人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




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世界の薄闇の中で オディロン・ルドン

今日は何の話をしようかなぁと考えて、やっぱ一番好きな作家の話をしようかなぁと思うよ。
オディロン・ルドンだ。
私、ルドングッズいっぱい持ってるよ!あと写ってないけど文化村のDVDと画集1冊ある。パッと出てこなかった。部屋掃除せにゃ。

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オディロン・ルドン、本名ベルトラン・ジャン・ルドンはフランス19〜20世紀の画家だ。
この時代は印象派の全盛期で光り輝く跳ねるやうな油絵が主流だったけれど、彼は真逆な昏く穏やかな異形の世界を描いている。初期はリトグラフ、後期はパステル画が多いがその静謐な世界観は一致している。
ジャンル的には幻想絵画とでも言おうか。象徴主義とか言われるけれど、彼は何かの派閥に属していたわけじゃないから正確ではない。ナビ派とかが慕ってはいたけれど、誰がどう見ても同ジャンルとは思わないだろう。
彼は非常にユニークな、他者の追随を許さない存在だ。そしてただ1人自己と向き合うような世界を創造しているのだ。

 

私が最初にルドンのことを知ったのは、渋谷文化村の展示だ。壁のそこかしこを這い回る蜘蛛の姿に夢中になった。
そして2013年の大回顧展、「ルドン、夢の起源」新宿の東郷青児美術館で見たし、そのあと所蔵品展でも特集すると言うので1人で岐阜県美術館にも行った。
本当に、ルドンを見るだけのために行った。岐阜県の観光地は飛騨高山とか車に乗らないと行けないところなので、中部名物モーニング食べて美術館だけ見て居酒屋で飛騨牛食べて帰った。
神奈川県立美術館の幻想の系譜も行ったし、2016年には没後100周年と言うのでまた岐阜に行った。当然1人で行った。三菱1号館美術館に行けばグランブーケは当然チェックする。

好きなんだ。理屈はともかく好きなんだ。

 

Bunkamura

オディロン・ルドン | 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

県民文化の森 岐阜県美術館|ルドン展|

幻想の系譜 ゴヤからクリンガーまで :The Genealogy of Fantasy - From Goya to Klinger :神奈川県立近代美術館<鎌倉別館>

 

 

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岐阜県美術館

 

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岐阜県美術館

 

この壁一面を埋め尽くすように大量のルドン小品が掛けられているのは本当にうっとりする世界だ。こうやって彼の絵だけを見て、彼の世界に取り込まれるのが一番幸せな鑑賞法ではないかと思う。

こんな部屋が欲しい。


youtu.be
岐阜県美術館

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19世紀に顕微鏡が大きく進化して、植物学や発生学というものが大きく進歩した。

その影響が、見えない世界への畏怖が、彼の作品に大きく影響を与えている。

卵の中の稚魚のような、進化の過程のような、異形の生き物を多く生み出している。

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『聖アントワーヌの誘惑』…頭を持たない眼が軟体動物のように漂っていた 

 

こちらも、まるで卵から飛び出るのを待ち構えている稚魚のようだ。

厳しい表情で前を見据える老人のようなその眼には、世界はどのように映るのだろうか。

彼にとって世界は恐ろしいものなのか、穏やかなものなのか。どちらにせよ手探りで進まなければならない神秘と謎に包まれているように思う。

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『夢のなかで』 1.孵化 

彼の時代は世界を覆っていた神秘のベールの最後の1枚がゆっくりとはがされていた時代だ。
神学、神秘学から科学へと世界を測る物差しが変わりつつある時代だ。小学生のころから胚の発達を知っているような私たちが、このような全く人知の及ばない世界があると信じられるだろうか。未踏の大地が無くなったこの時代に、冒険小説はどこに進めばいいのだろうか。
現代もので言うと、蟲師とかかなぁ。でもあれも舞台はまだ不思議が残っていだ時代だからなぁ。

TVアニメ『蟲師 続章』公式サイト

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ルドンといえばこれだよね〜と言う、笑う蜘蛛。名前は知らなくても見たことある人は多いのではと思う。家中の薄暗がりに貼りたい。

泣く蜘蛛というのもあるんだけど、そっちは正直可愛くないw

このユーモラスな蜘蛛は岐阜県美術館のマスコットにもなっている。

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蜘蛛(通称、笑う蜘蛛)

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ルドンの描く異形たちは、どこかかわいらしく、ユーモラスで、そしてさみしげだ。
荒々しい化け物ではなく、暗がりにひっそりと佇むものたちは、暗闇の中ではなく逢魔が時こそふさわしい。
ゆっくりと手を伸ばしたなら、意思の疎通ができそうな気すらしてくるのだ。

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『起源』 3.不格好なポリープは薄笑いを浮かべた醜い一つ目巨人のように岸辺を漂っていた

 

水木しげるみたいだね
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エドガー・ポーに』 1.瞳は奇妙な気球のように無限に向かう

 

f:id:minnagi:20170530153031j:imageキュクプロス 
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 ルドンは不可思議な闇のイメージが強いけれど、明るい世界も描いている。
このような世界に彼を引き出したのが妻と子の存在だという話がすごく好きだ。
これは丸の内の三菱1号館美術館で(毎回じゃないけど)見ることができる、とても大きな絵だ。
美しい花瓶からこぼれる花々はそれでも深海生物のような不思議な存在感を放っている。
夢のような世界で私はとても好きだ。

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グラン・ブーケ

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岐阜県美術館は日本一なだけでなく世界有数のルドンコレクションを持っている。
公式サイトでお気に入りの1枚を探してみるのはとても楽しいと思うよ。

岐阜県美術館|所蔵品作品詳細|蜘蛛