移ろいゆく世界 入江明日香展 横浜高島屋 9/23
横浜高島屋の入江明日香展を見に行きました。
詳細の話をする前に聞いて欲しい。
会場についてチケットを買おうとしたら、おばあさんが人目を避けつつ私の手に紙きれを押しつけ、無言で歩み去って行ったんだ。とにかくなんかもらったことは確かだから「ありがとうございます…?」と言いつつ手元を見たら。
招待券だった。
多分チラシについていただろう、招待券の切り抜き。
マジかよ。くれるのかよ。神かよ。
見ていた京都人が「なに?辻斬りならぬ辻美術館招待妖精?」とか言ってたけど、もしかしてあれじゃないかね。ついにやったんじゃないかね。
私、人の金で美術館に行った……!!!
正確には”金”じゃないし”館”でもないけど、細かいことはいいんだ。
俺はついに人の金で美術館に行った。
感無量である。
入江明日香さんは前の記事でも簡単に取り上げたことがある現代作家さん。
和モチーフの、イラストっぽい画風の画家なのですが、元々は油絵志望で大学では版画を学んだのだそう。
作品のほとんどは銅板画に彩色やコラージュを施したミクストメディアだそうです。
びっくりしたよね。だって、作品完全日本画の文法なのだもの。元々洋画とは思わなかった。
左「横浜航海図(部分)」
右「京都白浪図(部分)」
横浜と京都の巡回展なので、会場をイメージした作品とのこと。勇壮な横浜と、みやびな京都。
あちこちの作品に踊るネコちゃんも可愛い。
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立体作品のみ撮影可能。
宝船に高島屋のマークがついている不思議な世界。
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「火消し」
強く、はかなく、カッコイイ。
「ふと大人びた顔を見せる子供」に魅かれて人物画を描き始めたという話に、この人は狭間で揺らぐさまが好きなのだろうなぁと思った。
大人と子供の狭間。動物と植物の狭間。生と滅びの狭間。
そういう狭間で揺らぐさまがよいのだと思う。
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ポストカード、正直あんまり出来がよくない…線が細すぎて白飛びしている。実物はもっと美しい。
「火消し」
上と対になる作品。
より大人びた表情は、より儚くいまにも消え去りそう。
今にも風に流れて消えてしまいそう。
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「増長天」
仏像、四天王のシリーズ。南方を守る武者としての姿が下に(そして猫たんも)描かれていて、その魂が実体化しているようだ。己の炎で実を焼き尽くしている。
こうして見ると、仏像の中の魂が今にも降臨している、実体化しつつある姿と見ることもできるだろう。
だけれどもどうしても消え去る瞬間に見える。吹き抜けるつむじ風のように見える。
疾走感のせいだろうか。こんなに静かな絵なのに。
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「冬鶏頭」
動物を描いたものもたくさんあった。
特に多かったのが鳥、特に鶏を描いたものだけれど、こちらはネコ科の獣のようだ。
紅葉の中からのっそりと現れた幻獣。
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「美しい冬(部分)」
かわいい…!すごくかわいい。こんなコートが欲しい。
この青がたまらない色をしている。ボタンが丸まった猫なのもすごくいい。
何となく横浜っぽいなと思う。青いからかな。武者姿が関東っぽいからかな。
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他にもたくさん作品があった。
フランスで学んでいるという銅板画、一版多色刷りの作品は完璧に浮世絵の色をしていて、同じ版でも色によってがらりとイメージが変わるのが面白い。特に銀色のインクを使っているものは、こんなに繊細な線がよくつぶれないものだと感心する。
掛け軸のような作品で、よく見ると表具の一文字や風帯も全て描き込まれた者も素晴らしかった。あれは欲しい。
入場前、展示ポスターを見た京都人は「あなたこんなイラスト?も見るのねぇ」などと言っていたが、実物見たら気に入ったようでめっちゃ真剣に見ていた。
小規模だけれどその分安いし、とても充実しているからぜひとも見に行くとよいと思う。
なんなら、7階の美術品フロアで展示販売会をやっているから先にそちらを見るといい。なんせ、無料だ。気に入ったなら8階の個展チケットを買いに行けばよいのだ。
余談だけど、販売品はほとんどが売約済みだったのがすごいなというかやっぱりなというか、納得だった。