人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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聖クリストフォロスの憂鬱 ベルギー奇想の系譜展

というわけで、ベルギー奇想の系譜展にあるヒエロニムス・ボスの追随者による「聖クリストフォロスの誘惑」について話をしたい。

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この絵をよく見ると、主役と思しき右側で物思いに耽る男性の下に「St. ANTONIVS」、「聖アントニウス」と書かれている。
図録にこの絵自体の解説はほとんどないのだが以下のように書かれている。

この図像の主題は「聖クリストフォロス」とされるが、しばしば「聖アントニウス」と混同された。後のステートである本作では聖人の下に「聖アントニウス」の銘が加えられている。

(ステートとは刷りの段階のこと。同じ図版から何度も刷る場合第Xステートと呼ばれる)

 なぜ聖アントニウスに間違われるのかよくわかる、というか、なぜこの絵が聖クリストフォロスなのか私にはわからない。
この絵には聖クリストフォロスらしさが全く存在しないからだ。

 
聖クリストフォロス、英米文学を読む人にとっては「聖クリストファー」といった方が通りがいいかもしれない。スティーブン・キングの小説で、聖クリストファーのメダルは大型トラックのバックミラーによくぶら下がっているから。
彼については、黄金伝説の3巻に登場する。
本文と訳註を合わせて紹介するとだいたいこんな話だ。

聖クリストポロス、洗礼前はレプロブスまたはレプロボスと呼ばれる男は子供のキリストを肩に乗せ大木を杖にして川を渡る姿で描かれる。
彼の伝説には2つの異説がある。

 

 レプロブスはこの世で一番強いものに仕えると誓いを立てる。
最初は王に仕えるが、王は自分は悪魔にはかなわないという。
そこで悪魔を探して仕えるが、悪魔は自分はキリストにはかなわないという。
そこで悪魔のところを辞したレプロブスはキリストに仕えたいものだと思うが、どうしたら彼に会えるのかわからない。そこで、いつかめぐり逢うだろうと人の行きかう大きな川で川守を始める。渡し人として旅人を担ぎ、杖で自信を支えながら川を渡って通行料を取るのだ。
そんなある日、レプロブスは小さな子供を背負って川を渡ろうとする。軽々と川を渡る彼だが、不思議なことに子供はどんどん重くなり、革の中ほどで動けなくなってしまう。
怪しむ彼に子供は「私がお前の会いたがっていたキリストである」と伝える。キリストを背負うということは世界全体を背負うということなので、それほどの重さとなったのだ。
川を渡りきったレプロブスは信仰に目覚め、クリストフォロス=キリストを背負うものと名乗るようキリストに言われる。また、キリストの命じるまま杖を川辺に指すとそれが大樹となり、それを見た人々はキリスト教に改宗する。
そのうわさが皇帝に伝わり、キリスト禁教にそむいたとして拷問の末首をはねて殺される。

 

別の伝説によると、レプロブスという犬頭人身の人食い族が洗礼をうけてクリストポルスと呼ばれ人語を解するようになったのだという。

 

水夫、いかだ師、巡礼、旅人、運送屋、交通全般、庭師の保護の聖人、転じてトラック運転手の守護聖人となる。7/25のクリストフォロスの聖日には車を司祭に祝福してもらってメダルを受ける習慣がある。運転の雑な人には「クリストポルス様が降りてしまわれる」という警句がある。運/神に見放されるという程度の意味だろう。

 もちろん古い伝説なので異説はたくさんある。
クリストフォロス - Wikipedia
しかしポイントはいくつかある。

  • 子供を担いだ巨躯の川渡しとして描かれる
  • アトリビュートは大きな杖またはそれが変化した木
  • 背負われた子供はしばしば地球儀を添えられ、世界全体と等しいことが示される

