【西欧芸術の精神】感想
書籍データ
猫は興味ない
ちょっと古い本。
美術史というか絵の見方の話というか。論文というよりは堅めのエッセイ集でしょうか。各テーマを取り上げた短めの話がいくつも載っています。
目次は以下の通り。講演の原稿があるので聴衆への語りかけから入っていたり、内容がかぶっているものもある。しかし切り口が違うから楽しめる。
- マニエリスムにおける歴史と現代
- ヒエロニムス・ボッス―幻想的ヒューマニスト
- ラファエルロの「小椅子の聖母」
- ヴァザーリの歴史観
- フランス・ロマン派におけるミケランジェロ
- ドラクロワとロダン
- 絵の中の本―ゴッホとフランス文学をめぐる一考察
- マラルメと造形美術
- のろわれた玩具―不安な状況の予兆
- 現代美術の思想と動向
- ラファエルロの遺産
- プッサン―バロック的世界と古典主義的世界
- クロード・ロラン
- レンブラント、光と影のドラマ〔ほか〕
芸術論っていうのは今まであまり読んでこなかった。図録の文章くらいかな、せいぜい。美術の授業の美術史のテストとかもすごい嫌い。作品見せずにひたすら名前と年号だけ覚え続けるとか、暗記モノ大嫌いだから意味なくね?って思ってた。
あと、こういうのって正解がないじゃないですか。
ある作品がどうやって作られたかなんて本人以外に誰もわからないじゃないですか。作者の気持ちを考えろ問題的な。それはあなたの解釈に過ぎませんよね、みたいな。
でもモロー展の図録で紹介されてて気になってこの本を読んでみたら、読む価値はちゃんとあったなと思いました。
ある作品に対する私個人の評価は私個人に依存するのは変わらないし、それは歴史的評価はもちろん作者の意図なんかも全く関係ないんだけど。
それでも、作者がどういうつもりで製作したのか、それを社会がどういう風に解釈したのかってのは知れば面白いなと思いました。
なんかオッサンがいっぱいテーブルについてるなと思うより、最後の晩餐だなと思った方が楽しいし、あれもこれも裸のねーちゃんだなと思うより、なぜ草上の昼食だけがスキャンダルなのかと考えたほうが楽しい。
面白いなと思ったところ
- 切られた首のモチーフはギロチンで人が生首を見るようになったことから。死を神格化することでその恐怖に適応するためのもの
- ラファエロ大人気
- 産業革命で時代の移り変わりが激しくなるにつれて芸術運動の起こりも加速し、大きな一つのグループができにくくなっている。
あと、循環史観の話が面白かった。
ギリシャ神話をキリスト教のひな型とみなす考えは知ってたけど、芸術運動の興りと組み合わせた時のイメージが私が思ってたのと全然違った。
※字の汚さには定評があります
私が思っていた芸術運動の興り
ある流派が盛んになると、「それちょっと違うんじゃね?」と思った若手が別の流派を立ち上げる。前のが飽きられたころ、新しいのが流行り出す。
この本が説明する芸術運動の興り(現代からみて)
ある素晴らしい流派がはやった後、それを否定するような低俗な流派Bが嘆かわしいことにはやり、そこにA派のように素晴らしい新しい流派Cが誕生する。
ある特定の流派の評価が悪いのではなく、常に「現在の自分達」に対して「1個前」ガダメという発想。
これ、本当なら面白いねぇ。確かに西洋美術って、古典的表現と斬新な表現が振り子のように何度も繰り返し振り戻されてはやってるよねぇ。自分たちを2個(以上)前のものを引き継ぎ、復興させる正統な後継者だって発想、自己正当化的なの面白い。
ラファエル前派もそうだよね。振れ幅がおっきいだけで。
面白かったです。各章のつながりはまったくないから、興味のあるところだけ拾い読みしてもいいと思う。