新興趣味 終わりのむこうへ : 廃墟の美術史 1/10
松涛美術館に行ってきた。渋谷駅から歩くと結構かかる。
ここは入場料が安い代わり、ショップがなくてグッズが売ってなくて残念である。建物自体なかなか美しく、解説ツアーもやっているというのでタイミングが合えばいつか参加したい。特にサンクンガーデンが良かったよ。
唯一の撮影OKコーナー
ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『ローマの古代遺跡』(第2巻II)より:古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点」
解説で
日本では近代まで廃墟という概念がなかった
とあってなるほどと思った。外国、特にヨーロッパでは古代ギリシア、ローマ遺跡が街中にあるので廃墟に馴染みがある。
けれど、近代以前の日本には廃墟というものがそもそもほとんどない。
単純に建材の違いだ。ヨーロッパの石材に対して日本の木造家屋は、気候的な問題もあって長持ちしない。廃墟になる程長持ちしないのだ。使われない建物は朽ち果ててしまい、廃墟というほどの原型は留めない。
今では廃墟ファンも多数いるけれど、日本で廃墟の美を楽しめるようになったのは鉄筋やコンクリートで建物を建てるようになった近代以降のことなのだ。
以下、画像はチラシから
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ユベール・ロベール 「ローマのパンテオンのある建築的奇想画」
パンフだから文字かぶってるけど。
一つの絵の中に複数の時制があるのが面白い。ぱっと眼を引く立像の周りは古代ローマの姿。何かを指さして語り合う当時の人たちはどうやら揉めているようで、何が起きたのだろうと考えさせられる。
そして立像の視線に導かれるままに天井を見上げると、それはもう廃墟だ。
廃墟のかつての繁栄を示しているのか
美しく栄える都市もいつかは滅びるということなのか。
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アシル=エトナ・ミシャロン 「廃墟となった墓を見つめる羊飼い」
廃墟画というのは、歴史画というより風景画に分類されるようだ。
すぐそこにある在りし日の文明を、情緒たっぷりに描いている。
この絵に限らず、ちょっとロマンティックに過ぎる気がしなくもない。
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藤島 武二 「ポンペイの廃墟」
迎賓館赤坂離宮に第七天国を描いた人じゃないですか!やっぱり好き…
色がさ、すっごくいいよね。シンプルで素朴なフォルム、鮮やかな色、どこか感じるさみしさ。
日差しの力強さと誰もいない荒涼とした感じがよいです。
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澤部 清五郎 「群羊図(伊太利アッシジ附近)」
これはまた一風変わった絵。
日本画の掛け軸に、異国の羊の群れ。牧歌的でのどかな廃墟の世界。
これ、欲しいなぁと思う。
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元田 久治「Indication: Shibuya Center Town」
以前どこかの美術館で見たと思う。
すごく大きなリトグラフ。この画像では潰れてしまっているが、細部までとても精巧に描かれている。
この作品が描かれたのは2005年で、この中に廃墟として描かれている店も、現実にはもう存在しないものも多いだろう。ある一点で時間を止めたこの絵は、未来の姿を表現しながらも実際にとらえているのは過去なのだと思う。
時制について考えるととても興味深い。
面白かった。