人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




にほんブログ村 美術ブログ 美術鑑賞・評論へ
Push
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
Push

Push

Push

【ネタばれ感想】葉桜の季節に君を想うということ

書籍データ

  • タイトル:葉桜の季節に君を想うということ
  • 作者:歌野 晶午
  • お勧め度:★★★★★


今日の猫
f:id:minnagi:20190710180601j:image

 

こないだ借りたモース警部シリーズがつまんなかったよ!と注文をつけつつ京都人から借りた本。
この本はすごく面白かったです。

タイトルがみやびだよね。
タイトルと言い表紙デザインと言いなんか青春物ドラマ?聞き覚えあるってことは映画かとかしたんだっけ?程度の認識で読み始めたら全然第一印象と違ってびっくりした。 

ある日主人公の弟分の高校生の片思い相手である資産家の家のお嬢様に彼女の家の「おじいさん」が死亡したこと、恐らくは保険金殺人を狙ったものであること、そして死後とある悪徳健康商法に多額の金額がだまし取られていたということを告げられる。
家の名誉を考えて警察には行かず全て見て見ぬふりをしようとする家長の「おとうさん」を説得するための材料として、悪徳健康商法の会社を調べて欲しい……
そう願う資産家の家のお嬢様にいいカッコをしたい弟分の高校生にせがまれ、元探偵は調査を始める。
電車に飛び込み自殺をしようとしていたところを助けた謎の美女との恋愛も絡み、徐々に謎が解明されていく

以下ネタばれ

主人公が元探偵の何でも屋。ジムに通ったり出会い系で女を買ったり知り合いに頼まれて素人探偵を始めたその相棒は金髪アフロの妹。
ハードボイルド?探偵はBarにいるみたいな雰囲気で、なんか思ってたのと全然違うなぁと思いました。表紙から少女漫画みたいなせつない系の物語かと思った。(今思えば、京都人がそんな本持ってるわけなかった)

そしてなんの前情報もなく最後まで読んで気づくわけです。

「これ、叙述トリック物じゃん……だまされた!!!」
と。

本を返す時にそう言ったら「叙述トリックの名作として有名だから、ネタばれ知る前に読むべきだと思った」とのこと。正解だよ。
”映画化された”って思ってたのは“映像化不可能作品”の覚え違いですね。悔しい。

いや、叙述トリックだと思って読んでればもう少し気にしながら読んだんだけど、なーんも知らんで読んだので騙されました。いや、強いて言えば「主人公の住んでる部屋、なんかシーンによってサイズ違わない?」とは思った。思ったけどミステリー読む時に謎解きを頑張ったりはしないで素直にストーリーを楽しむタイプなので、流してしまった。悔しいね。

ストーリーとしては老人を対象にした極悪偽健康商品会社が人を騙して金を巻き上げるだけに飽き足らず、保険金殺人をも行っていたのを主人公が暴いていくというものだ。
そして何が叙述トリックかと言うと、「飄々としたプレイボーイの元探偵」「金髪アフロの妹」「資産家の家のお嬢様」「元探偵の弟分の高校生」「謎の美女」といった登場人物が全員高齢者だと言う点が巧みに隠されていると言うところだ。
弟分の高校生に至っては、老人になってから一念発起して高校に通い始めたという設定つき。念が入っておる。

“映像化不可能”であるけれど、“翻訳不可能”でもあるなぁと思った。
「資産家の家のお嬢様」が語る「おじいさん」は自分の「おとうさん」は自分の息子だ。普通に家でそういう風に読んでいるのだろうけれど、年齢描写が無いので「お嬢様のおじいさん/お嬢様のお父さん」であると誤読してしまう。
家の一番幼い子供の立場からの立場で呼称するというのは、日本語独自のものだと聞いたことがある。本当に日本でしかやらない風習なのかは知らないけれど、多分他の国からはそれなりに不自然に見えるのだろうなぁと思う。

叙述トリックは最近だと「全てがFになる」「殺戮に至る病」を読んだ。
けれど「14歳と28歳を見間違えていた」「息子だと思わせていたのが夫だった」という、前者は「普通ありえないだろ」で後者は「叙述トリックにするための叙述トリックでストーリーに絡まなくない?あと所々破たんしてる」というもので正直つまんねーなと言う感想だった。

でもこの本は物語として面白かったし、叙述トリック部分がちゃんとストーリーに絡んでいて良かった。なんせ老人がターゲットの犯罪ものだからね。ちゃんと意味のある叙述トリックであったと思う。

叙述トリックでも恋愛でも殺人でも、「それをやりたいためにやっている」物はつまらないなと思う。「それを使って面白くなっている」でないと意味がない。
やはり本の魅力は第一に「読んで面白い」ことが大事だし、この本はそれをクリアしていて最高だなと思った。