人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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いつもよりざっくりでお伝えしています 箱根彫刻の森美術館 11/24

箱根旅行でフラフラしたんだけど、小一時間ほど時間が余ったぞと急遽彫刻の森美術館に行ってみた。

箱根 彫刻の森美術館 THE HAKONE OPEN-AIR MUSEUM

結論から言うと、1時間ではとても無理であった。広い。広すぎる。

あと、アスレチック的なものがいくつかあって子供がいたら楽しいだろうなぁと思った。ください。

 

マルチェロ・マスケリーニ「翼のあるキメーラ」

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入ってすぐに出てくる彫刻。いきなりすぎてビビる。衝撃的すぎて「地獄のツインテール」と命名する。
正直よくわからない。蹴爪あるんだなぁと思った。

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岡本太郎「樹人」

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 太郎はいつ見ても太郎。安定の太郎。

作品カラフルなイメージ強いから、すごい白いなぁと思った。感想雑ですが、好きです。
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ナウム・ガボ「球形のテーマ」

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レトロフューチャー。背景とかぶって見づらいと思うけど、中央部分ワイヤーが張ってある。

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70年代とか、こういうのあるよね。

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ヘンリー・ムーア「ファミリー・グループ」

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とにかくここはムーア推しであった。あっちを向いたらヘンリー、こっちを向いたらムーアである。なめらかな何を表現したのかもわからない曲線の塊、溶け合う人物像、以外にも鋭角で荒々しいシルエットのもの。だいたいが二つ一組で製作されていて、人物関係を表現したいのかなぁと思った。

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考案:鹿内 信隆 グラス作成:ガブリエル・ロアーム レリーフ彫刻:伊藤 敦

「幸せを呼ぶ≪シンフォニー彫刻≫」

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結局作者というか下絵を描いたのが誰でどこまでの作業を誰がやってるのかわからないステンドクラスの塔。細部を映すのに夢中になって全体像を撮り忘れるのは私の悪い癖なので、適当に公式サイトでも見てください。外からは黒っぽくしか見えないけれど。

f:id:minnagi:20181204150040j:imageとにかくきれいなステンドグラスです。色々な物語がありそうな気がする。

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マックス・エルンストセドナ・シリーズより 頭部」

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「君の好きなエルンスト、今回は上級者向けだよ」と言われた。確かに。
幅広い作風を見せるエルンスト、後期の作品のようですね。
庭園全体に巨大彫刻がドン!ドン!と置いてあるので展示替えとか無理じゃね?と思いましたが、いくつかある建物の中には比較的小さな作品による企画展がありました。
一回来たら終わりというわけでもなさそう。

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アレクサンダー・カルダー「赤いペナントー吊るモビール

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そうか、モビールも彫刻か。エアコンの風でかすかに揺れています。この人の作品好き。


普通の3次元的な彫刻、レリーフだけでなくステンドグラス、ガラスの建築物のようなもの、さらには壁画かと思ったらモザイクらしいけど遠すぎて正直見分けがつかないよってものまでありました。何でもありだなと思った。

とにかく駆け足で見たから、感想もざっくりです。

一番奥にあるピカソ館には入ることすらできなかったので、そのうちリベンジしたい。ガラスの森にも行ったことないし。

有名どころいっぱい ポーラ美術館常設展 11/23

わざわざ都心からハイシーズンの箱根に交通費何千円もかけて2時間以上電車とバスを乗り継いでやってきて、企画展だけ見て変えるとかあり得ないでしょう。

www.polamuseum.or.jp

 というわけで、コレクション展は公式サイトから見れる。以上。終わり。

 

この美術館は結構広くて、内容がかなり豪華だ。金持ってんな~って感じ。
正直全部見れなかった。企画展の増田セバスチャンは、銀座のポーラアネックスで見たやつっぽいからパス。特集されてた藤田藤二も好みじゃないからパス。外に展示してあるのは真っ暗でそもそも見えない。
それでも後半かなり駆け足で見るしかなかったよ。

