人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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美しき個人的世界 ハマスホイとデンマーク絵画 2/2

上野でハマスホイを見てきた。

artexhibition.jp

ハマスホイ。古い表記だとハンマースホイ。外来語や人名は現地読みで読みましょうって運動ずっとあるけどなかなか刷新されないよね。
ウィキペディアでもハンマースホイになっている。

ヴィルヘルム・ハンマースホイ - Wikipedia

あまりメジャーな画家ではないけれど、もっと注目されていい画家だと思います。日本人絶対好きじゃん。
フェルメール好きな人は絶対好きだし、クノップフ好きな人も間違いなく好き。ベックリンの好きな京都人も好きだしルドンが好きな僕も好き。

そんなハンマースホイとその出身地であるデンマークの絵画について、この国独自の美意識が生まれたころから時系列で丁寧に追った展示です。
いいからとにかく見て見なよ、きっと気に入るから。

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クレステン・クプゲ「フレズレクスポー城の棟 -湖と町、森を望む風景」

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フレズレクスポー城というのが美しいことで有名な城なのだそうです。
だというのに、この構図。
肝心のお城は屋根と尖塔の一部、小さな煙突しか見えません。いいのかそれで。
見えるのは国土のほとんどが平原だというデンマークの街並み。そして、何よりも広い空。
非常に大胆です。
この国の絵画は、静謐でとても美しい。

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ダンクヴァド・ドライア「ブランスー島のドルメン」

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ドルメンとは巨石記念物のこと。デンマークの歴史を象徴スフモチーフとして人気になったそうです。古代文明、石を積みがち。
ちょっとメルヘンが強いけれど丁寧に細かく描かれた良い絵だと思います。

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ユーリウス・ポウルスン「夕暮れ」

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これは、現代画家の作品では?と思うような一枚。
地平線に沈みゆく夕日に照らされて、何もかもがぼんやりとにじんで見える世界。逆光で輝く木の葉たち。
うん、19世紀に描かれたとは思えない。

これは極端なというか意図的にこう描いたものだけれど、全体的に今回の展示は輪郭があいまいな絵が多いなぁと思った。形があまりくっきりはっきりしないで溶け込んでいるようなもの、画面の中のものが全て揺れ動いているようなものが多かった。
風の強い国なのかなぁって思った。

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ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「漁網を繕うクリストファ」

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ぎゃああああ!かっこいい!!!!!!
やばい…めっちゃイケメン……上から描いたというより背景の絵の具をパレットナイフで削ぎ落したように見えるサインもかっこよすぎます。最高。
暗い部屋、窓からのドラマティックな明かり、走る筆、すべてがかっこいい。

デンマーク田舎の漁師町、スケーインにプリミティブなデンマーク国民の原点を見出した画家グループ、スケーイン派の作品です。とはいえスケーインの町に取材しているとはいえ、漁師町の力強さ、ある種男臭さ、愛国主義的な他の作品群とはちょっと雰囲気が違います。

(すげーどうでもいいけど、文化芸術このムーブやりがちだよね…自分たちより”素朴”な人たちを探してキャッキャするやつ…上から目線で失礼だぞ)

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ヴィルヘルム・ハマスホイ「チェロ奏者、ヘンリュ・ブラムスンの肖像」

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さて、満を持してのハマスホイ。
今までの作品群も完成度が高く美しかったですが、やはりハマスホイはすげえなって素直に思います。
肖像画なのにこの描き方。人の顔判別できないじゃん…チェロの光が反射してるとこにしか興味ないじゃんこの描き方。でもかっこいい。超かっこいい。

モチーフと自分との心理的距離が近くないと描けないという逸話が残っているそうです。この人とはあんま距離近くなかったのかな。

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ヴィルヘルム・ハマスホイ「ロンドン、モンタギュー・ストリート」

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首都であるコペンハーゲンの裕福な家に生まれ、早くから頭角を現したハマスホイは真正のお坊ちゃん、シティーボーイです。ですよね。すべての作品が実にシュッとしていらっしゃる。

そんな彼は基本的にコペンハーゲンのアパートに住んでいましたが、旅行や仕事などでけっこ海外に滞在していたとのこと。これはそんなイギリス滞在時に住んでいた部屋から見た光景だそうです。

誰もいない朝もやの中、整然と並ぶ建物たち。冷たい印象は受けず、まるでファンタジーSFのような、おとぎ話感がある。とはいえすべての要素はきっちり正確に描かれているのがデンマーク絵画らしいところ。この柵の正確さと言ったら。

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ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内ー開いた扉、ストランゲーゼ30番地」

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ドアの上部が歪んでいるのは私の撮影ミスではなく、ハマスホイの意図するところでもなく、キャンバスが歪んでしまったのだそうです。

やはりハマスホイの室内画はいい…描きたいものを描いている感じがする。
光の美しさ、時間の堆積、ドアの外の空虚。
静かな時間、ストーリーに頼らない構図の美しさ、人との関係性を排除した内面の世界。そういう絵画はハマスホイの、そしてこの時代のデンマーク絵画の特徴のようです。すごく好き。

先ほど書いたようにここはハマスホイが住んでいたデンマークの「アパート」だそうですが、めっちゃ広いじゃんって率直思う。

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ハマスホイといえば室内画のイメージが強いですが、人物画や風景画もたくさん展示されていました。
その中でも人物画はめちゃくちゃカッコいいのですが、なんか図録で見るとぼんやりして普通?ってなっちゃうんですよね……彼特有のサテンのようなタッチが消えてしまうからかなぁ。ぜひ実物を見てほしい。