ラファエル前派の軌跡展を見に行った。
この美術館は19世紀末美術を何度も特集しているし、ラファエル前派も何回目だよって感じ。でも好きだから見る。
公式サイトや事前公開情報だと、「ラファエル前派の前後、流れ」がテーマみたいなことが書いてあったけど、ふたを開けてみたら「ジョン・ラスキン展」って感じだった。
べつにラファエル前派解散後にそれぞれがどういう風に画風を変えて行ってみたいな話はなかった。ちょっと期待しちゃったんだけどな。
ラファエル前派がどう変化していたかではなく、ラスキンをとり撒く芸術家の変化、ターナーからラファエル前派、アーツ&クラフツ運動へといったイギリス美術界の流れだった。
というわけで、ジョン・ラスキンとは。
19世紀イギリスの美術評論家です。ついでに本人も絵を描き(販売はしてなさそう)、芸術家のパトロンとなり、美術論の本を書き、とこの時代の美術界に多大なる影響を与えた人です。
今回の展示で初めて本人の描いた絵を見たけど、かなりうまかった。本業ではないのでスケッチ程度のものだったけれど、かなりシャープで険しい感じの自然を描く人だったよ。
そして今回メインはやっぱりラファエル前派。作品はピュアで美しいのに人間関係やばいよね…
まずラスキンに最初に目をかけられたのはジョン・エヴァレット・ミレイ。でも彼はこともあろうにパトロンであるラスキンの妻を略奪してしまいます。
「夫の身体的理由によって実際の夫婦生活は無かったとして離婚を申請」って、まぁキリスト教の離婚は白い結婚(若年等の理由で性生活がないこと)であることが基本だったりしはするんだけど、それにしても情け容赦がなさすぎないか。
その後ミレイがラスキンに冷遇されるのも仕方ないとしか言えない。
次にラスキンが目を付けたダンテ・ゲイブリエル・ロセッティは、同じくラスキンに目をかけられたアーツ&クラフツのウィリアム・モリスの妻と恋愛関係に。
ついでに言うと「アカデミーなんかクソだ!」と若き芸術家が集ったラファエル前派は、創立メンバーであるミレイがあろうことかその否定したアカデミーに入るなどして数年でグダグダの解散。
設立理由から内部いざこざから崩壊理由まで、じつに若さあふれるというか厨二感があふれていて嫌いじゃない。
作品が美しければいいんだよ、所詮百年以上前の他人事だしな。
---
ジョン・エヴァレット・ミレイ「結婚通知―捨てられて」
結婚した友人から招待状を受け取った若い女性。題名から察するに、彼女には婚約を破棄された過去があり、屈辱を社会的な不名誉をこうむったのだろう。
おまいう、って感じ。解説文もそんなニュアンス出してた。だよね。
実にメロドラマ的なテーマがラファエル前派っぽいなと思った。あと、今回額縁がめっちゃ金だった。金色だらけだった。オリジナルの額っぽいんだけど、これもはやってたのかな。
純粋に絵的に言うと、本当にうまい。ぶっちゃけロセッティよりうまい。リアルだし、リアルだけではない詩情もある。彼女には幸せになって欲しい。
---
アーサー・ヒューズ「ブラッケン・ディーンのクリスマス・キャロル―ジェイムズ・リサート家」
全体としては動きが硬く不自然なところも多いんだけど、色がとてもきれい。そしてめっちゃラファエル前派っぽいなと思った。
若く美しく愛らしい子どもたち。登場人物全員が高貴な青を身につけて、純粋さを示しているかのよう。
右中段の女の子がやたらめったらかわいい。
---
フォード・マドクス・ブラウン「待ちわびて―1854-55年イギリスの冬の炉端」
すごいラファエル前派っぽい。メロドラマ的というか。
赤ちゃんがすそを覆い隠すようなドレスを着ているのが時代感だなと思う。そこに映った暖炉の火、その赤色がとても美しい作品。
---
ウィリアム・ヘンリーハント「ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣」
とにかく今回、純粋に絵がうまいなって人が非常に多い。え?写真?って一瞬思うような。
その中でも白眉は「鳥の巣の画家」ことウィリアム・ヘンリーハント。絵を見た瞬間京都人が“教科書で見たやつだ!”って言った。超有名。
元々は複製画家として働いていたという彼、ものを見て正確に写すということが得意なのでしょう。それにしてもうまい。巣の中の綿毛の様子とか信じられないほど。
でも近づいてよく見てみると、意外と点描っぽい感じなんだよね。苔とか。
今回油彩でも水彩でもめっちゃ細かく描かれたものが多くてどういう目と手をしてんだろうなぁってなるよ。
---
フレデリック・レイトン「母と子(サクランボ)」
これ、一番好き。
鶴の描かれた日本の屏風、アラビア絨毯、サクランボ。東洋趣味と時代感と。
凛とした白百合が気高さと清純さを、そして柔らかく描かれた人物がまるで聖母子像のようなぬくもりを感じさせる。
鋭い花、厚く温かい絨毯、そして柔らかな洋服と、さまざまな質感を描き分けた技量の高い作品。
---
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「祝福されし乙女」
もう、額からテーマから全部ラファエル前派ここにあり!って作品。
若くして世を去り、天国で恋人と再会する瞬間を心待ちにしている乙女の物語。地上の恋人は彼女を想い天を見上げている。
だそうです。中世の恋物語ですね。
地上で結ばれなかった恋人たちの心は永遠につながっているとか、もうこの時代感がすごい。厳しい道徳観念と、乙女へのあこがれ。愛の勝利。
ロセッティの描く女性は自分の妻ではなくモリスの妻がモデル。彼女の写真もあったけど本当にそっくり。一応妻帯者で、他人の妻をモデルにするんだから少しは変えない?ってくらいそっくり。そんなんだから自分の奥さんが自殺するんじゃ。自重しろ。
ラファエル前派は人気だから何度も展示は見ているのですが、見たことない作品もあってよかったです。そして今回メイン展示ともいえる一室が撮影可能で、太っ腹だなぁとびっくりしました。
珍しいラスキン本人の作品も見れるし、ターナーも来てるし、そうとうお得な展示だと思います。