 

niŭ「しあわせな犬」
f:id:minnagi:20181129175819j:image入ってすぐのところ、庭に展示されている巨大彫刻。かわいい。日本の作家さんだそうで、動物愛護の祈りが込められているとか。
かわいい。ボールで遊ぶわんこが本気でかわいい。

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エドゥアール・マネ「ベンチにて」

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ああああ!マネ!!すきぃいいいいい!!!!数年前のモダン・ビューティ展でメインビジュアルになった絵じゃないですか!!!行くかどうかすっごい迷ったけどあんまり遠くて断念したんだよな展今回も、正直ホテルのタダ券が無かったら来なかったし。
パステル画がすごく好きです。本格的な作品というよりは習作、イメージの記録としてのデッサン。顔、その向こう側の緑の深い色が美しい。

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クロード・モネサルーテ運河」
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モネとマネは名前がよく似てる(だから何)。
不思議なバラ色の画面。上半分はしっかり描いているけど、下半分はもやもやと判別しづらい線の渦に消えていく。不思議な絵です。

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アンリ・ウジェーヌ・ル・シダネル「三本のバラ」

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点描的な絵が多かった。スーラとかシニャックとか。モネも広義の点描といってもいいと思うし、この人もだ。光の演出がうまいなと思う。題材自体は陳腐だしめっちゃ目を引く絵ではないけれど、ベンチや遠景が妙に魅力的。

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ンリ・ルソー「エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望」
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美の巨人たちで見てから、最近京都人お気に入りのルソー。エッフェル塔ってこんなだったっけ?というのはお約束。
だいぶこなれてきているなという印象。夕焼けや水面の表現は上手いと言ってもいい。

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ルイス・C.ティファニー「花形花器」

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なんじゃこりゃ???なメタリック陶器。どうしたらこうなるのかわからないし、花瓶ですって言われても何を活ければいいのかわからない。
え~、これ、何入れる?何入れても花瓶のインパクトに負けない?蘭とかかなぁ。ティファニーだけど、フラワーアレンジメントというよりは生け花っぽく前衛アートでないと無理かもしれない。
ちょっと使用例を見てみたいです。

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ドーム兄弟「スミレ文花器(左)」「フクシャ文花器(右)」
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 おしゃれ。モダン。ティファニーを見たあとだとめっちゃ安心する。非常に美しい花瓶です。
特にスミレ文花器が欲しいです。金彩のバランスがいい。

 

もう少しゆっくり見たかったなぁと思いますが、たどりつくまでにやったら時間がかかったから仕方ない。
箱根って避暑地だから、本当は1泊とかで来るところじゃないんですよねぇ。
学友たちはこのへんに別荘を持っていて、夏休みじゅうずっと箱根で過ごしたりしていました。暑中見舞いはこっちに送ってね、とか言われるの。そんで1ヶ月とか滞在するからやることまあまあ無くてひまで、そういう人たちに向けてできた美術館がたくさんあるんだとか言ってた。
お金持ちっていいねぇ。

ルドンのためならエンヤコラ ルドン ひらかれた夢 11/23

連休は箱根に行ってきたよ。もちろん、目当てはルドン。

www.polamuseum.or.jp

この部屋だけ撮影可能。ルドーン!!!大きすぎて全部収められない。

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オディロン・ルドンが好きだ。ここ数年、一番好きな画家と言ってよい。好きすぎて2回も岐阜まで一人旅行するくらいには好きだ。(岐阜県美術館というところが日本一ルドンを所蔵しているのだ)
なので正直、初見の絵は少ない。もうこうなりゃフランスに行くしかない!と言いたいところだが、猫やなんやで遠出は難しい。
それに、いくらたくさん所蔵してたっていつも全部展示しているわけではないのだから、見たことない絵を目指してえっちらおっちら行くのですよ。やっぱり。

でも前期展示にあったという笑う蜘蛛と起源の1枚が見れなくて残念。サイトわかりにくいよ…展示換えとあるけどどれが対象なのか書いてない。後期に追加された絵はないんだよね?多分。メインビジュアルになってる絵が無いのはどうかなぁと思う。

 