当初の絵に立ちかえってみよう。これらのアトリビュートが示されているだろうか?また、絵画はこのストーリーに合っているだろうか?
そして絵画のタイトルを読んでからストーリーを思い起こしてみよう。聖クリストフォロスは伝記中で『誘惑』されただろうか?
正直、今回この絵を見るまで聖クリストフォロスが誘惑されたなんて話は聞いたことが無い。
聖クリストフォロスの定番と言えば、
ヒエロニムス・ボスの「聖クリストフォロス」

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同じくベルギー奇想の系譜展で展示されていたフランドルの逸名の画家による「幼子イエスを運ぶ聖クリストフォロス」はボス風の怪奇趣味を取り入れつつも基本を押さえており、誰が見ても聖クリストフォロスと理解できる絵に仕上がっている。
場面は逸話に従っているし、彼のアトリビュートである杖や幼子キリスト、地球儀もきちんとそろっている。

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なので当初の絵がなぜ聖クリストフォロスの絵なのか、正直私にはわからない。
誘惑される聖人の定番と言えば、サルバトーレ・ダリで有名な「聖アントニウスの誘惑」だから、この絵が聖アントニウスと誤解されたというのも何となくわかる。しかし、聖アントニウスは荒れ野に暮らした聖人である。こんな川辺というか海際は似つかわしくない。アントニウスの絵だとされるも、誘惑されてるから?という程度だし、周囲に魑魅魍魎が跋扈していても聖人はそれも全く目にとめておらず、本当に誘惑されているのかもよくわからない。


細かい確かな筆致で恐ろしくもユーモラスな世界を描いたこの作品は、とても魅力のあるものに仕上がっている。
でも結局この絵は何なのだろうか。気になって仕方ない。

キリスト教、特にカトリックにおける聖人信仰とアトリビュート

週末、やっとこさベルギー奇想の系譜展の図録を回収した。やれやれである。
というわけで、そこで見た聖クリストフォロスの話がしたい。
しかし先に言わなければならないが、今日はその話まで辿り着かない。前提知識を説明しているうちにアホほど文字数をくってしまったからだ。
今日は、聖人とは何か、そして聖人画を鑑賞するポイントとは何かという話で終わる。一般常識かもしれないが勘弁いただきたい。

ついでに言うと今回クソ長い。2千字を超えた。しかし絵画の話にたどり着けていない。なんということだろう。

長いので折りたたむ。

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日記

昨日やっと文化村の図録を回収したけれど、今日は1人でお出かけするので猫を見なよ。

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相変わらずドアに挟まるのが好きだよ。

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昨日はダリアを見たのだけれど、大輪のダリアは牡丹みたいだね。こうして崩れかけた花は特にそうだ。日本画の華やかなやつを連想する。

 

キク科の植物というと、新宿御苑がすごい。あそこは秋になるといつも菊の展示をするんだけれど、それが品種改良技術の粋を極めたトンデモで、情熱の方向性が違うだけでこんなに変化しちゃうのか、という感じである。

一本の菊から何百もの花を咲かせてみたり、茎で自重を支えられないほど大きな花を咲かせたり、花びらが細長すぎて支えをつけないと萼から落ちてしまうほどだったり。果ては逆に短く細く地味な色の花びらを数枚つけるだけのものを侘び寂びと称したり。

実に面白いから過去の展示を見てみるといいよ。

http://fng.or.jp/shinjuku/event/kiku/kikukadan.html

 東洋の方って絵画芸術でも豪奢の極みみたいなのと、シンプル過ぎてなんだかわかんない侘び寂びがあるよなぁって考えていた。

西洋の方だと派手さばかりになりがちだな。でもイギリスってワイルドローズとか自然のままな花も好きだから、そういう方向もあるのかなって。

ちょっと漁って見ても面白いかもしれないな。

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というわけで、お出かけ行ってきます。

猫カメラ日記

ねっこやで

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仕事で深夜待機している間、眠くて頭脳労働ができないのでこんなものを作ってた。

ダイソーで買ったペットボトルケース

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底を外して筒を切ってクッション素材と合わせて縫い戻す。

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カメラレンズケースだっ!

