人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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書籍データ

  • タイトル:スタートボタンを押してください
  • 作者:桜坂 洋 他
  • 訳者: 中原 尚哉 他
  • お勧め度:★★★★

本を見せるととりあえずスリスリする。かわいくない?めっちゃかわいくない?

f:id:minnagi:20190426100259j:image

GW前に読み終わった本です。GW中は1冊しか本読まなかった。

収録タイトル

桜坂 洋「リスポーン」

唐突に理不尽に殺されてしまった青年はその直後殺人犯の体に自分の意識が移動していることに気づく。けれど誰にも信じてもらえるはずもなく、そのまま刑務所へ。そうして裏社会へと引きづり込まれた彼は何度も殺され、その殺人犯に生き返るというループに陥っていく

途中で人生はゲームみたいなもんだ見たいな独白が入るけど、基本的にゲームとは関係ない話。
設定はまぁありきたりと言えばありきたり。こないだネットフリックスの「ラブ、デス&ロボット」でも似たような設定の話を見た。けれどそれがなぜ起こるのかという仮説は一応あまり見ないものかな。理不尽さと疾走感が面白い。

 

デヴィッド・バー・カートリー「救助よろ」

エルフの少女がゲームにはまってしまった元彼氏を助けるための冒険の旅に出る。長い冒険の旅に気づかされる世界の真実とは。

あぁこういう世界観の話なのね。現代ファンタジーもの?と思いつつ読み始めて、その設定が途中で大きく捻じ曲げられる感覚が面白い。現在を肯定することと、現在よりほんの少しだけ差分のある世界を許容することは大きく違うのだろうか。それが何千回何万回と、ほとんど見分けのつかないような違いを許容していくうち、いつの間にかもう戻れないほど変わってしまった困惑が悲しい。
結局メグは彼氏をリーナにとられたのだろうと思う。そこに元の彼女は囚われているのだから。 

ホラー・ブラック「1アップ」

ネット上の友人の葬式に出席した少女達。しかしなにやら様子がおかしい。友人の部屋には外から鍵が付けられ、義理の母親からは早々に追い出される。友人が残した自作ゲームを起動すると、その真実が明らかになるだろうか?

古き良きアメリカホラーの雰囲気。スティーブン・キングのリアル路線短編に近いノリで好き。

 

チャールズ・ユウ「NPC

雰囲気話。意図的にぼんやりと霧がかったような表現をされている。何が起きているのかも具体的によくわからない個所が多い。
こういう話、私は結構好きなんだけど説明しづらいし、人に勧めにくいんだよなぁ。
スティーブン・キングの「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」に雰囲気が近い。あれ好きならきっと好き。 

 

チャーリー・ジェーン・アンダース「猫の王権」

はやり病に感染して自閉的になってしまった女性に、その妻がプレイすることで機能改善が見込めると噂のシミュレーションゲームを買い与える。確かにゲーム中は元の人格が戻ってきたように見えるのだが…

絵ヅラはかわいいだろうけれど結構悲惨な話。ここで流行している病気は陰謀なのかなぁ。主人公がパートナーを振り棄てて幸せになってくれればと思う。

ダニエル・H・ウィルソン「神モード」

これも雰囲気話。NPCよりさらにぼんやりしている。SFに慣れた人なら多分こういう感じなんだろうなとわかるけれど明示しているわけではない。

ミッキー・ニールソン「リコイル!」

終業後のゲーム会社に忍び込んでこっそり作業している青年。警備員が見回りに来たので隠れていると、そこにテロリスト達が手引きされて侵入してくる。国家の危機、そして帰りが遅いのを心配してやってきた彼女も囚われてしまう極限状態の中、事態をどう打開するのか。

映画にありそう。なかなかハラハラさせるし読みやすい。

ショーナン・マグマワイア「サバイバルホラー

シリーズもののスピンオフだから、まぁ完結はしているしギリギリ読めるけど世界観とか説明不足でおもしろくない。 

ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」

産休中にこっそり夫の戦争ゲームをプレイしている女性。いつものように遊んでいると、急に早退してきた夫がプレイを見せてくれという。そのプレイスタイルは通常のものとは大きく異なり…

これも映画にありそう。戦争ゲームの描写やそれを通り抜けた後の平穏、夫のマンスプレイニングからの驚愕と、世界が鮮やかに開ける感じがよい。
本当に必要とされているのがどういう人かって言うのがメッセージ性強い。 

アンディ・ウィアー「ツウォリア」

交通違反の罰金を払おうとした貧乏プログラマは、自分の違反データが消えていると告げられる。そこに連絡してきた謎の相手は自分がネット黎明期にプログラマに作られたAIだと告げてくる。創造主である彼の願いをかなえると言うが…

かなり好きな話。短編なのが惜しい。このままアメコミのヒーローペアにでもなりそうな話なのに。ツウォリアの語り口が好き。
この作者の有名作「火星の人」について、本は読むけどITに慣れてない人がよくわかんないって言ってたから、これも人を選ぶのだろうか?普通に読みやすいと思うけどねぇ。

コリイ・ドクトロウ「アンダのゲーム」

冴え無い少女アンダはMMORPGの有名グループに加入し、女性活躍のために戦っている。ある日ゲームをプレイすることで現実のお金が稼げると勧誘された彼女は指示されたとおりゲーム内の所定場所でバトルをするが…現実と虚構の差別構造が入り混じる。

まあまあ。この世界ゲームがそんなに一般化されてるのかな?フェアトレードみたいな話。結局誰が誰を搾取しているのか。

ケン・リュウ「時計仕掛けの兵隊」

家出少年を親の元へと送り返す途中の賞金稼ぎが、少年の作ったゲームを暇つぶしにプレイする。そのゲームの内容が示唆するところは、もしかして少年の、そして父親の秘密とかかわっているのかもしれない…

結構好き。物語内に出てくるゲームの物語の雰囲気がいい。全てが多重構造になっていて、全部がつながった時に恐ろしさがある。もし少年が親元に帰ったとしたら、彼はどうなってしまうのだろうか。

 

総評

面白い物の方が多いけど、1個何これ?ってのがあって、ぼんやりした話も多い。SFだからとソリッドな話を期待していると期待はずれかも。
ゲームがテーマのアンソロジーだから用語がわかっていないとだけど、それぞれの話の前書きで解説してくれるから問題ない。実際私もほとんどゲームはしないし、この本で多く取り上げられるオンラインバトルゲームは一回もやったこと無いのだけれど、それでもストーリー読むのに問題ないと思う。
なかなか良かった。