久しぶりのステーションギャラリーに、メスキータを見に行った。www.ejrcf.or.jp
日曜美術館だったかな?テレビで特集されていて、これは面白いぞと気になっていたのです。
サミュエル・イェスルン・デ・メスキータと言う人のことを私は知らなかったです。まぁそれも当然で、日本で個展が開かれるのは今回が初めてとのこと。
ja.wikipedia.org「モスク」という意味のメスキータという名字を持つ彼はユダヤ系オランダ人。
19世紀末に生まれ、20世紀に活躍した版画家です。建築を学び、美術学校の教師となり、エッシャー達を教えた人です。そしてこの時代のオランダのユダヤ人ということは、ナチスに処刑されてしまった人の一人でもあります。
おそらくは「退廃芸術」扱いであったであろうこのユダヤ人の作品を持っていることは当時かなりリスキーだったことでしょう。それでもエッシャーら教え子は作品の散逸を防ぐため、ナチスの目を盗んで彼のアトリエから作品を改修して保管していたと言います。
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「トーガを着た男」
この作品が一番好きです。非常にシンプルで力強い。最小限の表現で浮かび上がる確実なシルエット。知性と高貴さ、そして聖性。受ける印象として、仏像が非常に近い。広隆寺の木造弥勒菩薩半跏像みたいな。
撮影可能な部屋が最後にあるって案内だったので楽しみにしてたんだけど、作品ではなく代表作を印刷した巨大バナーが飾ってありました。なーんだ。
京都人はこの右側のパイナップルが非常に気に入っていた。パイナップルひっくり返そうとか普通思わないよなー。
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「ブレスボック」
たくさん製作された動物版画の一つ。私、こう言うドラマティックなやつ好きです。緊張と、純化された美しさ。物憂げな顔。
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「シマウマ」
紹介されていたエッシャーのコメントが面白い。
メスキータは自然界のモチーフで既に鮮やかに黒と白とに分割されているものをもとに、くっきりとした黒と白の創造物をつくることには反対していたのだ。
「シマウマっていうのは生きている木版だ。そのシマウマをもう一度木版にすることは自生しなくちゃいけない」
後に、メスキータ自身の木版「シマウマ」があることを知って、どんなに驚いたことか。
M.C.エッシャー
この発言が、シマウマの作品を作った前なのかあとなのか知りたいよねw
作成した上でやっぱダメだなと思ったのか、ダメって言ったけど一応検証の必要を感じたのか、単にエッシャーにやって欲しくなかったのか。気になる。
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「鹿」第10ステート(全10ステート)
し、鹿…?鹿なのか、お前は?どうしたんだそのツノは!!!
シマウマなんかはかなりリアルですが、メスキータは多くの作品で対象の要素をそぎ落とし、デフォルメし、純化して表現する。その過程で、敢えて実物とは違う表現をとることさえある。その動物にあるべき模様を消し、毛並みを変え、そしてこのように自然ではありえないフォルムをとる。
ただの再現ではなく、その要素だけを取り出すような方法は、ちょっと後期のピカソが目指していたものに近い気がする。
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「ファンタジー:微笑む男たち」
めっちゃ作風違うやつ。
メスキータは版画やその下絵である絵画では写実的な表現をしていますが、主に水彩画からなるドローイングではこういう不思議な絵を描いています。
ほとんど無意識の状態で浮かんでくる映像を作為なく描いた
と解説されていたが、ほぼほぼ悪夢の世界だ。ディズニーのプーさんでみた悪夢に出てくるズオウたち。醜く下卑た顔をした人たち。横目でこちらをちらりと見やり、声に出さずにひそやかに含み笑いをする。
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「ファンタジー:月を見上げる人」
ちょっとルドンっぽい。ほっぺがくるっとしててかわいい。
フードでもかぶったかのように闇をまとった人物が一人さみしく月を見ている。途方に暮れたような表情はなぜ闇に塗り込められているのか、世界と断絶しているか全く見当もつかないといった様子だ。
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「10点のリトグラフ集」9
リトグラフもペインティングなのだろうか?まぁ作画工程の感覚としては彫り物と言うよりお絵かきに近いんだろうな。
狐のような、タヌキのような、手塚治虫初期作品のモブのような。
人形劇の一場面を見ているような楽しい絵。そして、楽しいだけではない何かが隠れているのにまだ気付かずにいるような気持ちにさせる絵。
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私は最後の「ファンタジー」作品群が好きです。
自分が見ているものがおぞましい悪夢だと気づく直前のような世界がある。
入口で配布しているパンフ、4種類ありました。
裏に乗ってる作品も全部違うから、ちゃんとチェックしてもらうといいよ。もしくは全部もらってくるのが一番の正解。