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では、撮影会に行ってきます。

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魔法使いの倉庫 ナチュラル・ヒストリエ

厨二魂を持つ人が押さえておくべきスポット。それは池袋西武書籍館ナチュラル・ヒストリエ

ikebukuro.books-sanseido.co.jp

何だろ、本屋さんじゃなくて博物とアートのグッツ売り場。
鉱物標本やアンティーク、自然科学をテーマにした小さなアートグッツが売られている。
18世紀の祈祷書とか読めるわけもないのにほしくなるし、本物のアンティークの標本や数百年前の古書の切れ端など、ちょっとがんばれが手が届く値段でおいてあるのがたちが悪い。
私、いつかここでタンポポ綿毛のアクリルキューブ買うんだちくしょぅ。

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今は、古い挿絵本と版画の世界という特集をやっています。

Salon du Livre Ancien-古い挿絵本と版画の世界- | 三省堂書店池袋本店特設サイト

入り口にまず希少本が展示してあって、またそれがアリスだったりするからテンションがあがる。The Nursery Alice、子供部屋のアリスの初版本が16万だってよ。買えなくもないところが恐ろしい。
手袋がおいてあって、店員に言えば中見せてくれるって言うけれど、買えないのに申し訳なくて声かけられないよ……

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他にもビアズリー、アーサー・ラッカム、ロナルド・バルフォア、ハリー・クラークといった「この絵見たことある!」って著名作家の版画、本の挿絵が大体15,000円位で売っています。
もう買っちゃおうかね……かって自分で額装しちゃおうかね……

理性。

 

ついでだから、以前ここで買ったお気に入りの鉱物標本を見せよう。
見てのとおり、どこでも売ってるあの定番の標本なんだけどね。
この黒曜石の切片の薄さや、方解石のゼリーみたいなさわやかな色たまらないだろう。
どれも一点ものだから、値段や質じゃなくて気に入ったものは確保したほうがいいんだ。安いし。

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こっちはデザートローズ、結構大きいんだよ。
丸く白い線が浮き上がるものと、こうやって立体的になるの、2種類ある。

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チラシにも映ってる義眼も持ってて、ここに写真載せようかと思ったんだけど、人を選ぶからやめておく。
本物のアンティークだぜ!ものすごくリアルで美しいぜ!

実物を見たければ池袋に行くといい。だいぶ売れて在庫が減ってるから、買うならお早めにだ。

君たちは腐ったみかんじゃない 渋谷西武

渋谷で時間が余ったので、渋谷西武デパートに行ってみた。
コカコーラ展示とかもやってたけど、なんかすでに撤収してたから見れなかった。

かわりに見たのがこちら。スペース小さかったけど。

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西武公式サイトは多分またリンク切れになるから貼らない。

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このオルタナイティブスペースってのは本当に狭いところで、作品数も少ない。なんかのついでに行くのはいいけど、このために行くのは厳しいサイズ。
今回の作品はすごく良かったよ。

 

久米圭子 website 公式サイト

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緩やかな曲線の中に激しいトゲトゲが含まれている。みかんの中にウニがいるみたいな。透明標本みたいに葉脈を取り出したかのような。

優雅な表面の中に隠された激しい悪意を見せられた気分。隠された激情の二面性。
いや、悪意は言い過ぎか。でも色が色だからなんかそんな感じがして。アオカビ色なんだもんw
果物の皮を剥いたらこんな姿が現れたら、ホラー映画のようだなとか想像してしまう。

===

津守 秀憲 - Webギャラリー / Web Gallery|富山ガラス造形研究所 公式無いから所属団体サイト

これ、どうやって作るんだろうなぁ。
外側はまるでアスファルトのような質感だけれど、内側は瓜の実を割ったかのようだ。
円筒形の物質を力任せにこじ開けて、裂けてしまったみたい。
この繊維質の部分を触ったらどんな感じなんだろうね。

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でもこういうの見ると、掃除どうしたらいいんだろうって考えちゃう。
埃たまったら大変だよな。最初からガラスケースに入れなきゃだろうな。はたき程度で落とせる気がしないもの。

 ===

松村淳さんは公式サイトがない!