今回の展示は「ルドン ひらかれた夢」というタイトルにあるように、今回は世界に対して「ひらかれた」ルドンがテーマだ。
ルドンはその孤独な生い立ち、まどろむような世界観、そして静謐な黒い画面から、孤高の画家という扱いになっている。だが実際にはどうだったのだろうか、というのが観点。

つながルドン | ルドン ひらかれた夢 | ポーラ美術館

師匠の版画家ブレスダン(先輩かも?と書かれているが、しっかり師事しているのだから”かも”とするのはよろしくないと思う)や画風に影響を与えた学者のクラヴォーとともに、実は同い年というモネや同世代の画家たち、フォロワー達も紹介している。

モネが同い年とは知らなかったなぁ。確認しようとも思わなかった。
けど、別に同い年だからって交流があったわけでも影響を与えあったわけでもないよね…他の画家についても同様です。
とりあえず同じ時代だし並べてみたって感じで、キュレーションとしては微妙だなと思いました。はっきり友人だとわかっている人の作品ならともかく。

ルドン自身はそれほど社交的でもなかったようなのだけれど、世紀末芸術として後輩にはめっちゃ尊敬された画家であったようです。ナビ派とか。どっちかというとそちらを中心に展開したほうがよかったんじゃないかなぁと思う。ナビはなかったな。

京都人の感想としては「この美術館は見せたがりなの?」でした。岐阜から借りてきた絵の隣に「うちだって似たテーマの絵あるし!」と言わんばかりに別バージョンの所蔵作品を並べ、解説は自館所蔵作品にだけ付ける、みたいなのが多かった。モネだってあれやろ。いい機会だから見せびらかしたかったんじゃろ。さすがにルーアン大聖堂出てきたときは「教科書で見たやつや!!」ってびっくりしたぜぃ。

 

というわけでテーマ的には???と思うところが無くもなかったけど、初見の作品結構あってよかった。

 

イカロス」1890年ごろ

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初見。とってもいい。イカロスの話にこんなシーンあったっけ?となりますが、タイトルは後付けなのだそう。蛍光オレンジが印象的。こんな色のパステルあったのね。そして、それをポップな感じではなくこんなドラマティックな絵に使うって発想がすごいなぁ。
飛行の前に青年が捧げ持つのは、神か太陽への供物であろうか。具体的に何なのかは分からないが、心臓のように思える。

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「弓を持つケンタウロス

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弓を放った直後か、躍動感あふれるケンタウロス。厚塗りの色は壁画のようだ。ざっくりと大胆に描かれている。ルドンの赤は素晴らしいと思う。

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「花」1905-1910年ごろ
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花と言いつつ、何が描かれているのかもわからないような絵。中空にぽっかりと浮かぶ花瓶からは重力を無視した花が広がる。そもそも花というよりも深海の海藻や幻視生物のように見える。うつろな目が下を覗き込んでいるようにも見える。全体としても美しいし、各部分についてもいつまでも見ていられる良さがある。すごく好き。

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アネモネ」1908-1916年ごろ
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大正時代の日本洋画みたいだなって思った。渡仏した日本画科が入手して持ち帰ったものだそうです。さもありなん。
素直にかわいらしいです。シンプルで、最小限の造形で、鮮やかな効果。少しの物悲しさ。黒が全体を引き締め、青の抜け感が美しい。

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ロドルフ・ブレスダン「魔法をかけられた家」1871年
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ルドン以外だとこれが好き。魔法をかけられた、といえども実際にどんな魔法なのか読み取ることができない。ただの大きく静かな家に見える。やたらに動物がいるのがキルケーを思わせるけれど確証はない。右奥の塔や、茂みの奥が不穏ではある。
色々深読みをしてしまいそうだし、あまりに細かくて仔細に確認していてはどれだけの時間が必要なのかもわからない。

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岩明 均「寄生獣」(原画)1990-1995年
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京都人大興奮の原画。漫画ファンならみんな気になるよね。
古い漫画だけど、私も好きです。確かにちょっとルドンみある。ヒエロニムス・ボスの方が近い?

