人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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【感想文】フローベール

こっちで読書感想文もやることにしました。
最初ブログ分けてたけど、めんどくさい…
ただそうするとカテゴリが死ぬので何とかしようとしてはいます。

 

書籍データ

f:id:minnagi:20190417225251j:image

うーん、なんだろう、この本…
読書中に思わずブログ更新してしまったんですが、この本基本的に「抄」なんですよね。物語の途中が粗筋になっている。なんでこんな形態なんだろう?って正直不思議に思います。
ただあらすじだけ知りたい人用、というには各話が普通に250ページとかちょっと薄い単行本くらいのボリュームがある。○分でわかる名作みたいな簡易本では決してない。
「ポケットマスターピース」という名前なだけに表紙は文庫本サイズではあるが、848ページあるのでこんなもんポケットに入るわけもない。
ほんと、なんなんだろう。何がしたかったんだろうこの本で。本書くと手軽さの両立を目指そうとして両方失敗しているような気がする。

あ、でも話は面白いし訳も美しいです。だからこそすっごい戸惑う。

 

収録タイトル

十一月 何らかの文体の断片

少年のころから理想の恋にあこがれるあまり現実の女性に恋愛することができずにいる青年。思い余った彼は娼館に行き、一人の娼婦と出会う。彼女はまるで彼の写し鏡のような女だった。

率直な感想としては、「エロ本だなこれ」です。老人が現在の自分を人生の黄昏、十一月になぞらえて青春時代を思い出すという形態になっているので色々と美化されて感傷的になっているのはわかるけど、それにしても自分勝手な男だなぁとは思う。時代的なものも合うrけど、女の価値は容色のみなんだなぁって。
心理描写、青春の苦悩、自然の美しさという文章自体の素晴らしさはピカイチだし、娼婦の魂の激しさや理想化されたものと現実との苦悩というのも素晴らしい。
ただ、作者が最後どうにもならなくなったのかぶん投げて終わってるのがなぁ。途中で書いてるのが嫌になったのか、敢えてめちゃめちゃにぶち壊して終わるみたいなのが。
面白いと言えば面白いし、酷いと言えば酷い。

ボヴァリー夫人(抄)

美しい若妻エンマは、自分を熱心に愛してはいるが愚鈍で無能な夫にうんざりしていた。子どものころから小説にあるような熱く激しい恋愛にあこがれていた彼女は、理想の世界に比べた現実の味気なさに苦しむ。
それに付け込んだ遊び人の男や悪徳商人に騙され、エンマは身を持ち崩してゆく。

基本的なテーマは十一月と同じだ。
理想の世界と現実とのギャップ。虚構と現実の区別がつかないことへの苦しみ。
知らなければそれで済むものを、知ってしまったが故の苦しみは教育など不要なのだと言っているようだ。
心理描写は美しいし、エンマは馬鹿だなぁ、でも気持ちもわかるなぁとか、色々気持ちを揺さぶる文章です。
でも長い。
冒頭の少年部分とかいらないんじゃね?って思うけど、わざわざ後から描き足したくらいフローベールには重要な部分だったようで。うーむ。


非道徳的として裁判沙汰にもなったという本ですが、その肝心の非道徳的な部分は省略されて箇条書きなので迫力に欠ける。どの程度だったんだろうなぁ。チャタレイ夫人みたいにコレはアウツなエロ本ですねって感じだったのか、え?この時代だとこの程度でも駄目なの?程度のものだったのか。
話は普通に面白いですが、まぁ冗長ではあります。そんで本筋部分が簡略化されているのでいまいち乗りきれない。

 

サランボー(抄)

紀元前のカルタゴ、戦争に敗れ疲弊した国は雇っていた傭兵への給与が支払えずにいた。彼らの不満を抑えるために開かれた宴会で、巫女サランボーと傭兵マトーは出会う。マトーはサランボーに強く惹かれるが、サランボーは彼を恐れる。
給与を支払わないことに怒る傭兵たちは、カルタゴと戦争を始める。戦乱の中、神殿から奪われた聖衣を取り返すため、サランボーはわずかの共に導かれて戦の中心にいるマトーのもとへ行く。

すっごい面白い。こういう話めっちゃ好き。
ギュスターヴ・モローに霊感を与えてサロメを描かせたというこの物語。けがれを知らぬ美しく純粋なサロメに惑わされる男達。献香のむせかえる煙で窒息し、朦朧としたまま見る幻覚のような話。鮮烈で残酷な、野蛮な血の流れる物語。
サランボーの世界と、男達の世界の対比が劇的です。戦闘シーンの残虐さも相当好き。

Wikipediaだと、「一夜をともにしたことによって彼女自身もマトーを愛するようになり」って明記されてるけど、正直異議ありだ。
まず、サランボーとマトンは確かによる二人きりでテントにいたけれど、肉体関係があったとは書かれていない。むしろなかったと読める。
マトーはサランボーを簡単にどうにかできるほど彼女のことをただの女だとは思っていない。もっと崇高なもの、愛を求めはしてもどうすればいいかわからないほど気高いものと見ていたはずだ。
サランボーの純潔を示す金の鎖が切れたのは肉体関係があったからではなく、マトーが彼女を運んだ時に慌てたからだ。明記されている。そしてそれが示唆するものは肉体の純潔の欠如ではなく、魂の純潔さが乱されたことだ。
サランボーはマトーを愛していたのか?いたのだろう。だが、それは彼女自身が自覚できるものではなかった。彼女は男女の愛というものを理解できないほどの純粋培養だったのだから。

 サランボーの師、シャハバリムが好きだ。国一番の賢者である彼は、全てを知りぬいているが故に、ひたむきに神を学び信仰すれど愚かなサランボーを倦み、そしてうらやんでいる。自信が宦官であるがゆえにサランボーに近づけることは理解していても、男性機能が失われているがゆえに彼女を自分のものとすることができない。愛し、憎み、憧れるその複雑な感情がとてもよい。

完全版読みたいけど、長いんだろうなぁ…。

ブヴァールとペキュシェ(抄)

ひょんなことから友達になったブヴァールとペキュシェは、莫大な遺産を受け継いだのを機に田舎に引っ越す。専門書をたくさん取り寄せて表面だけ読み賢くなったような気になった二人は意気揚々と様々な事業に手を出すが、失敗ばかり。

つまんなかった。 
愚かな主人公はむかつくし、現代社会への皮肉なんだろうけれど風刺は気分が悪くなるから単純に嫌いだ。そして物語として面白いかどうかも、同じことのひたすら繰り返しでつまらない。
作者死亡により未完だが、ラストまでざっと構想が残っているのでそれが掲載されている。そのラストの本当に最後のオチだけ皮肉が利いていていいなと思った。

 

で、結局どうなん

十一月が読みたい人は手に入りやすい本として読む価値があります。全文載ってるし。
ボヴァリー夫人が読みたい人は、他の版を選ぶべきです。現行で手に入る本がいくらでもあります。

サランボーを読みたい人は…これしかないのかなぁ。今新本で手に入るものはなさそうだし、図書館で探すにも相当古い本しかなさそうです。でも古い本を探した方がいいかも。とても面白く美しい話だし、翻訳が古めかしくても雰囲気とマッチして違和感なさそうな気がする。

ブヴァールとペキシュは、読む価値ないです。

文学的評価としては、ボヴァリー婦人の評価が高いようです。解説では散文文学の幕開けで当時本当にあったスキャンダルを下敷きにしてめっちゃ話題になった!って書いてあった。
けど、それって歴史的評価であって、話自体の面白さとはあんま関係ないよね。
サランボーが一番良かったな。