人の金で美術館に行きたい

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。

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目的と手段 千葉・ホキ美術館

絵画は写実的なほうが好きだと言った。
けど写実、と言っても尺度に迷うのが事実だ。ダリやマグリットのようなシュールレアリスムと、モネやルノワールのような印象派と、グリューネヴァルトボッティチェッリのような中世の画家と、どれが一番写実的だと言えるだろうか。
私は多分「写実が好き」ではなく「具象が好き」と言うべきだったのだと思う。そのうちこっそり変えるかもしれない。

 

というわけで、今日は正しく写実の話をしたい。こないだアントニオ・ロペス・ガルシアの話をちらっとしたけれど、日本にもすごい写実画を描いている人はいっぱいいて、それを専門に取り扱った美術館もある。

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www.hoki-museum.jp

ホキ美術館。収容作品もさることながら美術館の建物自体もとても美しい。
欠点として、クソ遠いところにある。東京駅から1時間以上かかる。駅から歩いて30分とかかかる。バスもあるけど、1時間に2本くらいしかない。
でもすごくいいところだったから、機会があったらまた行きたい。しかしお家から遠すぎるので、展示作品が大幅に入れ替わらないなら行くのはつらい。
ちなみに見たのはこれだ。

過去の企画展企画展|心ゆさぶる写実絵画|ホキ美術館 HOKI MUSEUM


写実とは、リアリズムとは何だろうか。見たものをそのまま絵画として落としこむことだ。
リアルなのが好きなら写真を撮ればいいじゃないか。
写真がだめなら、デジカメで撮った写真をプロジェクターでキャンバスに写して、なぞればいいじゃないか。(スーパーリアリズムという。ホキにも収蔵されている)
CGやシミュレーション結果を出力すればいいじゃないか。

駄目じゃない。”絵画じゃなければ”駄目じゃない。
写真は写真で良さがある。それは別個のものだ。
スーパーリアリズムは興味ない。写真をなぞるくらいなら、写真作品として勝負すればいいのにと思う。写真を超える付加価値が無いのなら、絵画にする意味はないと思う。
CGやシミュレーションは面白いけれど、それが芸術家って言うとなんか違う気がする。アウラが無い。誰がやっても同じ結果になるものを、独自性のないものを芸術と定義してよいのだろうか。

 

絵が、写生力がうまいだけではだめだ。だめだというのは間違いかもしれない。好みでないというべきかもしれない。
昔、写真が無かったころは肖像画や記録がとして、現実の再現力が強く求められる理由があった。
けれど今、誰もが皆カメラを持っている時代、再現性だけにどれほどの重きが置かれるのだろうか。写生が、現実世界の模写がうまいことがそれほど重要だろうか。

 

ただ対象の再現力が高い、低いのほかに、何を選び取るか、組み合わせるか、表現するか、暗示するか、変更するかといった絵画芸術に必要不可欠な要素がいくつもある。
写生力が高いことよりも、こちらの能力の方が重要なことだと思う。
もちろんその表現手段として写生力が求められる場合もあるだろう。でもそれが無くても魅力的なものはたくさんあると思う。
写実性はあくまでも手段だ。

 

だから美術館に行って「わぁ、本物そっくり」という感想を聞くと私は少し悲しくなる。
本物そっくりなことは確かにすごい。でもそれ以上に、そっくりに描くことで画家が何を表現したいのかを考えてみたほうがずっと楽しいと思うのに。
ホキ美術館の地下には、絵画を眺めながらその作者のコメントを聞けるコーナーがある。
「画面に漂う美意識、すなわち美の技がなければ、それは美術ではなく図像に過ぎない」
青木敏郎さんの言葉だ。ただの現実の写し絵と、芸術とを分ける境目はそこにあるのではないかと思う。絵画に限らず、写真も、立体もそうではないかと思う。
全ての芸術・現代アート作品にこの意識があってほしいと思う。

 

というわけで、ホキで買ったポストカードをいくつか。

島村 信之 「幻想ロブスター」

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めちゃくちゃリアルだけれど、現実よりももっとリアルだ。
ものすごく大きな絵で、その圧倒的な存在感がまたよい。この美術館の特別展示室のために描かれたという、ぴったりの絵だ。
『幻想』という言葉にふさわしく思う。まるで異教の神のようだ。



五味 文彦さんがすごく好きになった。

五味 文彦 「蘭」

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凛とした花の中に不思議と緊迫感のある絵。
「自然界に黒という色なんかない。黒の中には様々な色が含まれている」
よくそういうけれど、思い切りよく黒を使った絵は美しい。だって、黒いものは黒い。光を表す影と、静かな闇は全く別のものだ。
陰に黒を使うのは間違いかもしれない。画面に黒を入れるのは強すぎて難しいかもしれない。だからこそ、使いこなす様が素晴らしいと思う。

 

五味 文彦 「樹影が刻まれる時」

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大きい絵だ。確か横が4mくらいあるんじゃなかったかな。もっとだったかな。
恐ろしいほど緻密に書き込まれた明部と、画面中央に立ち込める霧。何も見えないその中からぬっと突き出す枝。そんな大胆さが好きだ。
全部にみっちり葉っぱを描き込んでいたのに、中央を塗りつぶしたとか聞いて震えている。そこまで労力をかけたものを消してしまうのには相当勇気がいっただろうに。
しかしその緩急の付け方が素晴らしいから、消してよかったのだろうと思う。

五味文彦 レモンのある静物
ポストカード撮影が下手でわかりづらいけど

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いわゆる軽食画だ。錆びた缶とレースの敷物、そして2つの果物。質感の描きわけが素晴らしい。特にレモンの皮が光に透ける様は本当に美しい。
この人の描く絵は静謐で、緊迫感があり、聖性がある。とても遂行なものを感じるのがいいと思う。
シュールレアリスム的なものも良く描いているけれど、私はこういう具象画の方がやっぱり好きだ。

 

買って(はーと)

いや、むしろプレゼントしてくれぇ