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こちらは美術館内レストラン(周り何にもないから、ここでしかごはん食べられないよ)の特製ルドンコースのデザート。きれい!すごくルドンっぽい。この赤い枝。

「神秘的な対話」1896年頃

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ルドンは赤い木をよく描いているんですね~わかってる~~
美術館の庭園にも、真っ赤な幹の木が生えていました。ヒメシャラという種類だそうです。秋の物悲しい庭園はルドンぽさあるなぁと思いながらおいしく頂いた。

この絵も好きです。空中に浮かぶような謎の神殿の中、巫女たちが信託を伝え合う。祝福された言葉からは花々がこぼれおちる。

 

図録も買ったけどまだ読めていない。ぱっとみ、展示されていない絵も参考資料として大量に載っているようだ。
ポーラ美術館がこんなにルドン持ってるとは知らなかったけど…頻繁に見に来るにはあまりに遠い。

ぐるぐるゆがむVR ムンク展 11/22

混んでると噂だったので、ムンク展は平日に行ったよ。噂ほどは混んで無かった。
平日4時くらいに行けばチケット列もなかったけど時間的に厳しいよね。

【公式】ムンク展ー共鳴する魂の叫び 

www.tobikan.jp

 

エドヴァルド・ムンクは19世紀末~20世紀のノルウェーの画家です。この時代マジ最高。
彼は家族の死を経験したり、親が異様に厳しかったりと暗い子供時代を過ごします。長じては「叫び」のような人の不安を誘うような絵を描いたり、精神病院に入院したなんてエピソードから、才能のままに勢いで描いている画家というイメージがあるのではないだろうか。

今回の展示を観た感想では「かなり考えてきっちり描く人なんだな」という印象を受けた。
初期の写実的な絵が非常にうまいこともあるし、同じモチーフを繰り返し描くことでより洗練され、よりテーマが純化していくのが面白かった。

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「ブローチ、エヴァ・ムドッチ」1903年

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見た瞬間、「マドンナがいる!!」って思った。下のマドンナと比べるとそう似てはいないのだけれど、見た瞬間は本当にそう思った。今でも思っている。
輝くひとみ、渦巻く髪、その美しさとエネルギーはまさにマドンナだと思う。

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「マドンナ」1895/1902年

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このバージョンも好き。淡い色彩、青く塗られてより背景と同化し、ひっそりと見上げる胎児。より迫力があり、美しく輝くマドンナとその影の対比がよりくっきりとしている。
そして、これの原版も来ていてやったぁ!って思った。
オレンジと緑の一番好きなバージョンは来ていなかった。その代わりポスターが売られていたのだけれど、3万だったので変えなかったよ…ひどす。

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「夏の夜、人魚」1893年
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 美しく、官能的な夜の海。タイトルは人魚だけれど、下半身は水に隠されて確認できない。無邪気に楽しむ奥の二人に対して、こちらを見下すような彼女は確かに人魚なのだろう。近づいたら引きずりこまれてしまいそうな深さがある。

水面に映る月の表現が面白い。彼はこういう表現を繰り返し使用していて、凪いだ鏡のような、時間が止まったような海を思わせる。

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「生命のダンス」1925年

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 めちゃくちゃ不安になる絵。
白い服の純真な女性、赤い服の情熱的な愛、そして黒い服の拒絶された愛を示すという3人の女性が描かれている。というか、右の白い服とダンスするハゲが気になる。怖い。めっちゃ怖い。

多分ムンク自身は、真ん中の赤い女性と踊っている人なのだろう。愛の喜びを表現するはずなのに、その顔は固くこわばり青白く、女性に呑みこまれそうになっている。
白い服の女性は、他の絵にも何度も出てくる妹なのだろう。無垢でピュアな少女のイメージ。

この絵を見て、ムンク自身は変わるつもりが無いのだろうなと思った。
「画家として十分な才能を発揮するには孤独でなければならない」と生涯結婚しなかったというがその割にモテモテで、普通に恋人もいたという。
ある富豪の娘と付き合って、結婚してくれないなら死んでやる!的なトラブルを起こさせ、拳銃事故で手を負傷したほどだ。

