情報が多くて気が散るよ モーリス・ユトリロ展 3/15
日本橋高島屋のユトリロ展、最終日滑り込みで行ってきた。この後の巡回は新型コロナの影響で中止とのことなので、本当にギリギリセーフといったところ。www.takashimaya.co.jp
もう何の情報もない公式ページ
ユトリロは20世紀のフランスで活躍したフランス人画家です。
で、この人がどんな人ですよ的な話をすると相当気が散るので、先に絵を見たほうがいい。
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モーリス・ユトリロ「モンマルトルのルヴァン通り」
実にユトリロらしい、いい絵です。空の色とか、質感とかがいい。
遠くに背景と同化した人の群れがいるけれど、画家の関心は建物と道路の表現に終始している。
「白壁をうまく表現するために白壁を溶いて絵の具にした」
というエピソードを以前友人に教えてもらったものだから、このかべってどの壁なのかなとか考えてしまうよ。
何枚か人物が描かれた絵もあったのですが、すべて棒人間のような後ろ姿の絵が殴り書きされているだけで、精密な彼の絵とはイメージが違って驚いた。
多分、人間が嫌いだったんだろうなぁ。
やっぱり画家は描きたいものだけ描いているといいよ。
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モーリス・ユトリロ「ロバンソンの居酒屋(オー=ド=セーヌ県)」
空、壁に続いて樹の表現もとても好きです。
ひょろりひょろりと描かれた枝はよく見ると割とカラフルで、うまい表現をするなぁと感心してしまう。
この絵はところどころパースが狂っていますが、他にもメインの建物だけ妙にサイズが大きかったり、時々急に乱雑な絵になったりと、画風にむらがある作家なんだなという印象を受けました。
多分だけど、メンタルの具合が大きいと思う。
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シュザンヌ・ヴァラドン「鏡の前に置かれた花瓶の花」
こちら、ユトリロのお母さんの絵です。
色使いや額の感じは結構いいなと思うけど、わざわざ鏡を構図に取り入れながら全く鏡像を描いていないよくわからない構図。他にも何枚か彼女の絵がありましたが、「なんか飽きっぽい人なんだな」という印象を受けました。
シュザンヌはドガに師事した女流画家の卵だったそうです。また、かなりの美人で当時の画壇でモデルとしても活躍し、ミューズ扱いだったそう。
ロートレック 二日酔い - Google 検索
ルノワール 都会のダンス - Google 検索
両方とも、彼女がモデルの絵です。特にロートレックの二日酔い、本人にすごく似ています。気の強そうな顔、蓮っ葉な雰囲気をよく掴んでいます。この絵、好きだけど前から見るとなんかどんよりした気持ちになるなぁと思っていたのですが、今回色々知ってしまったので、より一層どんよりした気持ちになりそうです。
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リュシー・ヴァロール「モーリス・ユトリロの肖像」
ユトリロの奥さんの絵です。これはポストカードさすがに買ってない。チラシから。
元々はユトリロの絵を夫婦で集めていた女性ですが、旦那さんが死んでからユトリロと再婚したのだそう。
本人も絵を描く人だったんですね~~~
へたくそだな、おい。
なんというか、シリアルキラーの描く絵に似ている。ヘンリー・ルーカスとか。ジョン・ゲイシーとか。
別に殺人鬼の絵というわけではなく、単に下手なだけなんだろうけど。
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ところで、ユトリロの略歴というのをご存知でしょうか。
一般的に言われているところでは
・母親の私生児として生まれる
・ネグレクトによりアルコール中毒となり、その治療の一環として絵画を描き始める
程度しか聞かないと思います。
Wikipediaにかかれているのもその程度。
しかし今回の展示最初に見せられる相関図からして、えっ?て感じ。
(チラシです)
そしてところどころにあるパネルによれば
- 知られている通り私生児。
- 「ユトリロ」という名前も母親に言い寄っていた男ミゲル・ウトリリョ氏が気を引くために認知しただけで、血縁関係はどうやらない模様。
- 母親に育児放棄され、祖母に育てられる。そして寂しさからかアルコール中毒へ。
- 中学校をアルコール依存症の末暴力事件を起こして退学に。
- その後精神病院で絵を描き始める。母親も画家ではあったが、まったく彼の画風に影響を与えていない。
- 恋多き母親は様々な画家たちと浮名を流し、離婚・再婚を繰り返した挙句、最終的にユトリロの年下の友人、アンドレ・ユッテルと結婚。
- 友人だったはずのユッテルは母親と一緒になってユトリロに安酒を与えて絵を描くことを強要。その売上金で母親と遊び歩く。
- ユッテルと離婚し、自身の健康に不安を覚える年になった母親は、ユトリロを5歳年上の裕福な未亡人、リュシー・ヴァロールと結婚させる。
- もともとユトリロの絵を集めていた彼女と結婚すれば大切にされるのかと思いきや、家に監禁されて絵を描くことをまた強要される。
- 妻は画商にユトリロの絵と自分が描いた絵を抱き合わせで法外な値段で買い取るよう要求するなど、金づるとして見ていた模様。
- 石に「助けて」と書いた紙を巻き付けて家の外に投げるなど、外部に助けを求めていたとの証言有。
……つらくない?
特に友人が母親と結婚した後のあたり、辛くない?
そのころの作品が「白の時代」として最も高く評価されているそうですが、それって現実逃避が必要だったんじゃない?
ユッテルとの友情は本物だったのかな……それが偽物で最初から金目当てだとしても、金に目をくらませて友情が消えてしまったのだとしても、どっちにしてもつらくない?
こんな情報冒頭で与えられたら、割と動揺して絵どころではなくなってくるよ。
今まで美術の授業とかでふんわりとしか教わってこなかったのは、それを回避するためだったのかな?って思ったくらいだよ。
ユトリロの人生、幸せな時間ってあったのかな……って京都人に聞いたら、真顔で答えられた。