前回行きそびれたコルビュジエ展に行ってきた。
コルビュジエ、すごく言いにくい。コルビジュエとかコルビジェとかコルビュジェとか本によって表記がずれるのは、もう外国人の名前を無理やりカタカナにしてるんだから仕方ないよね。
ル・コルビュジエ、本名シャルル=エドゥアール・ジャンヌレはスイス生まれでフランスで活躍した画家、建築家です。
今回の展示では本人が本名と筆名のどちらで署名しているかに準じているんだろうけれど、画家としてはシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ、建築家としてはル・コルビュジエとして掲示されている。
けど今回は全てル・コルビュジエで統一させていただきたい。
表記揺れは良くないと思います!!
一応最初は画家で、それから建築家になった人です。
だけど建築家としての顔の方が断然有名。ドミノシステム、「新しい建築の5つの要点(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサード)」といった新しい概念を生み出した業績もさることながら、ピュリスムという言い方でごまかした絵の下手さも原因だと思う。
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前述の「新しい建築の5つの要点(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサード)」が全て盛り込まれたというモダンな建築。
それまで構造を壁という面で支えていた建築の制限を鉄筋コンクリートという新しい素材を使用することで、取り除き、柱で全体を支えることで大きな窓や構造指示にとらわれない壁、そして何より特徴的なピロティを可能にしたのです。
「建築構造を柱で支える」というのは今では当たり前になっているし、古典的日本家屋なんかもろにそれ(障子に土壁とかね)なので、あんまりすごさは今見てもわからないかもしれない。けど、それまでの石造りで重厚な西洋建築、建物が重すぎて満足に窓も作れないような古い教会や、新しくてもせいぜいパリの街並みなんかの建物と比べると、ぐっと軽やかで明るいのが見てとれるだろう。
すごいかっこいいし、とにかく窓がでかくて明るく住みやすそうだなと思うんだけど、それ以上に金持ちのためのデザインだなぁと思う。
なんだよピロティって。1階部分の土地まるっと使って無いじゃん。もったいないじゃん。部屋作っておいてよ!って思ってしまう。日本の住宅事情だと。
あと、地震に弱そうだなってのも思う。国立西洋美術館もル・コルビュジエ作でピロティしっかりあるけど、こんなに細くないもんね。
ワンフロアで十分なほど広い土地を持った西洋のお金持ちのための作品、実にうらやましい。
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アメデオ・オザンファン「グラス、壺、瓶のある静物」
ル・コルビュジエと一緒にピュリスムを立ち上げた画家、オザンファンの絵。
ピュリスム…ピュリスムってなんなんだろうね。なんか理屈先行で、そもそもの発端が「最近の画家はなってない!ような気がする!」という盛大な勘違いから始まっているので、いまいちよくわかんない。
- 当時はやっていたキュビズムより、鑑賞者にわかりやすくシンプルにすること。
- 大量生産工業品の時代を肯定的に受け止め、デザイン性を向上させること。(アーツ&クラフツの逆、グッドデザイン賞的な発想だろうか)
- 幾何学的、数学的な構図でシンプルな美しさを追求すること。
こういったあたりを目標としているようだけど、結局はキュビズムと仲良くなっちゃったりしてるしね。血気盛んな若者~って感じ。
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ピュリスムの定義とは関係ないはずなんだけど、彼らはほぼ同じものを並べた似たような絵を大量に描いています。
瓶、皿、壺、開いた本。
最適化された構図というのはいくつかに収束されてしまうから、同じ絵をひたすら大量生産することになってしまう。
私、鉄道写真ってあんまり好きじゃないんです。
あれって、「正解」がほぼ決まってるんですよね。電車がこういう風に写ってるとよいという基準がありすぎて、構図がほぼ決まっている。そうすると、表現方法も固定化され、失敗作以外誰が撮っても同じものができる。むしろその「完璧な一枚」を目指して皆が努力している。
電車本体に興味がない写真鑑賞者としては、「間違い探しをしに来てるんじゃないんだけどな」って気持ちになる。
ピュリスムも、ちょっとだけそういうところがある。
それでもガチガチ理論専攻からだんだんと軟化して行くと、いろんな表現が出てきて面白くなってくる。ポストカードにはなかったけど、正面からとらえたオブジェに右から光を当てて左の壁に影を落とし、前からは見えない部分を表現していた作品が面白かった。だまし絵のような、まったく別の種類のキュビズムのような。
ちなみに同じ理論で描いたル・コルビュジエとオザンファンは当然絵がそっくりなのですが、案外簡単に見分けることができます。
曲面の影をセル塗り的に幾何学的に描くのがオザンファン。執拗にグラデーションを重ね、時々塗りすぎてぼこぼこしてるのがル・コルビュジエ。
ね、簡単。
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ル・コルビュジエ「暖炉」
ジョルジョ・モランディを思い出す。
暖炉、というタイトルながら、暖炉は左下のマントルピースが一部写り込んでいるだけ。その上に置かれた本や立方体といった穏やかな色彩の重なりを表現している。
静謐で、温かみがある。遠い建物に続くゆったりとしたアプローチにも見える。
好きな絵です。
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パブロ・ピカソ「魚、瓶、コンポート皿(小さなキッチン)
最初はキュビズムに反発して立ち上げたピュリスムだけど、冷静に見つめてみたら、目指すところは案外近かった模様。後期ピュリスムと後期キュビズムは割と似ています。
そうやって親交を結んだ結果として、キュビズム作家の絵もいくつか展示されていました。
ピカソのこの辺の絵はとてもかわいくて好き。
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建築より絵画の方が多かったです。
都市計画の絵とかも少しあって、京都人も満足した模様。
今回、建築系の学生っぽい人がたくさん来ていました。
そんで、アホの子な感想なんだけど、みんながみんな建築模型見て同じこと言うのが面白かった。彼女とか連れてる男子がみんな「ピロティ」って言うんだもん。
いや、ピロティは正しいよ。それはピロティが特徴的な建築だもの。でも、「ピロティ」って言葉の響きが既に面白いじゃん。
頭のよさそうな学生がまじめな顔して「ピロピロ」「ピロピロ」って言ってるし、連れもまじめな顔で頷きながら「ピロピロ」「ピロピロ」って答えるし。
そんなん、面白さしか無いじゃん。
今回の展示を見に行ったら、まず入ってすぐのエリアで建築模型を見つけ、耳を澄ますと言い。あちこちから小さな「ピロピロ」が聞こえてくるはずだから。