多分ムンク的には、女性が変わっていくように見えるのだろうなとこの絵を見て思った。
純粋な女性と付き合うと徐々に官能と性愛にとりつかれ、耐えられずに別れると陰鬱な死の空気をまといだす。
その過程の間、自分自身は変わらないつもりなのだろう。そして、実際に変わらないのだろう。変わらな過ぎるのだろう。
人間関係は、心の距離によって変わる。他人から知人に、友人に、そして恋人に変わる間、その関係は変わっていくし、時間と関係によって相手に見せる顔も変わっていく。それが普通だ。
それを受け入れられないなら、自分も同じように変わっていくことができないのなら、生身の人間と付き合うのは難しいだろうなと思った。

今だってきついけど昔みたいに女性の人権がもっと無くて、キリスト教の道徳観念が徹底されていて、潔癖で。それなりの年齢でそれなりに深い付き合いをしていたら当然結婚するだろうという社会規範の中で、切り捨てられた女性はたまらないよね…

1908年に入院して、以降描く絵がつまらなくなったなどとまことしやかに言われているけれど、この絵を見る限りとてもそんなことはないよね。単にフォーヴっぽくなっているだじゃない?

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「叫び」1910年頃

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あまりにも有名な絵。叫んでいるのは彼ではなく自然だというのも、もう常識といってよいだろう。
このポーズこそがムンクのトレードマークみたいな扱いになっているけれど、最初のバージョン(タイトルも異なるけど)では比較的写実無男性が描かれていて、繰り返しイメージをはっきりさせていくうちに抽象化していったのだなと想像するとおもしろい。

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ポストカードにないものも、公式サイトで見ることができる。

「家壁の前の自画像」公式サイト

アメリカのIT企業家みたいな絵。ジョブズ感がある。
会場に入ってぱっと飛び込んでくるのがこの絵なのだけれど、鮮やかな色と奇妙な立体感でものすごく目を引く。隣に飾られた「硝子のベランダの自画像」もパースが妙にとがっている。
彼の絵は独特のパースと悪夢のように鮮やかな色彩で、VRの世界に迷い込んだような気になってくる。視線の先だけ妙にピントが合う感じ、視界の端が奇妙に引き延ばされて歪む感じ、ゲーム画面の中に迷い込んだようだ。

 

「すすり泣く裸婦」公式サイト
この絵、前から好き。身も世もないドロドロの悲しみを、こんな冷徹に描けるのは普通じゃないと思う。

 

「ダニエル・ヤコブソン」公式サイト

ムンクの主治医でもあったという精神科の医師。力強く堂々とした肖像画であるけれど、右足に馬の足が重なっている。馬の蹄=悪魔の象徴だって。20世紀初頭の精神科治療だもんなぁ。嫌だったんだろうなぁ。

 

数も多いし、よい展示でした。公式ツイッターとかを見て混雑状況把握して、なるべく遅めの時間に行くのがお勧めです。

眠気も吹き飛ぶ豪華さ ルーベンス展 11/10

ふふふ、懸賞に当たりました。

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と言うわけで行ってきましたよルーベンス展。楽しみにしてたんだ。土曜だから、20時まででした。ゆっくり見れていい。

www.tbs.co.jp

上野の森の前を通ったのですが、フェルメール展やばいね。17時過ぎに誇張じゃなく300人くらい並んでたし、それなのに最後尾に「30分で入場」って札を掲げていて。30分でこんだけの人数あの狭い美術館に詰め込んだら芋洗いじゃね?立ち止まることもできなくね?日時指定入場券つけてこれ?って思った。

あそこの運営はちょっとひどいなと前から思ってる。今年のフェルメールは流石にパスします。

 

気を取り直してルーベンス

16世紀のフランドル≒ベルギーの画家ですが、今回の展示ではイタリアで学んだことが強調されていました。古代ギリシア彫刻に学んだところが大きいからでしょう。

作品数は70と少なめですが、当時から評価の高い王宮画家だけあって、大きい作品が多く、下絵はほとんどないので見応えは非常にあります。ゴージャス!ダイナミック!ビューティフル!と分かりやすい作品のためか、最近にしては珍しくキャプションが少なめでした。文書が多いのも面白いけど、それに感想が引きずられることもあるから良し悪しですね。ルーベンスは素直にその迫力に圧倒されてればいいんだね。

