【ネタバレ感想】レモン畑の吸血鬼
書籍データ
- タイトル:レモン畑の吸血鬼
- 作者:カレン・ラッセル
- 訳者: 松田 青子
- お勧め度:★★★★
今日の猫
収録タイトル
- 収録タイトル
- レモン畑の吸血鬼
- お国のための糸繰り
- 一九七九年、カモメ軍団、ストロング・ビーチを襲う
- 証明
- 任期終わりの廏
- ダグバート・シャックルトンの南極観戦注意事項
- 帰還兵
- エリック・ミューティスの墓なし人形
- 全体感想
レモン畑の吸血鬼
レモン畑に住み着いている老人は、吸血鬼だった。
かつては人間が信じる姿のまま闇に生きていた彼は、ある日同属の女性と出会い、恋に落ちる。彼女から所謂吸血鬼伝説は嘘であること、日光も十字架もニンニクも自分たちに危害を加えられないこと、そして吸血は自分たちの飢えを癒さないことに気づかされる。
とある町の教会で名物となっているレモンが自分たちの飢えを癒してくれることに気づいた二人はそこに住み着くが…
お国のための糸繰り
明治時代の日本では、国を挙げての産業として製糸工場へ徐行として娘たちが集められていた。その中でも「最先端」の工場では、女工たちは不思議なお茶を飲まされ、指先から糸の出る体に作り替えられていた…
一九七九年、カモメ軍団、ストロング・ビーチを襲う
医療機関で働く母親を持つ少年。ある日母親の医療機関の窓のねじが緩んでいたことによる事故が起き、管理責任を取られた彼女は仕事を首になる。ショックでひきこもる母親。とうの昔に離婚した父親にはあったこともなく、金銭的問題から大学進学も難しくなる。
そんな時少年は、カモメたちが人の人生を少しずつ盗んでいることに気づく。
証明
西部開拓時代、自分たちが開拓した土地の所有権を公的に認められるためには開墾した土地、住んでいる人、そして窓ガラスのはまった住居を監査官に示すこと必要だった。しかしその監査官はいつまでもやってこず、高価な窓ガラスの買える家はほとんどない。
しかしある日ついに、監査官がやってくるという噂を聞き、少年は窓ガラスをもって馬を走らせる。
任期終わりの廏
とある牧場の厩にいる馬たちの半分は、アメリカ大統領の生まれ変わりだ。なぜそうなっているかもわからない元大統領達は、権力欲から逃れられずに厩の鶏や羊の「支持」を得て「政権」をとろうと必死になっている。
しかし一人の元大統領はそんなことに興味を示さずに…
ダグバート・シャックルトンの南極観戦注意事項
南極で行われる「食物連鎖対戦」、クジラ対オキアミ戦の最高にイカした観戦方法について
帰還兵
女性マッサージ師のもとに、イラクからの帰還兵がやってくる。彼の背中には同僚が自分のミスで死んだ日の様子が見事なタトゥーで一面に彫られていた。
その日の記憶に苦しむ帰還兵を癒そうとするうち、彼女は自分がタトゥーの中の世界、彼の記憶の中の「その日」に干渉できることに気づく。
エリック・ミューティスの墓なし人形
不良少年とその仲間たちは、いつものたまり場、崖の上の木に案山子が括り付けられていることに気づく。その顔は去年彼らがいじめていていつの間にか学校に来なくなった少年エリック・ミューティスによく似ていた。
その案山子を崖の下に投げ捨てた不良少年たちは…
全体感想
おもしろかった。不思議な話が淡々と進んでいく。
物語の雰囲気が「大きな鳥にさらわれないよう」に似ている。
全て喪失の話だ。人生を少し喪失した人たちが、嘆くでもなく抗うわけでもなくたんたんと生きている。けれど最後には少し希望のある話だ。
どれも人外というか不思議な生き物が出てくるけれど、ホラーではない。
カラスの話が好き。