人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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絵画の蕾 バベルの塔展、ボスとブリューゲル

 

東京都美術館の「バベルの塔」展をみてきた。

babel2017.jp

結構混んでたよ。行くなら時間に余裕を持って、駅とかでチケットを買って行くといい。あと、単眼鏡は忘れずに。


都美と言えばレストランがすごくおいしくて好きだったのに、精養軒になってしまってちょっと悲しい。いや、精養軒もおいしいけど、あのへんすでに精養軒だらけじゃんか。

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今回は講演も聞きました。
熊澤さんという講師の方がレンブラントの研究家だそうで、17世紀の絵画を通してみた15~16世紀北方美術絵画というのが主題でした。

 

北方美術とは、ヨーロッパのうちアルプス以北で主流となった美術様式のことです。空気遠近法を取り入れ、パースらしきものも産まれてはいますがまだ正確ではありません。
しかし細部の描きこみは本当に細かくリアルで見事です。
対して同時期のローマはルネサンスですよ。ダヴィンチだのミケランジェロだのがいた時代。こちらの特徴は空間表現。一点透視法の完成です。これにより奥行きなどが正確に描き出せるようになります。
先生が言うには、北方絵画は人物を置いてその背景を足しているのに対し、ローマ絵画は空間を設定してその中に人物を配置しているのだとか。なるほどなぁと思いました。そしてその発想の画期的さや表現の正確さから当時の芸術の中心はローマで、「ローマで学んできた」と言うのが一種のブランドになるわけですが。
でも正直、ローマ絵画と北方絵画を並べたら、わたしには北方の方が魅力的に見えるんだな。鮮やかに、執拗に、対象物を描き出す様が。全体としては構成が破綻しているかも知れないけれど、部分部分で見ればものすごいリアルさがある。そう言う情熱が好きだなぁと思った。勢いがあるって大事だよね。

 

ただ、上記講演内容は今回のバベルの塔展より少し後の時代の話なんだよね……ばかっ!そっち見たくなっちゃうじゃんっ!

 

北方絵画の一例として、先生のコレクション見せてもらったよ。

「タイトル不明」ルーカス・ファン・ライデン

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都美の壁に不思議な生き物がいっぱいいたよ。

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本格的に絵画のジャンルが多様化するのは17世紀のオランダなんだけど、この時代からその片鱗が見え出していると講演で教わった。この絵なんかも聖書を題材にしてはいるものの、メインは終末の風景だ。風景画というジャンルの起こり始めを見れるんだね。
いつか花開く絵画芸術の蕾の時代だ。

 

「ソドムとゴモラの滅亡がある風景」 ヨアヒム・パティニール 1520年頃

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現代では聖クリストファーって方が通りがいいかもしれない聖人。まぁ伝承はググってもらうとして、子供背負った川渡しの巨人は聖クリストフォロス。旅人の守護聖人として昔は人気だった。
普通の聖人画と見せかけて、右奥の木になんか変な生き物がいたりする不思議。描かずにいられないのだろうか。

 

「聖クリストフォロス」ヒエロニムス・ボス 1500年頃

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大きな部屋にこれと放蕩息子の二枚だけボスが飾ってあって、ちょっとさみしいなぁと思った。けどボスの真作は30点ないそうなので、1割がきてる!と言うとちょっと豪華な感じ。

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こちらは版画。樹木人間ってなんじゃいよ。どっから出てきたのよ。当時はなんかの風刺として意味がわかったのか、それとも最初からただ単にわけのわからないモンスターなのか。
この化け物の顔はボスの自画像という説もあるそうです。
現代的感覚で見れば、

足がなくなって手元は船の上→自由を欠き地盤が定まらず、先行きが不安定
胴体の中で酒盛りをする小人→自身が喰い物にされている、利用されている
変な帽子→愚かしさ
樹木→身動きが取れない
周りの人物→笑い者にされてる