 

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「パエトンの墜落」1604-05年

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太陽神(誰なのかは出典による)の息子、パエトンの絵です。太陽を引く馬車を御しきれない彼をゼウスが雷で打ち殺した瞬間。めっちゃダイナミックな構図です。こうして小さい画像で見ると普通に見つかるのだけれど、雷の中央にパエトンがいないので、現物見たときはパエトンを探してしまった。
明暗のくっきりした眩い絵画。

神の雷、という主題はなんとなくサウルの回心を思い出します。それもとても良い絵でした。

 

「ヘスぺリデスの園のヘラクレス」1638年
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「「噂」に耳を傾けるディアネイラ」1638年
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2枚1組の絵。元は向かい合わせで飾られていたとか。

試練の一つとして黄金のリンゴを手に入れるヘラクレスのたくましさ、明るさに対して、その妻ディアネイラはとても不穏な絵です。「噂」のアレゴリーである老婆はヘラクレスの浮気を伝え、そこから生じた不和によりヘラクレスは命を落とすのですが…

浮気してたよね、ヘラクレス

どの本でもディアネイラのせいで死んだ!みたいな扱いなんだけど、浮気したじゃん。噂は真実じゃん。ねぇ。
思いのほかざっくりと荒々しい絵。

 

法悦のマグダラのマリア」1625-28年
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キリストが死んだ後のマグダラのマリアは色んな逸話があるけれど、これは荒れ野に隠居したバージョン。神の恩寵を受けて恍惚と倒れる彼女を天使が支えるというよくわからないシチュエーションの絵。使者のように青白く崩れ落ちるマグダラのマリアがとても美しい。

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「天使に治癒される聖セバスティアヌス」1601-03年ごろ
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ペストの守護聖人、聖セバスティアヌス。この時代も流行したのかなぁと思うけれど、どちらかというと男性の肉体美を追求したのだろうなと思います。
宗教画ではあるけれど、内省を促すような穏やかな絵ではなく、神の威光を伝えるダイナミックな絵が多い。プロテスタント改革に対抗したカトリックにより、民衆の心に訴えるわかりやすく大胆な絵を求められたこと。まだ個人で絵画を所有するほど市民が豊かではなく、教会や宮殿のために大きく華やかな絵を求められていたこと。
そういう時代では、暗い絵は好まれなかったのかもしれません。

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「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」1615-16年
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捨てられた 嬰児を発見する姫君、という主題はいろんな神話に現れる人気のものだ。
こちらはモーセではなくエリクトニオス。足が蛇みたいになっていたり、背景の噴水のおっぱいがいっぱいだったり、不思議な絵だ。
こうして見ると、召使であろう老婆がぬっと突き出してくるような、妙な存在感を放っている。
主題としてはヨーロッパの始祖となる初代アテナ王の絵ということで、西洋文化の讃美らしい。華やかで、思わせぶりで、いつまでも見ていられる。

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他にもすごい絵がたくさんあった。
「髭をはやした男の頭部」という絵が好きだ。もじゃもじゃ頭の老人の横顔を描いたものだが、巻き毛が光り輝いて本当に美しい。

ただ、ルーベンスって後世本当に大事にされていたのかな?ってちょっと疑問に思った。
アベルの死」という絵があったが、元は「洗礼者ヨハネの斬首」という絵だったが、18世紀に2度にわたり他の画家が頭、犬、背景を描き足して主題を変えられたそうだ。
頭って…普通、頭勝手に変える?犬とか漫画チックな軽いタッチで全体と全く合っておらず、どうしてこんなことしちゃったんだろうと不思議になる絵だった。
斬首というタイトル、そして頭を足したということから、多分最初は首から先が無かったのだろう。その断面はどんなものだったのだろうか。

「死と罪に勝利するキリスト」も大きくてしっかりした絵だけど妙にのっぺりしていてルーベンス感が無いなと思ったら、後年大幅に修復された時にらしさが失われてしまったそうで、がっかり修復はいつの時代もあるのだなぁと逆に面白くなった。

