人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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強い政治色 バルセロナ展 2/11

バルセロナ展、という何だかフォーカスがよく分からないタイトルの展示を見てきた。

今回のテーマはなんなのか?バルセロナの歴史なのか?街並みなのか?建築なのか、出身の芸術家なのか?
その答えはなんなのかというと、全部でした。

www.ejrcf.or.jp

スペイン展ではなくバルセロナ展と言うのは単に国ではなく都市にフォーカスしたんですよという以上の意味がある。バルセロナはスペインとはまた違う固有の文化、言語を持つカタルーニャ自治州の首都であり、帰属意識としてはスペインではなくカタルーニャの方に強く持っているのだ。しかしスペイン側は国の一部として強く管理しようとしたりカタルーニャ語の使用を禁止しようとしたりと、こう歴史的にかなり軋轢がある地域なのです。今でも独立運動あるしね。
そんな政治色が、キュレーションからも提供美術館側からもビシビシと伝わる展示でした。
全体的にピリピリしてるよ。

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ジュゼップ・プッチ・イ・カダファルク「カザ・アマッリェー」

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まずは建築から。かっこいいねえ。小笠原伯爵亭のシガールームみたい
こういうおうちが欲しいな…おうちの中にステンドグラスが欲しい。本物ならうれしいけど、シール状の偽ンドグラスでもいい。ゴシック調の石柱にガラスがはまってるのすごいカッコいいけど、冷静に考えると日本では無理だな。台風の季節とか即死するな。

他にも建築写真、図面、椅子やドア!まで来ていてなかなか面白かった。もちろんガウディもあるよ。
元々中世から続く城郭都市であったバルセロナは近代化による人口増大、それに伴う住居不足、人口過密、衛生状態の悪化による病気の流行といった流れで城壁の撤去、区画整理を余儀なくされます。ついでに無秩序になった街を区画整理しようというのがおそらくヨーロッパ全土で行われたのでしょうね、この時期。
パリは同じような流れで放射状の道が走る街になりましたが、バルセロナは京都のように碁盤の目のように道が通ります。統一感を求めてひたすらに同じ素材で似通ったデザインの建物を大量に並べたパリと違い、バルセロナはどうやら個性的な建物も多かった模様。
一部このように古い建物を活かして近代的な改装を加えて使っているのは地震の少ない土地ならではでしょうね。

東京も区画整理してくれればよかったのになぁ。壁がなかったから整理の必要感じなかったんだろうけど、関東大震災の時とかいくらでもタイミングはあっただろうに。
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ラモン・カザス「サンタ・マリア・ダル・マール教会を出発する聖体祭の行列」

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こうやって小さな画像にするとわかりにくいでしょうが、本当に不思議な絵です。
とても大きな絵で、まるで写真のように見えるのですがどこにもピントが合っていない。ここまでぼんやりした絵を描くのは逆に難しくないかと思うほど全てが淡くかすれてスローモーションの悪夢のよう。

この絵だけを見るとただのお祭りの絵のようですが、この場面のすぐそばで、当時暴動的なこと(テロだったかデモだったかうろ覚え)が起きていたそうです。だから当時見た人は「ああ、あれね」とすぐに想起できたのだとか。怖いよぅ。

本当に写真をもとに描いたのではないか?というのが京都人の見立てだけどどうだろうね。

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ジュアン・プラネッリャ「織工の娘」

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産業革命のころ。産業の工業化が進み、大量生産が少ない労力でできるようになった結果、安い労働力として子供や女性が工員として酷使されるようになるのは全世界的な潮流。日本でも女性職工の問題あったものねぇ。そんな過酷な状況に置かれた子供たちの健康状態はとても悪く、平均寿命も短かったそうです。というのが解説に。重い。
絵画としてはドラマティックで美しいなと思うけれど、個人的にそういう状況を儚くけなげな美少女に託して上流階級が消費するのはなんだかなぁって思わなくもないよね。ってのはいつも言ってることだけど、今回は特にこの絵のすぐ横に上流階級の同じ年頃の女の子が豪華なドレスを着ている絵があって、階級格差についての解説パネルもあって、あああああ!!!!って感じ。
ただまぁ、単純な絵画として見れるものと、こういう気持ちになる絵(スケーイン派とかね)との差って何だろうなぁと考えてみるべきかもしれない。

えーと、絵画としてはドラマティックな明暗差と機械の構造美がいいなぁと思います。

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ジュアキム・ミール「魅惑の入江――マジョルカ

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ポストカードは青みが強く出ている。もう少し緑がかった印象の絵です。
これ、日本画みたいだなぁって見た瞬間思った。顔料そのままのような色のせいか、画面左上のごつごとした岩の表現のせいか。昭和の日本画って感じがする。

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ラモン・カザス「入浴前」

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発表当時、あまりにセンセーショナルだと話題になった絵だそうです。
どこが?て感じだけど、リアルな裸体画が芸術か猥褻かという問題は昔から議論の大賞なのでしょう。カトリック色の強い国ならなおさらのことだし、現代だってこの分野は意見の分かれるところだしね。

個人的には、右側にある湯沸かし器に注目したい。
同時代のボナールが描く入浴する女性の図は、室内にたらいを置いて水浴びをしていたのに対し、こちらには浴槽と給湯器がある。都市の再開発がパリより遅かったのかしらね。それで上下水道の設備が整っていたのかな。たぶんこれ電熱器だろうし、電気も通っていたのだろうとかいろいろ技術面のことを考えて楽しくなってくる。

窓からの光に照らされた女性、輝く銅の給湯器、素朴な室内着の質感。明るく美しい絵だと思う。

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というわけで全体的に「バルセロナは!カタルーニャ!スペインは酷い!!!」というメッセージが非常に強くてドギマギする展示であった。うん、そういうの嫌いじゃないけど。

あと「四匹の猫」というコーナーが面白かったよ。

四匹の猫 - Wikipedia


芸術家たちが交流や若手の育成を目的に始めたカフェ(当時のカフェといえば、ムーラン・ド・ラ・ギャレットのようにショーもやるのが定番のよう)だそうで、そこの発行した雑誌や演芸のポスターがとてもよかった。
また、パブロ・ピカソも若いころ出入りしていてパンフレットを任されたりしていたとのことで、「ピカソわしが育てた」感が良かった。
ミロやダリ、コルビュジェといった有名作家もいるし、あまり知られていない画家たちも多くて幅広く勉強になる展示でした。

でもちょっと圧が怖い。