みたいな感じに読んでしまうけれど、多分わたしにはわからないハイコンテキストがあるんだろうな。

 

「樹木人間」 ヒエロニムス・ボス 1590-1610年頃

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ボスが大人気を博した後、「ボス原案」とされる版画が大量に作られたそうです。しかし原案、といいつつボスは全く関与せず、死後作風やキャラクターを真似て作られたものばかりなのだとか。実際、どこがボスなんだ?てものも多い。
見比べてると、奇怪な生物達が蠢いているのだけれど、ビジネス狂気を感じるのだ。ああ、一生懸命変なもの考えたんだろうなぁって。ボスのリアル狂気は一線を画している。

 

そんな中で田舎から出てきたブリューゲルは、そういうボス風版画製作会社の社長令嬢と結婚して元絵を描く仕事につきます。
なんか、色々ドラマを想像してしまうよ。

 

「大きな魚は小さな魚を食う」ピーテル・ブリューゲル1世 1557年

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下でおばあさんが子供に「ECCE」って言ってるじゃん。「エッケ・ホモ」のエッケだよね。「見ろ」って言ってるんだ。
弱肉強食という意味の諺を表した戯画だけど、魚が飛んでたり魚人間が魚をくわえてたりユーモラスに描かれている。

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けど、多分だけど私、ブリューゲルはボスパクり絵の量産したくなかったんじゃないの?て思う。普通に考えてしたくないでしょう。才能のある画家なのだもの。

「俺は、俺はあんな偽物作りはもううんざりだ!もっと真面目な絵が描きたいんだ!」
バベルの塔を描き出すブリューゲル。その工房にやってくるブリューゲル義父。
「おお、ピーテル君は流石に絵が上手いねぇ。で?この間頼んでいた新作のボス風版画の進み具合はどうかね?」
「お、義父さん!いや、もちろん進んでますとも!今回はこんな風な感じでどうでしょう?」
「ははは、さすがピーテル君助かるよ」

みたいな。みたいな。婿舅ドラマがきっとある。
たぶんだけど。でもどうかな。絵画も徒弟制度だった時代、そんなオリジナリティにこだわりないかな。ブリューゲルも孫まで似た感じの絵を製作してるしな。

 

というわけで真打、バベルの塔
サイズはそんなに大きくないのだが細部が凄い。めっちゃ細かい。あまりに細かいので部屋中に拡大画像貼ったり各大堂が造ったりしているののに、それでもまだ細かい。

バベルの塔」 ピーテル・ブリューゲル1世 1568年頃

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塔の上部は新しいレンガなので赤く、下部は風雨にさらされて白茶けている。
じゃあ左側の赤いのと白いのは何だ?て思ったら、レンガとそれを接着するセメントを運んでいた。

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この上の方の骨組みとか、どうやって描いているんだろう。面相筆とかでも太すぎるのでは?これだけ拡大しても1pxしかないのでは?

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この時代は絵の具の種類が少ないのか、調色方法がパレットの上で混色するのではなく薄い絵の具を何層も重ね塗りして表現しています。その辺もじっくり見るといい。見れるなら。近代絵画の色が濁らないようざっくり塗り分ける技法も好きだけど、こういう精緻な絵もいいね。
本当に単眼鏡は必須。

 

天蓋で運ばれる貴人がいたり、一部にガラスがはめ込まれているから教会があると予測できたり、細部までもっとじっくり見たかった。混み過ぎてて無理だった。
離れてみる分にはゆっくり見れるけど、近くに行くには長いこと列に並んだ挙句駆け足くらいの速度でさっと見る運用だった。その列に、並んでる間スマホゲームしてるお兄ちゃんがいたよ…びっくらこいたよ…彼女ブチギレしてたよ…
興味ないなら列の外で待ってればいいのにな。趣味の強要、よくない。

 

今年は文化村でもボスをやるし、都美で来年ブリューゲル1世~3世の展示もやるし、楽しみだね。

ちな、私が使ってる単眼鏡です。