【ネタバレ感想】銀の仮面
書籍データ
- タイトル:銀の仮面
- 作者:ヒュー・ウォルポール
- 訳者: 倉坂鬼一郎
- お勧め度:★★★★★
収録タイトル
すごくおもしろかった。
この本に収録されているのは20世紀初頭に発表された話で、舞台も当時の上流階級となっている。
先日読んでいまいち面白くねぇなと思った怪奇小説傑作集とほぼ同じなのだが、この本はめっちゃ面白かったのだ。
自然、何でこんなに面白さが違うんだろうなぁって考えながら読むことになった。
銀の仮面
お人好しのオールド・ミスには友達はそれなりにいるが、本当に親密な相手はいなかった。友人づきあいで招かれるのも、誰かが都合が悪くなった時の穴埋めや人数合わせばかり。それでも彼女は自分の家で美しい調度品や美術品に囲まれて幸せに暮らしていた。
ある日、彼女の家に食うや食わずといった様子の美しい青年が転がり込み…
敵
古書店を営む男性はある日妙になれなれしい男に懐かれる。どうにも虫の好かない男から穏便に逃げ出そうとするも、うまくいかない。
毎日家を出るたびに飛び出してきて一緒に話したがる男にうんざりしていた彼はある日ついに迷惑だと口に出してしまうが…
死の恐怖
旅行に出かけた男は旅先の宿で、偶然仲間内でも性格が非常に悪いと評判の男が同じ宿に泊まっていることに気づく。性悪男と適当に会話する男は、性悪男がその妻をひどく虐待していること、そしてその性格の悪さが何かにおびえていることに起因していることに気づく。
ある日同宿の女性達と話していた男は、彼女たちが「閉鎖された銀山が近くにある」「そこに人を突き落とせば死体は誰にも見つからない」と話しているのを聞く。そして同じくその話を聞いていた性悪男とその妻は…
中国の馬
オールドミスは小さいけれども美しい家を持っていた。彼女はその家をとても愛していたが、経済的理由でその家を人に貸し、近くの小さな賃貸に移動することになる。
彼女の家を借りたのは若く美しい女性。そこに頻繁に訪れるようになったお金持ちの紳士が間借り人の女性に恋をしていることに気づいたオールドミスは、二人が結婚して手狭になった家を出てくれるのではないか、そうしたら自分の家に戻れるのではないかと期待するようになる。
プロポーズがうまくいくように紳士にアドバイスをするようになったオールドミスに対して、紳士は…
ルビー色のグラス
少年の家にいとこの女の子が引き取られる。何を話しかけてもおびえ、遊びの提案などをしても嫌がってばかりの彼女を少年はどうしても好きになれない。それなのにずっと仲良しだった飼い犬が彼女に懐いて自分を見向きもしなくなってしまい、ショックを受ける。
それでも少年や家族は彼女に親切にしようとするが、ある日家宝のルビー色のグラスに話が及び…
トーランド家の長老
ある田舎町に引っ越してきた中年婦人。愛にあふれた彼女は酷く年を取って喋れなくなった老婆と知り合う。尋ねてくる人もいなくて寂しいだろうと足繁く通い、ひっきりなしに老婆に話しかけるようになる。
家族は老婆が喜んでいると夫人を迎え入れるが、実は老婆は…
みずうみ
田舎に暮らしている売れない作家のもとに、"友人"が訪ねてくる。友人は作家のすることなすこと一歩先に成し遂げて耳目を集めてしまい、結果作家の功績はその陰に隠れて全く注目されないというのを何度も繰り返していた。悪気のない友人は作家と和解しようとし、作家も表面上それに応じる。
作家は友人を田舎の人気のないみずうみに誘き出し…
海辺の不気味な出来事
語り手が子供の頃の話。ある日海に家族で出かけていた少年は、そのあと楽しみにしている用事があるにもかかわらず、抗いがたい強迫観念で偶然見かけた老人のあとをつけてゆく…
虎
ある日男はジャングルにいる夢を見る。そこで生々しい虎の息遣いを感じるが、そのうちただの夢だと忘れてしまう。
仕事でニューヨークに行った男はそこがとても気に入り、再訪することにする。しかし再訪時は真夏。耐え難い暑さのため前回できた友人たちは避暑に出かけてしまって誰もいない。
そんななか、男性は虎の息遣いを再び感じる。街の物陰に、地下鉄に虎がいる。そういう男はノイローゼになったかに見えるが…
雪
妻に先立たれた男と結婚した若妻。二人の仲は最近うまくいかない。何かにつけて前妻を引き合いに出す夫に怒りを爆発させる若妻。しかしその抗議は全く夫の心に響かず、ついに離婚を言い渡されてしまう。
絶望する若妻のもとに前妻の幽霊が…
ちいさな幽霊
男の友達が若くして急死してしまう。友人の死に思いもよらぬショックを受けた男性はうつ状態になり、療養のため旅行に行く。泊めてもらった友人宅は子供が非常に多く、賑やかな家に疲弊してしまう。しかしその家でふと懐かしいような気配を感じ…
全体感想
最初にも言ったけど、面白かった。
この時代のホラーが何で面白いかなぁと思うに、第一はやはり朦朧体出ないことだろう。これは趣味だから仕方ない。もちろん時代的に殺人や性的なことははっきりと描写できないのだが、語れないことは語らないというスタンスなので違和感がない。
物語は基本的にひどい話で救いようがない。妙に教訓じみていないのが良いのだろうと思う。創作が寓話の段階を抜け出して小説へと進歩した感がある。
実際、雑感でしかないけど純粋な物語のための物語って割と新しい概念だよね。
そういう意味でこれはモダンホラーの短編集だ。今読んでも全く色褪せずに引き込まれるものばかりだ。古典感が全くない。
良い本だったと思う。