人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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【ネタバレ感想】特別料理

書籍データ

  • タイトル:特別料理
  • 作者:スタンリイ・エリン
  • 訳者: 田中 融二
  • お勧め度:★★★★★

収録タイトル

f:id:minnagi:20190808144959j:image

 

特別料理

ある日、男が上司に連れていかれた奇妙に古めかしいレストラン。メニューは存在せず、日替わりのコース料理のみが提供される。そのシンプルながら奥深い素晴らしく美味な料理を出す店に男は夢中になる。
長年の常連である上司は「普段の料理もおいしいが、ごくまれに出る特別料理はさらに信じられないほど美味」なのだという。また、「一度は厨房をのぞいてみたいが、シェフは誰にもそれを許さない」とも。
期待して通ううち、ついに出された特別料理は確かに極上の美味であった。何年も毎日通っていた常連が一人その日は顔を出さず、特別料理を逃したことを上司は気の毒がる。
ある日たまたまレストランのウェイターが暴漢に絡まれているのを助けた男と上司は、そのウェイターから「シェフに招かれても決して厨房に入ってはいけない」と忠告する。
上司が長期出張に出かける前の晩、上司はシェフに招かれて…

お先棒かつぎ

不況の時代、男がやっと手に入れた仕事は、とあるビルの個室で新聞等から業界情報をまとめてレポートを郵送するというもの。その奇妙な仕事は応募は書類郵送、採用は電話、給与は郵送といった様子で雇い主には一度も会わずじまい。
そんなことも気にせず熱心に仕事を続けていた男のもとに、ついに雇い主が現れる。雇い主は男がやっている仕事は何の意味もない作業だと告げ、「本当にやってほしい仕事」について説明を始めるが…

クリスマス・イヴの凶事

クリスマス・イヴに依頼人の荒れ果てた屋敷を訪ねる弁護士。
依頼人の男性の部屋に行こうとすると、その姉の妨害を受ける。依頼人には自分の妻を殺した姉が無罪放免なのに耐えられないと訴えられるが、家の中で目撃者もいない中、事故だと訴えられたらそれを覆す証拠がないのだとなだめる他はない。
家の中で閉じこもっているのはよくないと男性を連れ出そうとする弁護士だが…

アプルビー氏の乱れなき世界

骨董品屋を経営するアプルビー氏は自身の店をこよなく愛していたが、がらくたばかりの店の経営は悪化するばかり。ある日彼は裁判記録をあさり、妻を殺して財産を受け継いだが無罪で逃れた男の記録を発見する。その手口を参考にして自分の妻を殺すと、目論見通り無事に遺産を手に入れ、店につぎ込むことができた。
そうして六人の妻を殺し、遺産を手に入れ、目立たないように引っ越しを続けてきたアプルビー氏はある日、大金持ちのオールドミスに出会うが……

好敵手

ある日友人からチェス盤を譲り受けた男。しかし気難しい妻はチェスの相手になってくれないし、友人を家に招くことも嫌がる。男が仕事以外で外に出かけるなどもってのほか。
仕方なしに教本片手にチェスを独習する男だが、やはり対戦相手が欲しくなる。何とか自分を自分の対戦相手にするために意識の切り替えを試みる男はやがて…

君にそっくり

苦労して一流企業に入った青年は、努力を怠らないものの会社上層部、上流階級出身の人たちの間に入っていけずに悔しい思いをしていた。ある時上流階級出身だが放蕩が過ぎて感動されたドラ息子と知り合いになる。親からの仕送りだけを頼りに生きるドラ息子と同居するようになった青年は、彼の上流階級然とした立ち居振る舞いを真似始める。仕送りの受け取りも面倒がるドラ息子に代わって、もともと見た目が似通っていた青年は銀行に小切手を受け取りに行くようになる。
会社でも上流階級に受け入れられ、社長の娘との縁談も上がってくる。そうなってくると邪魔になるのはドラ息子で…

壁をへだてた目撃者

寂しい独り身の男が住むアパートの隣の部屋には、若い夫婦が住んでいた。直接の面識はないが、穏やかで美しい声の持ち主である妻を夫は酷く虐待しているらしい。廊下ですれ違う彼女の姿を見、恋愛感情を抱くようになった独り身の男は、日ごと聞こえるいさかいの声に心を痛めるようになる。
ある夜、特別酷い諍いの後、急に静かになる隣の部屋の音を聞き、独り身の男はついに夫が妻をいじめ殺してしまったのだと直感する。
せめて彼女の無念を晴らすために夫を警察に突き出そうと、男は夫婦の過去を調べ始めるが…

 

パーティの夜

男は不意に自分が玄関の外に倒れていることに気づく。
助け起こされて自分の屋敷に入ると、そこでは盛大なパーティが開かれていた。人気役者である男は周りから絶賛を浴びているが、今契約している舞台から降りたくて仕方ない。その件で監督たちともめていると、招待客の一人である心理学の教授に「逃げ癖があるのではないか」と指摘される。その後男は…

専用列車

株の仲買人である男が仕事帰りに乗る電車は毎日同じ時間に決まっている。その電車はまるで仲買人専用列車といった模様。
ある日たまたま早い時間に帰った男は、自分の妻が不倫をしているのに気づいてしまう。怒り狂った男は周到に計画を立て、交通事故に見せかけて相手の男を殺してしまう。
それに気づいた妻は…

決断の時

少し旧時代的なところはあるが、妻と家族、そして自分の館を愛する男の望みは、隣の歴史ある屋敷を買い取ることだった。
しかしある日彼の家に乱入してきた男がその隣の建物を買い取ってしまったことを知り、ショックを受ける。しかも隣の男は非常にいけ好かない男で、彼の愛する隣の屋敷を大幅に改装して現代的にリフォームしようと考えていると明かす。歴史ある建物が破壊されるのが許せない男は、隣の男と彼の屋敷をかけて賭けをすることになるが…

 

全体感想

面白かった。アイディアは奇抜で語り口も優雅。悲しい話が多いのもよい。上質な本だよね。孤独のにおいがする話ばかりだ。悲劇の始まりは孤独なのかもしれない。


ただ、序文がひどい。作者が最初に投稿したミステリ雑誌の編集者が寄稿しているのだけど、オレスゲーが強すぎるし、何より軽くネタバレをしておる。
後書きならいいんですよ?後書きから読む人はネタバレ許容派だもの。でも序文でネタバレは本気でやめろバカってなる。

どれもある意味尻切れトンボなので、続きがすごく気になる。

決断の時とか「女か虎か」みたいな、結局どう決断するのだろうかというのがもう気になってしょうがない。私的には、決心を曲げないでほしい。
アプルビー氏の乱れなき世界のラストも、自業自得ではあるものの罠にはまった感じが本当に怖い。
君にそっくりリプリーみたいな話。リプリーは本当に好きな映画なのでまた見たくなってる。

もちろん特別料理もオチは見えている(序文でネタバレされてるしな!てか、タイトルでもう分り切ってるともいう)けどやっぱり面白くてうまい本だ。

良い本です。ただ、何度も言うけど序文は読むな。

 

おもしろいよ