ルーベンス以外としては、「パトモス島の福音書記者聖ヨハネ」という絵が好きです。
黙示録を幻視する聖ヨハネという激しい主題なのですが、画面は美しく穏やかで素晴らしい。

全体として、明暗のくっきりしたダイナミックでゴージャスな絵なのですが、王宮向け、教会向けというには意外にもざっくりしたタッチで柔らかい雰囲気なのが印象的でした。肌の色も影に青系の色を使っていたりして、女性のふくよか()な体型もあってルノワールを連想させます。動物、とくに馬の描き方などはおなかがプリッとして目がぱっちりとしてドラクロワのものに近い感じです。ルーベンスは16世紀、ドラクロワは19世紀でルノワールは20世紀の人なので、3~4世紀も時代を先取りしている感じです。
もちろん後の2人がルーベンスに学んだことは間違いないのですが、こういったのびのびとした絵の始祖であり一種最初から完成されたものなのだなと思いました。

とてもよかったです。
入場前に京都人にフランダースの犬ごっこを禁じられたのが心残りなので、みなさまにおいては是非これぞという絵を選んで「僕もう眠いんだ」ごっこをお楽しみいただければと思います。

美意識の形成 10/27

資生堂ギャラリーに行ってた。

www.shiseidogroup.jp

行ってたけど書かなかったのはそんなに気に入らなかったのと、もらったパンフを読む暇が無かったからだ。読み終わったので簡単に書く。

 

今回は貸しギャラリーとして誰かの作品を展示するのではなく、資生堂の歴史と、初代社長に関する展示。

でっかい枠の中にカフェができていて、私が行った時はコーヒーを配っていた。
けれど私はコーヒーが飲めないので悲しかった…なんかその後ドリンクの種類増えたって噂聞きました。

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昔の資生堂商品見れて良かった。すごくおしゃれ。高級感あるなぁと思う。
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昔の資生堂の店や、銀座の様子の写真。モダンで美しい。f:id:minnagi:20181107152431j:image
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社長さんの本は表紙だけ。
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社長撮影の写真、ってのはいまいちだなぁと思った。

素人の雰囲気写真って感じ。

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もらえた冊子はすごくよかったです。薄いですが、歴史を踏まえたうえでの新しい美を創造する姿勢がよいと思った。f:id:minnagi:20181107153806j:image

おしまい。

キングオブ王道 フィリップス・コレクション 10/27

 三菱一号館美術館のフィリップス・コレクション展に行ったよ。

mimt.jp

毎度ここはとてもセンスがいいです。建物が19世紀末の歴史建造物なので、コレクションも企画展もそれに合わせた展示を行っています。誰が見ても素直に美しいと思うような、そして割合誰でも知っているような有名作家の作品を扱うことが多いです。
コンセプトがしっかりしている。

 

今回のフィリップス・コレクションもそう。
コレクション主であるダンカン・フィリップスさんは鉄鋼王の孫としてビック・エイジのアメリカに生まれるというザ・セレブリティな人。京大で美術評論家をやり、おまけに妻が画家と来たら知識も審美眼も一流だ。やっぱさぁ…こういう素養って実家が太いとアドバンテージあるよね…

フィリップス・コレクション - Wikipedia

そんなわけで勢いのあるセレブが集めたモダン・アート(彼曰く、同時代絵画)が中心なのでかなりゴージャス。そして、最初から美術館を作る目的で集めているのでわかりやすいです。
絵画の作風の流れや、この画家の特長的な作風はこれだ、とか。
例えばモネ。ふつーに何も考えずモネの絵を上げろと言われたら、睡蓮の池やルーアン大聖堂なんかの有名どころをあげてしまうと思うのですが、フィリップス・コレクションにあるのは崖の絵。「ヴァル=サン=ニコラ、ディエップ近傍(朝)」

作品紹介|フィリップス・コレクション展|三菱一号館美術館(東京・丸の内)

光の表現が確かに見事な「印象派のモネ」としてお手本のような絵です。
こういう判断力に優れた人だったんだなと思う。

 

