人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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【ネタバレ感想】きつねのライネケ

書籍データ

  • タイトル:きつねのライネケ
  • 作者:ヨハン・ヴォルフガング・フォン ゲーテ
  • 訳者: 上田 真而子
  • お勧め度:★★★★


今日の猫

f:id:minnagi:20190802124330j:image

  

これで気になったから読んで見た

minnagi.hatenablog.com

ライオンの王が統べる平和な王国の中で、狐のライネケはみんなの嫌われ者。
平和に仲良く暮らすようにとの王の命令を無視して鳥たちを食い殺したり熊や狼を罠にかけて重傷を負わせたり。
あまりの悪行に王様のもとに苦情が寄せられ、王宮で裁判が行われることになります。しかし呼び出しに応じるどころか、王からの使者を返り討ちにして半殺しの目に合わせる始末。
ついに王様は狐のライネケの家に軍隊を差し向けようとするが…

児童書なのでサクッと読めます。
サクッと読めるけど、読後のなんじゃこりゃ!感はすごい。動物ファンタジーか~勧善懲悪の寓話?イソップみたいな?くらいな気持ちで読み始めるとびっくりする。このびっくりを味わうために読む価値はあるかもしれない。

作者を見てゲーテが?ってなると思うけど、本当にあのゲーテです。ファウストとか若きウェルテルの悩みを書いたあのゲーテです。
とはいえ彼が書いたのは児童書ではありません。もとは十二世紀の後半~十三世紀のフランスで生まれたルナールという狐が主人公の「狐物語」という叙事詩ゲーテが韻文として編纂したものを、児童書として翻訳したのが本書となります。
しかし、あとがきには

中世ヨーロッパの歴史や宗教を踏まえているために現代の私たちには理解しにくいところとか、ライネケの悪行のうち、きわどい話や、あまりにも複雑に入り組んだものなどを省きました

とあるのに正直びっくりしました。嘘……ライネケ、本当はこれ以上あくどいことしてるの?もう十分万死に値するじゃん……って。
児童書にするために省いた子供にはとても読ませられないようなこと、どんな内容なんだろう。気になる。

ラストでは悪い狐ライネケと王の忠臣狼とが決闘をし、卑怯な手段でライネケが勝ったとたん皆がライネケを褒めそやし、王も含めてちやほやされて今までの悪行も全部許され悪がのさばる、というオチになっています。
正直、子供向け動物王国物語だとどうしても勧善懲悪の寓話を期待してしまうのであっけにとられてしまうのですが、それはこの話がそもそも中世に書かれたものだというのを留意しておかなければならないなとは思います。
中世ヨーロッパのキリスト教的考えからすれば、決闘に勝つというのは神の加護がその人にあるということで、正義がその人にあるということなのです。
だから「裁判で決着がつかないから決闘で勝負しようぜ」ということは「殴り合いで解決だ!」ではなく「神の審判を仰ごうぜ」ということなのです。
もちろんこのエンディングは中世のそういう考えを皮肉っているのですが、18~19世紀の人であるゲーテからすれば「世の中とはこんなもの」と完全に否定的な目でしか見れなくなっていることは、もうそういう感覚がだいぶ薄れているんだなと読み取れるということだと思います。

勝手にこういう話だろうな~とか思いこんでしまう自分の感覚がひっくり返される、楽しい読書体験だった。
しかしこんな話をパーティーの食器やテーブル装飾にしていたマイセン……やっぱりその感覚わかんねぇ。

 

プレミア価格じゃん

こっちのほうがまだ安い

安いし無料サンプルもあるけど、これを電子で読むのはちょっと辛い画質

青空文庫で探してみたけどなかったです。図書館行こう。