美術コレクション一族 リヒテンシュタイン展 11/4
短期間にわしゃわしゃといくつか展示を見たのだけれど、ちょっと順番前後して文化村の話をするよ。
今回の企画展はリヒテンシュタイン侯国の建国300年を記念したものだそうです。
リヒテンシュタイン侯国はスイスとオーストリアの間にある小さな国です。政治的にはスイス、文化的にはオーストリアの圏内に入る模様。
しかしこの国、立憲君主制で今どき君主に政治権力を持たせてるってのがなかなかすごい。建国してたかが300年程度とはいえかのハプスブルグ家と親しく、 文化的に優れた歴史を持つ国のようです。
実際、コレクションがすごい。めっちゃセンスいい。ゴージャス。
家訓が
珍しいもので、良いものかつ美しく上品な事物にお金を費やすことは
永遠かつ偉大で最大の記念となる
だそうです。完全に美術コレクターのそれじゃないですか。
美術館の開催にあたり現当主が寄せているコメントにも「私がいろいろ買い戻しました」って書いてあって、さすがじゃんって思った。
僕もこんなこと言っちゃえる御身分になりたい。
---
ヨーゼフ・ノイゲバウアー「リヒテンシュタイン候フランツ1世、8歳の肖像」
び、美少年様や……!!!
きらびやかなところのない簡素ないでたちで、ここまで気品あふれる美しさって何なんだ君は…びっくりするほど超ハンサム。優勝です。本当にありがとうございます。
何のアクセサリーもつけていないのに、金髪の美しさとライティングだけでここまで神性を感じさせるってすごいな。
---
フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー「イシュル近くのヒュッテンエック高原からのハルシュタット湖の眺望」
見たとき、素直に「写真じゃん」って思った。
正確無比な形状、実に美しくすがすがしい色使い。画像で見てもふーんって感じだろうけれど、実物のインパクトはほんとに強い。
風景画で森の木々というのはよく見るけど、岩肌の山が主役ってのもいいなぁと思う。
---
ヨーゼフ・ニッグ「黒ブドウのある花の静物」
陶板画です。オーストリアと近い関係で、ウィーン窯の工芸品もたくさんありました。
これは硬質磁器にエナメルの上絵とのことです。
磁器なので色絵は下地に沈み込み、焼きあがった後に追加されるエナメルはその上にとどまります。なので前に立つとすごい奥行きを感じるんですね。まるでレンチキュラー効果のような、不思議な体験です。
---
日本・有田窯 金属装飾イグナーツ・ヨーゼフ・ヴュルト「染付山水文金具付ポプリ蓋物」
17世紀ごろ、東洋からもたらされた陶磁器は欧州で大ブームを巻き起こします。陶磁器は同じ重さの銀ほどの価値があったのだとかいう話はよく聞きます。
しかしこんな風に、陶磁器に金具を取り付けて西洋風工芸として使用していたというのは初めて見ました。いや、他の美術展で見たことない。
壺に持ち手と蓋をつけて水差しにしたり、実用的でおしゃれでよかったです。
特にこのポプリ入れは、まるで最初からこのデザインだったかのような違和感のなさ。おしゃれ。
順路の都合で先に写真を見てしまい、ポプリ入れの壺というので小さいのを想像していたら、めっちゃ大きかったのでびっくりした。
---
ビンビ(本名バルトロメオ・デル・ビンボ)「花と果物の静物とカケス」
そんな高価な陶磁器ですから、割れてしまった破片でも価値があるんだそうです。へぇ~
この作品はそんな割れてしまった大鉢を描いていますが、構図がいいなぁと思います。
鉢から果物があふれ出て収まりきらずに割れてしまったように見える。豊かな富を示しているようですね。静物画だけれど動的な表現。
---
ペーテル・パウル・ルーベンス「和平を結ぶ機会を捉えるアンリ4世」
なんか、最近一周回ってルーベンスいいよなぁって思い始めてます。
絵画見始めたころはルーベンスとかドラクロワとか、素直に「絵がうまい」人がいいなぁって思ってて、そこから絵画にあらわされた精神性とかで象徴主義を見たり、豆知識を憶えるとそれがないと分からないマニエリスム的なものが面白くなってきたり、抽象絵画の意味わかんなさが良いと思えるようになってきたり。色々な好みを踏まえたうえで、やっぱり絵がうまいのは素直にうまくていい、って思い始めてます。
ルーベンスの絵は何枚かあったのだけれど、これが一番好き。
下絵だけど、完成品だと工房作になっちゃうしね。この伸びやかな明るい色使いがいい。
右側の男性、アンリ4世が幸運の女神の前髪をつかもうとしている図だそうです。
---
他にもバリエーションがとても豊かです。
ルーカス・クラナッハ(父)「聖エウスタキウス」
キリスト教が迫害されていたころ、迫害者であるローマ帝国の軍人だったエウスタキウス。彼は森のなかで鹿の角の間にキリストを幻視し、キリスト教徒に改宗します。
当世風の衣装、細かい自然描写、北方ルネサンスの美しい絵画です。
縦長の形状から、祭壇画の一部であったと思われるとのこと。
---
ガローファロ(ベンヴェヌート・ティージ)「ヘラクレスの神格化」
雄大な構図、理想化された人体、しかし固く動きのないポーズ。マニエリスムの作品です。
ヘラクレスは神と人との間に生まれたハーフです。この図は、ヘラクレスが死ぬとき、炎で彼の人間部分を焼いて残った神様部分がヘルメス、ヘリオスらに神として迎えられているところだそうです。
そんな設定あるー?人間部分焼き捨てましたって、ありなんー?
すげえ設定だな。
---
シモーネ・カンタリーニ「少年の洗礼者聖ヨハネ」
黒い背景、スポットライトのような大胆なライティング、美化しすぎない写実描写。カラヴァジェスキですね。
ここまで俗っぽい感じの聖ヨハネもあまり見ないよなぁと思います。表情とか愚鈍といってもいいような、農民感がある。ヨハネに扮したXXという主題でもないのだろうな。
---
他にもウィーン窯の陶磁器あり、ロココ作品あり(でもあんま好きじゃないから載せない)いろんなタイプの作品が見れて「なんだこいつらお金持ちか!」って気持ちになった。お金持ちなんだろうな。
先日見たハプスブルグ展では「いっぱいありすぎて散漫だな」と思ったのに対し、今回は「いっぱいあってお得だな」と思いました。
それはやはり全体のセンスの問題でしょう。こういう趣味で集めたんだなぁと統一感が感じられるコレクションの見せ方でした。
やっぱりキュレーションは大事だな。