大量展示の是非 ハプスブルグ展 10/27
西洋美術好きなら押さえておきたい、ハプスブルグ展には当然行く。だって、絶対すごいじゃん。ゴージャスに決まってんじゃん。見るしかないじゃーん。
ハプスブルグ家は知らない人はいないであろう、欧州の貴族です。
軍事というより政略結婚により勢力を広げていった一族。マリア・テレジアやマリー・アントワネット、美術史的にはルドルフ2世、カール5世あたりが特に有名ですね。
ヨーロッパの覇者といってもいい一族のコレクション、実に充実しています。しすぎるくらいです。
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アントン・ペッフェンハウザー「編模様の甲冑セット」
タイプの違う甲冑が複数来ていました。試合用のものや儀礼用のもの。実戦用、と書いてあるものもありましたが、非常にきれいなのでそれを使って戦ったりはしていなさそうです。まぁ皇帝は戦場に行っても自ら戦ったりしないだろうしね。
その中でもこれは特に細工が細かく美しいです。銀の地に金の模様。そして赤い革胴着。この下に着こんでいる赤いプロテクター、腰のあたりがぴらぴらとギャザーが寄っていて、とてもおしゃれ。
かっこいいよねぇ。
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コルネーリス・デ・ヘーム「朝食図」
朝から生ガキ食うのかよ。元気かよ。
といっても、別に本当に朝食というわけではなく静物画です。明るい光が差し込む中での食卓の様子。果物、牡蛎、金属といった質感の描き分け。傾いた皿の不安定な構図。
見ていて楽しい一枚です。
個人的に、古い西洋画のブドウの表現が好きです。表面に粉をふいた質感が。
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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン「使徒パウロ」
全てにおいて大作が多くて逆にとびぬけた作品というのが出にくくなっている今展示。その中でも輝いていたのがレンブラントでした。
パウロってあんまり老人のイメージないなぁ…もともとキリスト教の迫害者だった彼が奇跡に出会い回心し、キリスト教徒になったというストーリーなので、やはり回心シーンのほうが印象深いです。
あちこちのキリスト教徒へ手紙を書きまくっていた彼なので、このシーンはその手紙執筆中なのでしょう。暗がりにひっそりと置かれたアトリビュートの刀、険しい表情が彼の性格を表しているようです。
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ディエゴ・ベラスケス「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ」
紺展示で一番有名であろう絵。婚約者へと送られた写真代わりの肖像画です。描いたのは巨匠ベラスケス。幼いながらもハプスブルク家の特徴をはっきりと示した顔、豪華な衣装、素晴らしい出来栄えです。
これと全く同じポーズ、同じ服で、ただドレスの色が緑色の作品もありました。
フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソの「緑のドレスの王女マルガリータ・テレサ」です。ほかの用途に使用するための複製品でしょうかねぇ?描かれた時期も年齢もほぼ同じ。表情もドレスのデザインも同じ、背景や服のしわまで同じで、ただ色だけが違います。同時に描かれたのなら同じ服の色になるだろうし、別の機会に描いたならここまで同じにはならないだろうし。
近年まで青いほうが見つからず、緑の方がベラスケス作と思われていたそうです。ポストカードはなかったので、実物見てください。
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フランス・ライクス「オーストリア大公フェルディナント・カールの肖像」
これは、悪い意味で印象に残った作品です。
なにこれ。朱色の衣装ってどういうこと。三銃士みたいだけどこの装飾過多はなんなの。特に靴のデザインとか露悪的といってもいいほどだし、それに対して顔の印象は驚くほど弱い。
率直に言ってひどい絵なんだけど、あんまりにもひどすぎて、色味がキツ過ぎて、逆に印象に残って離れない絵でした。みんなこれに気を取られて他の作品がおろそかになるとよい。
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全体として、大作だらけで非常に圧倒される展示だった。
特に入ってすぐのタペストリーとか、壁一面を埋め尽くすサイズがものすごかった。そして、これをかける壁のある城に住んでたんだなぁという事実にやっぱハプスブルグやべえって気持ちになった。
ただ欠点としては、なんか散漫な展示であった。キュレーションが弱いというか。
とにかく元のコレクションが膨大なのでしょう、様々なジャンルからちょっとずつ借りてきた結果、なんかコレクションとしての統一感がない展示になってしまっている。
例えば肖像画500枚、風景画500枚、神話画500枚あったらそれぞれすごいコレクションが3つある、と見れるのですが、肖像画と風景画と神話画3枚ずつ、と見せられるとどういう基準でコレクションしてるの?という感想になってしまう。
これだけのコレクションを展示するなら、全体をちょっとずつというよりは「ハプスブルグのXX展」といったように絞ったほうが分かりやすくなるだろうなと思う。
とにかく数が多いのも大変なんだろうね。