「君の話すこと8割がた毛やな」って言われた。
禿にはあまり興味がない。けれど、バーコードや不自然なカツラは気になって気になって仕方ないほうだ。
某アメリカ大統領とか気になる。某沖縄知事とか気になる。
アメリカって、ブルース・ウィリスとかニコラス・ケイジみたいに「禿げ=男らしくてステキ!」ってマッチョ思想だと思ってた。(アメリカ人じゃなくても、ハリウッド俳優だし)
アメリカにもバーコード頭ってあるんだなぁと常々ニュースを見るたびに思っている。
つわけで5月の話。
国立西洋美術館のシャセリオー展に行ってきた。毎日美術館に行っているわけじゃないから、昔の話もするんだよ。
シャセリオー展―19世紀フランス・ロマン主義の異才|過去の展覧会|国立西洋美術館
テオドール・シャセリオーは19世紀のフランスの画家。ロマン主義で、アングルを師匠とするなど優雅の極みのような絵を描く人だ。
16歳でサロンデビュー=一流と認められるなど早くに才能を開花させますが、37歳で死亡。その短さのせいか、世間的には忘れられた画家となってしまう。
なんだかヴェルレーヌを思い出す。その優雅さで栄光を極めるもあっという間に忘れ去られてしまった詩人のことを。性格とかは似てないけどね。
そういう期間の短さ、一度世間から忘れられてしまったこと、また活躍中は壁画を多く描いていたことから、残念ながら残っている大作は少ない。
壁画はもうその建物自体が廃墟になっていたりとか、そもそも持って来れないしで写真展示だし、展示作品も「○○のための習作」が多い。
でもとてもいいものが多かったよ。すっきりした優雅な油絵って好き。
―――――――
美術館に大きく張られたこの自画像を見てほしい。
シャセリオーの自画像だそうだ。手には聖書だろうか、小さな本を持ち、キャンバスをつるして生真面目な若い画家といった風貌だ。
真面目そうな好青年だと思う。
この顔をどう思うだろうか?
フランス人として、どうだろうか。
自画像
私は普通にハンサムさんねぇと思ったんだけど、キャプションがひどい。
「容姿に恵まれなかったと自他ともに認めているが、その姿を誠実に描いている」
とか書いてある。ひどい。
ラテン系の、オリーブ色の肌や厚い唇、黒い髪なんかがフランス人的にはマイナスポイントらしい。まぁ金髪碧眼白肌のほうがモテるのかもだけど、ひどい。
自画像の横、入ってすぐのところにシャセリオーが37歳の時のの旅券、パスポートがある。
写真がなかった時代なので人相書きがあるのだが、身長や髪の色と並んで「額が禿げ上がっている」って書いてあると解説がある。そこ?そこ翻訳する必要ある?
―――――――
美術展の常として、シャセリオーが影響を受けた画家、影響を与えた画家の作品も少数展示してある。
影響を受けたといえば、当然師匠であるアングル。そしてアングルのライバルでありながらその鮮やかな色遣いで彼を魅了したドラクロワ。
そして影響を与えたほうにはキュスターヴ・モローの名前が挙がっていた。
確かにこの優雅な、物憂げな画風は通じるものがあると思う。
シャセリオーに私淑していたというモローが、彼の早すぎる死を悼んで描いたというこちらの作品。
若き芸術家が美からの戴冠を受け、死を乗り越えて永遠に君臨する姿だろうか。
ギュスターヴ・モロー 若者と死 1881-1882年
そしてその横に書かれた絵が、公式ツイッターで紹介されているから見てほしい。絶対に見てほしい。
【作品解説10】ギュスターヴ・モロー《シャセリオーの肖像》
— シャセリオー展@国立西洋美術館 (@chasseriau2017) 2017年5月3日
額は禿げ上がっているが女性的な印象も醸し出しているシャセリオーの最晩年の姿をモローが描いた。作品の下に本人のサインと同じ大きさで「シャセリオー」の名前も並んでおり、モローのシャセリオーに対する深い思いが表れている。 pic.twitter.com/jsX9Ju52c5
なんで…なんでこの2枚並べちゃったの……
ハゲリオーのポストカードなくてよかったよね。あったら絶対うっかり買ってたよね。
――――
最近はこういう解説とかジュニアガイドとか会ってうれしいね。
――――――――――
気に入ったポストカード。
これも、壁画の習作だって。
十字架にかけられる前、一人で祈るキリストに寄り添う天使。
明暗がとてもドラマチックですが、静謐な雰囲気です。
オリーヴ山の園で祈る天使 1840年
―――――――――
恋人に去られ、今から身投げする海を見つめるサッフォー。
抑えられた動き、風の表現、思いつめた瞳。
ドラマチックだね。これはちょっとアングルというよりドラクロワの影響を感じるよね。
サッフォー 1849年
ーーーーーーーーーー
取材旅行でのスケッチ。
あっさりと簡略的に描かれているが、意志の強い瞳がとても美しい。
こういう絵が好きだなぁ。長生きして、こういう方向に進んで行ってくれたら本当に大芸術家になれたのではと思う。
最近の絵画趣味として、さらっと書いたようですごく美しいものが好きなので、滅茶好み。もっといっぱいあったらいいのになぁと思った。
芸術家というのは生きていた時代に受け入れられないと作品を作り続けられないし、死んだ後も評価し続けられないと作品が保護されない。当時の美的感覚に受け入れられたものが、いつまでも最先端なわけはない。それでも愛好家がいないと、シャセリオーのように作品が廃墟の中に消えて行ってしまう。
早すぎた天才を今発掘!なんてできる確率は本当に低い。
良いものを残し続けるというのは本当に難しいことだ。今残っていることに感謝しなければならないね。