ぐるぐるゆがむVR ムンク展 11/22
混んでると噂だったので、ムンク展は平日に行ったよ。噂ほどは混んで無かった。
平日4時くらいに行けばチケット列もなかったけど時間的に厳しいよね。
エドヴァルド・ムンクは19世紀末~20世紀のノルウェーの画家です。この時代マジ最高。
彼は家族の死を経験したり、親が異様に厳しかったりと暗い子供時代を過ごします。長じては「叫び」のような人の不安を誘うような絵を描いたり、精神病院に入院したなんてエピソードから、才能のままに勢いで描いている画家というイメージがあるのではないだろうか。
今回の展示を観た感想では「かなり考えてきっちり描く人なんだな」という印象を受けた。
初期の写実的な絵が非常にうまいこともあるし、同じモチーフを繰り返し描くことでより洗練され、よりテーマが純化していくのが面白かった。
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見た瞬間、「マドンナがいる!!」って思った。下のマドンナと比べるとそう似てはいないのだけれど、見た瞬間は本当にそう思った。今でも思っている。
輝くひとみ、渦巻く髪、その美しさとエネルギーはまさにマドンナだと思う。
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「マドンナ」1895/1902年
このバージョンも好き。淡い色彩、青く塗られてより背景と同化し、ひっそりと見上げる胎児。より迫力があり、美しく輝くマドンナとその影の対比がよりくっきりとしている。
そして、これの原版も来ていてやったぁ!って思った。
オレンジと緑の一番好きなバージョンは来ていなかった。その代わりポスターが売られていたのだけれど、3万だったので変えなかったよ…ひどす。
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「夏の夜、人魚」1893年
美しく、官能的な夜の海。タイトルは人魚だけれど、下半身は水に隠されて確認できない。無邪気に楽しむ奥の二人に対して、こちらを見下すような彼女は確かに人魚なのだろう。近づいたら引きずりこまれてしまいそうな深さがある。
水面に映る月の表現が面白い。彼はこういう表現を繰り返し使用していて、凪いだ鏡のような、時間が止まったような海を思わせる。
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「生命のダンス」1925年
めちゃくちゃ不安になる絵。
白い服の純真な女性、赤い服の情熱的な愛、そして黒い服の拒絶された愛を示すという3人の女性が描かれている。というか、右の白い服とダンスするハゲが気になる。怖い。めっちゃ怖い。
多分ムンク自身は、真ん中の赤い女性と踊っている人なのだろう。愛の喜びを表現するはずなのに、その顔は固くこわばり青白く、女性に呑みこまれそうになっている。
白い服の女性は、他の絵にも何度も出てくる妹なのだろう。無垢でピュアな少女のイメージ。
この絵を見て、ムンク自身は変わるつもりが無いのだろうなと思った。
「画家として十分な才能を発揮するには孤独でなければならない」と生涯結婚しなかったというがその割にモテモテで、普通に恋人もいたという。
ある富豪の娘と付き合って、結婚してくれないなら死んでやる!的なトラブルを起こさせ、拳銃事故で手を負傷したほどだ。
多分ムンク的には、女性が変わっていくように見えるのだろうなとこの絵を見て思った。
純粋な女性と付き合うと徐々に官能と性愛にとりつかれ、耐えられずに別れると陰鬱な死の空気をまといだす。
その過程の間、自分自身は変わらないつもりなのだろう。そして、実際に変わらないのだろう。変わらな過ぎるのだろう。
人間関係は、心の距離によって変わる。他人から知人に、友人に、そして恋人に変わる間、その関係は変わっていくし、時間と関係によって相手に見せる顔も変わっていく。それが普通だ。
それを受け入れられないなら、自分も同じように変わっていくことができないのなら、生身の人間と付き合うのは難しいだろうなと思った。
今だってきついけど昔みたいに女性の人権がもっと無くて、キリスト教の道徳観念が徹底されていて、潔癖で。それなりの年齢でそれなりに深い付き合いをしていたら当然結婚するだろうという社会規範の中で、切り捨てられた女性はたまらないよね…
1908年に入院して、以降描く絵がつまらなくなったなどとまことしやかに言われているけれど、この絵を見る限りとてもそんなことはないよね。単にフォーヴっぽくなっているだじゃない?
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「叫び」1910年頃
あまりにも有名な絵。叫んでいるのは彼ではなく自然だというのも、もう常識といってよいだろう。
このポーズこそがムンクのトレードマークみたいな扱いになっているけれど、最初のバージョン(タイトルも異なるけど)では比較的写実無男性が描かれていて、繰り返しイメージをはっきりさせていくうちに抽象化していったのだなと想像するとおもしろい。
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ポストカードにないものも、公式サイトで見ることができる。
「家壁の前の自画像」公式サイト
アメリカのIT企業家みたいな絵。ジョブズ感がある。
会場に入ってぱっと飛び込んでくるのがこの絵なのだけれど、鮮やかな色と奇妙な立体感でものすごく目を引く。隣に飾られた「硝子のベランダの自画像」もパースが妙にとがっている。
彼の絵は独特のパースと悪夢のように鮮やかな色彩で、VRの世界に迷い込んだような気になってくる。視線の先だけ妙にピントが合う感じ、視界の端が奇妙に引き延ばされて歪む感じ、ゲーム画面の中に迷い込んだようだ。
「すすり泣く裸婦」公式サイト
この絵、前から好き。身も世もないドロドロの悲しみを、こんな冷徹に描けるのは普通じゃないと思う。
ムンクの主治医でもあったという精神科の医師。力強く堂々とした肖像画であるけれど、右足に馬の足が重なっている。馬の蹄=悪魔の象徴だって。20世紀初頭の精神科治療だもんなぁ。嫌だったんだろうなぁ。
数も多いし、よい展示でした。公式ツイッターとかを見て混雑状況把握して、なるべく遅めの時間に行くのがお勧めです。