人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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自然へ畏怖はある? クールベと海 4/13

ついに海を見た。地平線のない海を。
それはとても奇妙なものであった。
ギュスターヴ・クールベ

私は「海も山も見えるところ。青空の下に青い海」(わが母校オリジナル臨海学校の歌)こと神奈川県生まれなので、とうぜんのこと海は物心つく前から身近に見ている。
神奈川は海有山あり都心あり田舎あり、富士山も見えれば東京タワーも見える街なので、あまり自然に対して「初めて見た」と思うことがない。
昔岐阜に旅行した時、現地の人に「初めて富士山を見たとき感動した」と聞いたことがあるが、この人やクールベのように自然に対して驚いたことがあるだろうか?と考えてみたが、残念ながらあまり遠くに旅行しないせいかそんな経験がない気がする。
しいて言えば、神戸の北野異人館街に連れて行ってもらったとき、「こんなやばい坂に家を建てるなんて神戸の人何考えてるの?!馬車とか使えなくない?」って思ったくらいか。

前置きが長くなったが、クールベ展である。

panasonic.co.jp

フランスの山村に生まれたクールベは22歳の時に初めて海を見て、その驚きを家族に手紙で伝えたのだという。

彼はそれまでの「ピクチャレスク」という考え、自然を理想化して描く方式を否定して、徹底的なレアリスムで風景画を描いた人である。その姿勢が印象派へとつながる一つのピースになったのだという。(のは本当なんだろうけど、日本で印象派が人気すぎるからって何でもかんでも印象派に関連付けて紹介する美術展が多いのはどうかなぁと思わんでもないよ正直なところ)

今回の展示は構成が工夫されていて面白かった。展示タイトルは「海」なのに、最初は山から始まる。クールベの描いた山、野生動物、そしてクールベ以前の海、クールベと同時代の海と周辺を固めてからの堂々たるクールベの海の絵である。
絵画の流れを知ってからの海の絵はすごくわかりやすくていいなと思った。
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ギュスターヴ・クールベ「岩山の風景、ジュラ」

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うまい…のか?なんかクレヨンでぐりぐり描いたみたいでのっぺりしていてあんま好きじゃないな。美化しないで見たとおりに描いたといえば確かにその通りなのだけれど、でもそれがいいのかっていうと必ずしもそうじゃなくない?っていうか。

この時代の他の人と比べて面白いのは、この絵画にはパッと見て水がどこにあるかわからないところ。
他の人の”理想化された”絵画、水が水色で描かれているんだよね。でも川の水というのは鏡であり、光を反射して白く輝くか、周囲の風景を溶け込ませて暗く沈み込むかのどちらか何だよね。さすがレアリスム画家。

この絵は正直好きじゃないんだけど、「木陰の小川」という作品はものすごくよかった。

www.google.com

何が違うんだろう?って考えたんだけれど、コントラストかな。一本調子にならずにぐっと暗いところがあるだと思う。
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クロード・モネ「アヴァルの門」

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今回の展示で一番いいと思ったのがこの絵。ポストカードなくてチラシからなので荒い。全然よさが伝わらない。実物見るべき。
同じ海岸線をクールベも描いているのだけれど、モネのほうがずっといい。
海の絵というのはあまりにも描かれた範囲が広すぎて、遠近感が出しにくい。海岸にあるものや船なんかで何とかリズムを作ろうと皆努力してはいるのだけれど、どうしてもただ水平線が何本もあるような絵になってしまう。それでも悪くはないんだけれど。
この絵は海と崖を描きながらも、手前のはっきりした波でそこに海面があるのだとはっきりと水平面を打ち出している。ここにすごい立体感を感じる。そして崖向こうの穏やかな海と空とが一体化して、描かれない水平線が永遠の広さを感じさせる。
いい。ものすごくいい。

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ギュスターヴ・クールベ「波」部分

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コンスタブル展での空のように、クールベ展では海のある風景ではなく海、なんなら波そのものの絵画が展示されていてすごく印象深かった。全く同じ場所から描いた3枚の絵、波が来て、高まり、崩れ落ちるその数秒間を連写のように描いた絵がものすごくよかったのだけれど、ポストカードにもチラシにも全体図がなくてなんでじゃあああ!と私は憤っている。ひどいよ。この絵の前にベンチまでおいているのに、推しじゃないのかよ。

所蔵品じゃないから大人の事情なのかな……

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ジョルジュ・ルオー「人物のいる風景」

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汐留の最後はルオー。といいつつめちゃルオーっぽくない絵。
学生時代の絵だそうです。当時は「レンブラントの再来」といわれたそうで、そうほめそやしていた人たちは最終的にルオーが画風を確立させたときどんな顔してたのかなって思うと面白くなってくる。

「ルオーの裸婦」という小展示ですが、彼が描いた裸婦画は16点、そのうち大作は4つだけなんだそうです。そのうちの9つが所蔵品として展示されていて、収集頑張ったなというのが最初の感想。敬虔なキリスト教徒だったから裸婦とか描きたくなかったのかな。
幻想的でロマンチックな絵です。ふわふわとした森、ぼんやりとした薄明かりに小さく浮かび上がる人物。おとぎ話のようで面白い絵ですね。

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汐留、久しぶりだけどすごくよかった。
クールベ以外にもいい絵がたくさんあったよ。これとかもすごい好き。

spmoa.shizuoka.shizuoka.jp