大胆再現 ダ・ヴィンチ「夢の実現」展
オラはオサレな都会人なので、週末は代官山へ行く。
今回はダ・ヴィンチ作品の無料展示なわけですが、無料なだけあって本物は一つも来ていません。ファクシミリ版もない。
というか、この展示のコンセプトは既存のダ・ヴィンチ作品をただ展示するなんてケチなものじゃない!
東京造形大学の英知を結集し、500年前に作られた作品の劣化を補うだけにとどまらず、「ダ・ヴィンチは本当はこんな風に作品を作りたかったのでは?」というのを予想してCGで実現するという大胆なことをやっています。未完で放置された作品を完成させてみたりしているよ。
ついでに、スケッチで終わったダ・ヴィンチの発明品も、3DCGと3Dプリンタで立体化している。おもしろい。
太鼓自動演奏車
兵器デザイナーとしてのスケッチを3Dプリンタで出力したもの。
大八車のような持ち手を引いて進むと、後ろの太鼓がドンドン叩かれる仕組み。
それが何の役に立つのさ?というと、相手軍の馬を驚かせて兵力を削ぐんだそうです。
へぇ~って思ったけど、それって自分たちも馬使えないよね?
それで実用化されなかったのかな。
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自動ロースト機
下の金串に鶏肉を刺して、下から火をつける。そうすると上昇気流で煙突上部の羽が周り、その回転が金串に伝わって回転する仕組み。
なかなか便利な気がする。暖炉に標準装備してもよさそう。実用化はされたのだろうか?
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ジネヴラ・デ・ベンチ(復元)
女性が表、文字が書いてあるほうが裏。裏面の復元は初めてとのこと。
復元前
下の方大胆に切っているな~。
私だったら、手持ちの絵画が修復不能なまでに傷んだとしても下を切っちゃうって発想にはならないと思う。そんな勇気はない。
多分下の部分を覆うような額を作って隠す、とかだと思う。
復元としては順当で、絵画としては硬質で面白みがないかな(いいとこないじゃん)
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サルバトーレ・ムンディ(復元)
こちらが復元された絵だけど、なんだかぼんやりした絵だねぇ。CG使って復元すると、なんか今どき見ないくらいCGイラストレーション初期の変なのっぺりぼやっとしたグラデーション絵画になりがちだと思う。
この絵はオークションで史上最高値を付けたことで話題になったから、覚えている人も多いかと思う。
この絵は来歴が面白い。解説動画で詳しく説明されていたのだけれど、元はこんな絵だったそうだ。
復元前:1913年のクック・カタログに掲載された白黒写真
全然違う~~~気がするけど正直元の写真のクオリティが悪くてよくわからない!
目つきや髭の感じが違いますね。こちらのほうが上目遣いというか、ちょっと目つきが悪い。悪役っぽい顔をしている。
実際落札された瞬間の絵はどうだったのかな。
ともあれこの白黒写真は元の絵に復元目的で加筆がされた状態なのだそうです。
では最新の調査過程でその加筆部分を消したのがこちら。
復元前:後世の加筆部分を除去した直後の状態。白い部分は、顔料が削り取られていた箇所
こ、これは酷い…
「顔料が削り取られていた」ってどういうこと?というと、板に描かれた絵が水濡れか何かで湾曲してしまい、その湾曲を取るためにカンナ掛けをしたのだとか……
なんで?!なんでそんなことするの???絵がいらないの?いらないなら捨てないの?
捨てるほどいらなくはないけど痛んでもいいくらいには必要だったの???
完全に意図が分かりません……いいじゃん、歪んだままで展示すれば……
とはいえこの「後世の復元」にはいろいろ考えさせられるものがあります。
だって、本当にこの絵そのものを見るのなら、このハゲた絵の状態が一番オリジナルに近いわけじゃないですか。
それを上から塗っちゃうって、この最新の復元が一番研究の進んだ最高の復元って保証もないわけでしょ。もしかしたら、その前の復元のほうが、オリジナル絵を見た人によるより最初の状態に近い復元かもしれないじゃない。
そもそも、「後世加筆された部分だけを除去」ってのも本当にできてるかわからないじゃない。ダヴィンチが後から塗り足したところを消しちゃったかもしれないし、ダヴィンチの50年後に弟子が塗り足したところが残ってるかもじゃない。そんなのわかんないじゃん。
まぁ全く手を入れないと逆に痛むからある程度は剥離防止に手を入れなければならないとはいえ、程度問題よね…
絵の来歴や復元研究なんかはこちらのサイトが詳しいです。
最後のダ・ヴィンチ作品「サルバトール・ムンディ」@BS朝日 : Art & Bell by Tora
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最後の晩餐(復元)
オリジナルの曖昧模糊とした色の塊からは程遠い、鮮やかな復元図。
しかしあまりにも現状と違いすぎてどうなんだ?ってなる。
何を根拠に復元したの?っていうと、他の人の描いた複製画なんだそう。なるほど。
元の壁画が描かれたのが1495〜1498年とのこと。そこから近い順に並べると
このように、どんな感じに加筆修正されて行ったのかが分かるという理屈です。なるほどなるほど。
人物に関しては一部の服の色が違う程度ですが、左右の壁が全く違う。
最初は真っ白な壁だったのが、鮮やかな花柄のタペストリーか何かがかけられ、そして消されています。
タペストリーの間の出入り口のサイズも大きく変動しています。
これで不思議だなぁと思うのは、一番古い複製画に準拠してないんですよね。
おかしくないですか?理屈から言えば、一番古い絵が一番オリジナルに近い複製画に決まってるじゃないですか。絵が上手い下手ではなく、何が描かれているのかという点ではそれが一番正しいはずです。
でも左右の壁は一番新しいものに近い。どゆことー。
まぁ新しい古いって言っても10年くらいは誤差ってかずれてる可能性はあるけどねぇ。この理屈で言うと復元画は最古の複製画と全く同じものになるだろうし。それは流石にって思うだろうし。
上から塗り重ねられたものは剥がせば元絵が出てくるけど、剥がれ落ちちゃったものはわかんないだろうけどな。何をもって正確な復元としているんだろうな。
しかし元の絵がこうだったとして、見る影もなく痛んでしまった壁画がよく残ってるなぁと思った。
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VRでこの最後の晩餐の部屋に入れるというのがあって面白かった。
テーブルの上にある皿やリンゴを手に取ることができるの。魚は触れなかったけれど。
去年仕事でまさにそのVRをやっていた京都人が解説してたのが面白かった。
「これはXX(忘れた)という有名なソフト」
「ゴーグルにくっついてるこれが赤外線センサで手を認識する。僕が片手で君も片手で2本出したら認識するけど、3本手があったらバグる」
「対象に対して指2本を当たり判定してつかむことできる。親指と小指とか、現実では持てないだろって組み合わせでもつかめちゃうから、ここをリアルに再現しろって言われると難しい」
「だからほら、こうやって持てば…こうやって…こうなんだけど…」
理屈は完全にわかってるのに不器用すぎて持てないのが面白かった(ひどい
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絵画としてはこれが好きです。
ラ・ベル・フェロニエール(復元)
ちょっと白飛びしちゃったけど、全体に鮮やかさを取り戻した美しい人物画。背景黒いのがちょっともったいないなと思う初期作品です。
美しいのはいいことだ。