ジョン・コンスタブル「スタウア河畔にて」1834-37年ごろ

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19世紀末にこの表現!フィリップス自身も、「時代を50年は先取りしていた」「この画家の導き無くして、のちのモネやファン・ゴッホを想像することは難しい」と言っています。
ぱっと見現代美術みたいな何描いてるんだろう?という絵なのですが、前に立つと何の違和感もなく牛や羊たちがくつろいでいる様が見えてくる。水面の輝きと言ったら信じられないほど美しくリアルです。
一番輝いている絵だった。

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ジャック・ヴィヨン「機械工場」1913年

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 キュビズムの先駆けという感じで紹介されていたけれど、それを飛び越えてフォーヴ、むしろコンポジションのようなリズムを感じる。

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ピエール・ボナール「棕櫚の木」1926年
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 めっちゃ思わせぶりな絵。
棕櫚の葉=殉教者の印で区切られた向こう側の世界は天国なのだろうか。「楽園へ導こうとするマルト」が手にしているのは林檎=罪の果実だろうか。だとしたらその手を取ってたどりつくのは、本当に楽園なのだろうか。

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ジョルジュ・ブラック「フィロデンドロン」1952年

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フィロデンドロンってなんだろ?て思ったら、絵に描かれてる観葉植物の名前なんですね。トップクラスで好きな絵。
窓のカーテンが刻む繰り返しのリズム。暗い画面の中鮮やかに浮かび上がるテーブルとイス。全てがビンの中に注ぎ込まれる。

これ結構大きく縦長な絵で、近くに立つと一度に全画面を見ることはできないんですね。それで上から下まで見上げて見降ろしていて思ったのだけれど、ブラックのキュビズムって写実ですね。
天井を見たときの視点とテーブルを見たときの視点は、当たり前だけれど違うんですよ。それを一つの視点に統合するのは、絵画的な嘘になってしまうわけで。
アントニオ・ロペスはそれを自分に許容できずに画面を分断してしまうけれど、キュビズムを使えば視点移動をうまく絵画の中に落としこめる。
絵の前に立って上から下まで視線を動かしていけば、そういう不思議なリアリズムを体感できます。

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パウル・クレー「画帖」1937年
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 こっわw
クレーって言うとなんかほっこり~なイメージあるけど、これ怖い。めっちゃプリミティブだし。宇宙人みたいだし。シーラカンスっぽいし。

ワシリー・カンディンスキー「連続」1935年
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 かわいい。エビちゃんがダンスをしている。楽譜のような、誰かに宛てた手紙のような絵。
この人はいろんなタイプの絵を描くね。雰囲気で描いてるのではなく、色々と理屈を考えて描いていそうな気がする。もしかしたらちゃんとに文法や意味があって、ルールさえ知ればすらすら読めるのかも知れない。

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ジョルジュ・モランディ「静物」1953年

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隠された壺。

モランディは静謐でなかなか美しい絵を描く人だという認識なのだけど、たまに見かけるのが全てこういった箱と壺のナチュラルトーンの静物画なので、実はまとめてみたことがない。美術展に行って全部類似絵だったら流石にちょっと損した気になりそうで。貧乏性だから。
けどこうして一枚みると、素直にいいなぁと思う。古典絵画だったら前面に出して「俺様は陶器の質感を描き分けできまっす!」ってアピールポイントになる壺が、箱?本?の奥に隠れているのが面白い。なんで隠れてるんだろうとか、隠れたところはどうなっているのだろうかとか、広がりを想像させる。その隣にひっそりといる深い色のカップについても。

 

今回は本当に豪華な展示だった。「全員巨匠」というキャッチコピーに偽りなしだし、その画家の代表作ではなくとも個性が見事に現れた絵が来ている。逆に代表作って、ゴッホのひまわりやモネの睡蓮とか、本人気に入って何度も描いてるからあちこちにあるし、描き方も最適化されて棘がなかったりする。フィリップスは、成金趣味じゃなくて本質を見て絵画を選んでたんだろうなぁって思いました。

楽しかった。