人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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鵠沼の女の子 岸田劉生展 9/1

毎年「今年注目の美術展一覧!」みたいな雑誌を買うことにしているのだけれど、そういう雑誌って大体美術展チケットの応募ハガキが巻末についてたりします。というわけで、 当たったぜ懸賞!行くぜ美術展!
www.ejrcf.or.jp

というわけで岸田劉生展です。ペアチケットだったので京都人も連れて行ったら「夏に見るには重くない?」と言われてしまった。うん。確かに。
岸田劉生は明治~大正期の日本の洋画家です。美術学校に入学したわけではありませんが白馬会葵橋洋画研究所に入り黒田清輝に師事しています。20歳頃から画家として作品を発表し始め、38歳で病没しています。その短い生涯で多くの作品を発表した岸田は非常に起用で才能のある人だったのでしょう。様々な画風を渡り歩いた画家です。

岸田劉生 - Wikipedia

名前に聞き覚えがなくても、作品を見たらみんな一発でわかるはず

www.tnm.jp

 

はい、あの麗子ちゃんです。

「麗子洋装之像」

f:id:minnagi:20190902161200j:image

これは習作で、油絵作品の方が好きだけどポストカードなかった。この服めっちゃおしゃれ。かわいい。胸元の斜めボタンとか超イケてる。
今回の展示ではアルバムに貼られた麗子さんの写真も見ることができました。昔からこのシリーズの絵を見て

「自分がこんな風に描かれたら嫌だよな。こんな顔の人いないよな。でももしかしたら、めちゃ写実なのかもしれないな。だとしても嫌だけどな」

ってずっと気になっていたのですが、実物の麗子ちゃんはもちろんこの絵のように横長の顔はしていないのですが、まぁ絵画作品に落とし込むにあたってのデフォルメとして許される範囲の相違だなって感じのお顔でした。(ひどい

岸田は娘の麗子を溺愛しているんだなぁというのが伝わってくる絵です。これじゃないけど和装の絵とかは手や服が執拗といってもいいほどの密度で描かれてまるでその場に浮かび上がっているように見えるのに、顔だけがこれだからすごい不安な気持ちになる。
たぶん彼女のことを神聖視しすぎて、地蔵とか仏像とか、そういう人ならざる者の域まで行ってしまっているのだと思う。

いろんなバージョンの麗子像が見れるのが面白いです。
結果としてポストカード売り場が麗子ちゃんだらけなので、圧がすごくて笑う。

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「道路と土手と塀(切通之写生)」

f:id:minnagi:20190902161150j:image

代々木の風景だそうです。
銀座に生まれ(ボンボンだ…)代々木に住み、療養のため鵠沼に移動してから京都に移住するもお茶屋遊びで身を持ち崩して鎌倉に戻ってくる、というせわしない生活の中、あちこちの風景を描いています。
この絵はとても夏っぽくていい絵だなぁと思います。でも現在の代々木は超都心なのでどこなのかわからない。

jp.omolo.com

こんなイベントやってたんですね。行きたかった。

 

ちなみに鵠沼、読めるでしょうか。クゲヌマと読みます。神奈川県藤沢市南部、藤沢駅から海岸にかけてのエリアで、実は私の出身地であります。海が非常に近いことから古くは別荘地、療養地として栄え、文芸人が多く住んでいたエリアではありますが、岸田劉生が住んでいたとは全く知りませんでした。学校でも特に習わなかったし、史跡とかもないんじゃないかなぁ。
私の記憶にある鵠沼は砂っぽく乾いた住宅地で、岸田の描く緑にあふれる風景はいったいどこを描いたものだかてんで見当がつきません。
唯一「初夏の小路」だけは、鵠沼海岸の方だろうなぁと懐かしく思いました。具体的にどの小路ということはできないけれど、海岸の手前の防砂林。この松の木を抜けると、その先には海があるんです。

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「壺の上に林檎が載って在る」

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黒田清喜に師事、ということで岸田は当時最先端の印象派(ポスト、でしょうか)から画業を始めています。その後彼はゴッホのような作品、フォーヴィズムちぎり絵のようなふわふわしたタッチなどを経て、北方ルネサンス風の画風へとたどり着きます。その後さらに中国や日本の古典に習った卑近美や日本画風に行くのですが、そちらはあまり好みではないなぁ。晩年の作品は絵手紙教室のようです。


麗子像や、その時期の人物画は北方ルネサンス期のもの。きっちり丁寧に描かれた人物が一輪の花をつまむように持っている様など、典型的な北方ルネサンスポーズで興味深いです。静物画も美しい光沢のビロードを配してみたり、静謐で格調高く、神秘的な雰囲気がかなり好みです。一時は牧師を目指していたという、その信仰が影響しているのかもしれません。
こちらの作品も美しいレタリングや背景にかけられた布などにその特徴が表れています。
この人の作品は、陶器の照りが非常に魅力的です。こればかりは実物を見ないと伝わらないところかもしれないけれど。

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 「静物(白き花瓶と台皿と林檎四個)」

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こちらはちょっと構図がセザンヌ風。とはいえしっかりとした描写力や陶器のシャープな質感は彼独自のもの。林檎の絵は他にもテーブルの上に林檎が一列に並んでいる謎めいたものや、左右から幕が上がるかのように持ち上げられたその間に置かれたものなど、様々なものがあって楽しめます。

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今回の展示は数が150点と非常に多く、素描等は少なく完成品ばかりなので非常に見ごたえがあります。画業自体は短いのですが、その間様々な画風を試しているのでいろんなタイプの絵が見れるのもお得感が高いです。公式サイトにあるやつだと、他に「銀座と数寄屋橋畔」の色使いとかも独特で好き。

今まで「なんかキモイ麗子像の人」と思っていたイメージがいい感じに崩されると思います。おすすめ。