人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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ファム・ファタルの主役は男達 ギュスターヴ・モロー展 パナソニック汐留美術館 4/8

パナソニック留美術館、開始直後のギュスターヴ・モロー展に行ってきたよ!ここはルオーを多数所蔵しているので、そのお師匠さんであるモローも時々やってくる。素晴らしい。

panasonic.co.jp

特に今回は、見たことがない絵がたくさんあった。サブタイにあるようにサロメが中心。というか、正直下絵が多かった。
モローといえば精緻で流麗というイメージだと思うのだが、それとは全く違う絵を見ることができて、イメージを確かめるためだけにざっくりと塗り分けられたその絵はやっぱり美しくて、力強さが加わった分ぞっとするほど重厚で素晴らしいと思う。

 

今回は図録を買ったよ。だってこの表紙!エンボス加工が素晴らしいじゃん!開いてみたら、展示されてなかった絵もたくさんあって良かった。買うべき。

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雲の上を歩く翼のあるアレクサンドリーヌ・デュルーとギュスターヴ・モロー

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なにこれぇ!!!

生涯独身を通したモローですが、30年連れ添った恋人がいたのだとか。その彼女との、おそらくは私的な一枚。なんだよ、ラブかよ。ラブラブなのかよ。最高かよ…尊い

羽を生やして天国を散歩するキュピドのようですが、モローのお腹まであるズボン(可愛い)がモジャモジャの髪と相まってサテュロスみたいにも見えますね。いたずらっ子かよ。尊すぎる。

でもさぁ。なんで結婚しなかったんだろね…普通に母親からも交際を認められてたっていうし。なんか理由があったのかなぁ。画業の、セルフブランディングの妨げになるからかなぁ。個人の自由といえば自由なんだけど、この未婚女性に風当たりの強い時代、ちゃんと守ってあげて欲しいなぁ。ボナールもそうだったし、事実婚がトレンドだったのかしら。

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パルクと死の天使
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馬を引いているのがパルク、人の運命を支配する女神です。前述のアレクサンドリーヌに先立たれた悲しみのうちに描かれたそうです。

よじれねじくれ、混沌とする画面。悲痛な紺碧の空。彷徨う大地には草も生えない。

すごく辛い絵です。まるで効果のダリのような圧倒的なエネルギー。耽美方向に整える余裕もない感情。すごく辛かったんだろうなぁ。

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出現
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モローと言えばこれ!という有名な絵。

本当に美しいです。周囲の誰も気づかないままサロメの前にだけ現れる洗礼者ヨハネの首。背景に白い線で描写された建物も現実の王宮と一部重なるものの明らかに全く違う構造を示している。サロメと彼だけが、二人だけの世界に入ったかのようだ。

洗礼者ヨハネがなぜか驚いたような顔をしているのに対して、サロメは下から睨みつけるような強い表情をしている。一枚一枚ヴェールを脱ぎ去る踊りを終えたばかりの艶かしい姿だが、その手には白い花がある。純潔を示す百合だろうか。

モローは、サロメを悪女として描いたのではないのだろう。美しく、男をまどわせ破滅させる運命の女は、彼女自体は罪とは無縁なのだろう。善や悪に縛られない、誰にも汚されずに凛と立つ女の周りで、勝手に男達が狂って堕ちてゆくのだろう。

サロメは、まるで自らにはなんの恥じるところもないと宣言しているかのようだ。

アジアというよりインドやトルコのようなオリエンタリズムがとてもエキゾチックで美しい。

あと、サロメの絵をみたら新約聖書読んで。マジ読んで。サロメちゃん悪くないから。みんなランボーの創作なんだから。*1

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サロメのための油彩下絵
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出現とは別の構図の絵のための下絵。おそらくは色彩効果を試すためのもの。
赤い服を着たのがサロメだろう。とすれば、黄色くざっと塗られたものは洗礼者ヨハネの首だろうか。
完成図がこうなりましたよってのが展示されていないのでわからないのだが、ずっと見ていると登場人物が浮き上がってくるかのようだ。
コードウェイナー・スミスのシェイヨルという名の星、クラウン・タウンの死夫人に出てくる"一筆画"はこんな絵なのかもしれない。

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サロメ
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また別バージョンのサロメ。下絵なのか、描きかけのまま放置されたのか。
まるで長い時を経て剥落した古代神殿の壁画のようで、私はこれがものすごく好きだ。
赤いドレスを脱ぎ捨て、今から踊りを披露する瞬間のサロメとそれを見つめるヘロデ王だろうか。
簡素に白で表現されたサロメはミロのヴィーナスのようだ。

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モローに対するイメージが大きく変わる、ものすごくいい展示だった。
細かく美しく、でもちょっとだけ軟弱なイメージの画家の、力強いエネルギーを感じることができるから。

ルオーの部屋で、師匠としてのモローに触れていたのもとてもよかった。
精緻なモローの一番弟子が、あの素朴でごつごつしたルオーって正直意外じゃないですか。でも彼は、生徒の個性を伸ばす方向の教育をしていたんだそうです。ただアカデミズムを伝えるだけの他の教師より、慕われていたんだろうなって感じがした。

 

あと、地下のショールームで複製画を見ることができる。生活空間を模した中に飾られていると、本当に家に飾っているみたいでよさがある。

ピエタ

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ガラテア2

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こっちはもうモローど定番って感じだね。
ただ、ふつうに住宅施設見に来てるお客さんと商談とかしてるから注意だよ。
商談中でも絵画見せてくれる(案内のお姉さんありがとう)けど、やっぱり気を使うよね。
本当はあと2枚あったんだけどちゃんと写真撮れなかった。
これはもう現地に行って自分で見るしかないね。

*1:洗礼者ヨハネの首を欲しがったのはサロメではなく、その母ヘロディア。マルコによる福音書6章24節