぎない写実描写。カラヴァジェスキですね。
ここまで俗っぽい感じの聖ヨハネもあまり見ないよなぁと思います。表情とか愚鈍といってもいいような、農民感がある。ヨハネに扮したXXという主題でもないのだろうな。
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他にもウィーン窯の陶磁器あり、ロココ作品あり(でもあんま好きじゃないから載せない)いろんなタイプの作品が見れて「なんだこいつらお金持ちか!」って気持ちになった。お金持ちなんだろうな。
先日見たハプスブルグ展では「いっぱいありすぎて散漫だな」と思ったのに対し、今回は「いっぱいあってお得だな」と思いました。
それはやはり全体のセンスの問題でしょう。こういう趣味で集めたんだなぁと統一感が感じられるコレクションの見せ方でした。
やっぱりキュレーションは大事だな。
大量展示の是非 ハプスブルグ展 10/27
西洋美術好きなら押さえておきたい、ハプスブルグ展には当然行く。だって、絶対すごいじゃん。ゴージャスに決まってんじゃん。見るしかないじゃーん。
ハプスブルグ家は知らない人はいないであろう、欧州の貴族です。
軍事というより政略結婚により勢力を広げていった一族。マリア・テレジアやマリー・アントワネット、美術史的にはルドルフ2世、カール5世あたりが特に有名ですね。
ヨーロッパの覇者といってもいい一族のコレクション、実に充実しています。しすぎるくらいです。
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アントン・ペッフェンハウザー「編模様の甲冑セット」
タイプの違う甲冑が複数来ていました。試合用のものや儀礼用のもの。実戦用、と書いてあるものもありましたが、非常にきれいなのでそれを使って戦ったりはしていなさそうです。まぁ皇帝は戦場に行っても自ら戦ったりしないだろうしね。
その中でもこれは特に細工が細かく美しいです。銀の地に金の模様。そして赤い革胴着。この下に着こんでいる赤いプロテクター、腰のあたりがぴらぴらとギャザーが寄っていて、とてもおしゃれ。
かっこいいよねぇ。
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コルネーリス・デ・ヘーム「朝食図」
朝から生ガキ食うのかよ。元気かよ。
といっても、別に本当に朝食というわけではなく静物画です。明るい光が差し込む中での食卓の様子。果物、牡蛎、金属といった質感の描き分け。傾いた皿の不安定な構図。
見ていて楽しい一枚です。
個人的に、古い西洋画のブドウの表現が好きです。表面に粉をふいた質感が。
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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン「使徒パウロ」
全てにおいて大作が多くて逆にとびぬけた作品というのが出にくくなっている今展示。その中でも輝いていたのがレンブラントでした。
パウロってあんまり老人のイメージないなぁ…もともとキリスト教の迫害者だった彼が奇跡に出会い回心し、キリスト教徒になったというストーリーなので、やはり回心シーンのほうが印象深いです。
あちこちのキリスト教徒へ手紙を書きまくっていた彼なので、このシーンはその手紙執筆中なのでしょう。暗がりにひっそりと置かれたアトリビュートの刀、険しい表情が彼の性格を表しているようです。
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ディエゴ・ベラスケス「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ」
紺展示で一番有名であろう絵。婚約者へと送られた写真代わりの肖像画です。描いたのは巨匠ベラスケス。幼いながらもハプスブルク家の特徴をはっきりと示した顔、豪華な衣装、素晴らしい出来栄えです。
これと全く同じポーズ、同じ服で、ただドレスの色が緑色の作品もありました。
フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソの「緑のドレスの王女マルガリータ・テレサ」です。ほかの用途に使用するための複製品でしょうかねぇ?描かれた時期も年齢もほぼ同じ。表情もドレスのデザインも同じ、背景や服のしわまで同じで、ただ色だけが違います。同時に描かれたのなら同じ服の色になるだろうし、別の機会に描いたならここまで同じにはならないだろうし。
近年まで青いほうが見つからず、緑の方がベラスケス作と思われていたそうです。ポストカードはなかったので、実物見てください。
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フランス・ライクス「オーストリア大公フェルディナント・カールの肖像」
これは、悪い意味で印象に残った作品です。
なにこれ。朱色の衣装ってどういうこと。三銃士みたいだけどこの装飾過多はなんなの。特に靴のデザインとか露悪的といってもいいほどだし、それに対して顔の印象は驚くほど弱い。
率直に言ってひどい絵なんだけど、あんまりにもひどすぎて、色味がキツ過ぎて、逆に印象に残って離れない絵でした。みんなこれに気を取られて他の作品がおろそかになるとよい。
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全体として、大作だらけで非常に圧倒される展示だった。
特に入ってすぐのタペストリーとか、壁一面を埋め尽くすサイズがものすごかった。そして、これをかける壁のある城に住んでたんだなぁという事実にやっぱハプスブルグやべえって気持ちになった。
ただ欠点としては、なんか散漫な展示であった。キュレーションが弱いというか。
とにかく元のコレクションが膨大なのでしょう、様々なジャンルからちょっとずつ借りてきた結果、なんかコレクションとしての統一感がない展示になってしまっている。
例えば肖像画500枚、風景画500枚、神話画500枚あったらそれぞれすごいコレクションが3つある、と見れるのですが、肖像画と風景画と神話画3枚ずつ、と見せられるとどういう基準でコレクションしてるの?という感想になってしまう。
これだけのコレクションを展示するなら、全体をちょっとずつというよりは「ハプスブルグのXX展」といったように絞ったほうが分かりやすくなるだろうなと思う。
とにかく数が多いのも大変なんだろうね。