松村淳 陶芸 - Google 検索 画像検索

写真で見ると良くわかんないけれど、実際には結構高さのある立体物。
象牙のような色と質感で、ファンタジー世界の生き物の頭蓋骨みたい。

画像検索するといろいろ作品が出てきてよいですね。私、こういうシャープな白い陶器好きなんです。

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30日まで。西武に用がある方はついでにどうぞ。

お写真撮りに渋谷まで セルゲイ・ポルーニン写真展

さて、カメラを手に入れて早速撮影でもしたいものだわ!と近くのドトールで充電したのはいいんだけれど。
最初はどこかの常設展でも撮影しようと思っていたのだけれど、ビッカメのおじさんに初期設定してもらったりしてたら結構な時間になってしまい、どこかに出かけるって感じじゃなくなってしまった。

 

じゃあどこに行こうかなと検索して見つけたのがこちら。

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ちょうど最終日だったけれど、混みすぎるというほどでもなくゆっくり見れました。 

www.parco-art.com

 

 バレエのことは全然知らない。小学生のころバレエ教室に通う友達の発表会、とかでしか見たことがなく、ストーリーのあるちゃんとしたものは見たことがない。
一番近いのだと、「中国の不思議な役人」なら見たことがあるが、アレをバレエとは言ってはいけないかもしれない。パントマイム劇だものな。
モダンバレエとパントマイム劇の線引きはあやふやな気もするけれど。

 

なのでセルゲイ・ポルーニンについては詳しくない。こちらのサイトがわかりやすいかもしれない。

映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』公式サイト

 

史上最年少でイギリスロイヤル・バレエ団のプリンシパルとなったにもかかわらず、わずか2年で退団
バレーダンサーにもかかわらず、全身にタトゥーを入れる

などという行動から反逆児と呼ばれたりもするが、貧しい環境から家族を救い出そうとバレエに打ち込み、貧困から何とか脱却するも家族は壊れてしまうという重い過去があるようです。

自分のバレエで、家族を一つに戻すことはできなかったけれど、世界を一つに出来ないだろうか、、?


生きるための、苦しみから抜け出すための手段としてのバレエから逃げ出し、自分の意思で真の自己表現としてのバレエに再度取り組もうとしているのではないか。
そういう風に思った。

 

作品は美しいけれど、モデルがあまりにパワフルなので写真家の作品というよりモデルの魅力のほうが暴力的に強い。
こういうのって写真家の個性とモデルの個性と、どちらを前面に出すべきだろうね。少なくとも今回は、タイトルがモデル名を冠しているのだから写真家の個性は控えめにしたほうがいいだろうね。

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ポスター等に使用されている写真。映り込み激しいw全然PLフィルター使いこなせてないww
人間離れした、爬虫類めいた顔。ブラット・ピットとか思い出す。
とても美しく、背徳的な印象を受ける人だ。タトゥーのせいではなく表情の聖だろうか。萩尾望都の描く何かをあきらめた大人のような。
健全セクシーさというよりも、退廃的な色気を感じる人。

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まるでアポロンのような肉体だ。
足はものすごい筋肉の塊なのに、胸板は異様なほど薄く胸筋がない。踊ることに特化した体なのだろうと思う。その体にタトゥーを入れたのはなぜなのだろうか。f:id:minnagi:20170724225936j:plain
ダンスの映像も見れたのだけれど、とても苦しそうだった。
踊ることが、抑制された体の動きが、感情を無理に押し込めようとして、それができずに踊らずにはいられないかのような爆発的なものがあった。

 

Youtubeで踊りが見れるから見たらいい。

youtu.be

 

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 とても興味深く面白い展示だった。特に何の説明もなくただ掲示してあるだけだけれど、センスが良かった。
また新しい展示をやるならここに来てみたいと思ったよ。