【ネタバレ感想】タコの心身問題
書籍データ
- タイトル:タコの心身問題
- 作者:ピーター・ゴドフリー=スミス
- 訳者: 夏目大
- お勧め度:★★★★★★
今日の猫はブレブレ
科学哲学者である作者が蛸のコロニーを観察することで人間と頭足類という全く異なる進化の段階をたどった二つの生物がともに持つ「心」について考察する。
すごくおもしろかった。
単細胞生物から現在の多細胞生物までの進化の歴史をおさらいし、脳とは何か、神経による体の制御はどういうものか、コミュニケーションとは何かといったトピックを語っていく。
頭足類は体が柔らかくてほどんど化石が残っていなかったり、何より主題が「精神」という形のないものなので、なにか確固たるエビデンスのある話はない。おそらくはこうであろうという考察が続くし、哲学本や生物学というより、どちらかというとタコに関する豆知識本といった扱いだろう。
でも面白いよ。
特に面白かったトピックは、老化に関するものだ。
老化というのは個体数調整のために長く生きすぎたものを排除するためのシステムだと一般的には考えられているが、そもそも本当にそうだろうか?というところから話は始まる。めっちゃ長生きしてめっちゃ子供を産む生物のほうが生存戦略的に有利じゃん、と。
そこでこの本では老化を「若いうちには発現しにくい、生命維持が困難になる突然変異の集合減少」とみている。
突然変異は、いいことだけではない。魚が陸に上がれるようになるといったプラスの方向に働く突然変異と同様に、特定の病気にかかりやすくなるといったマイナスの方向の突然変異も存在するのだ。
例えばそのマイナスの変異が「息ができない」などといった生まれてすぐ発現するものならば、発現してすぐにその個体は死亡してしまうので、遺伝しにくい。
しかし、「50年生きると目が見えなくなる」といった遅効性のマイナス変異ならば、その致命的な変異が発動する前に繁殖活動をしてしまうので、子孫に遺伝して広がっていくというのだ。
つまり老化というのは遅効性の有り難くない突然変異の積み重ねだという考え方だ。
もちろん、理論上正しそうに見えても検証できるものではない。
だが実に面白い。
そういう「ちょっと面白い話」をひたすら読める、いい本だった。